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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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お別れ

 内見を済ませてからは、なかなかに忙しい日々が続いた。仕事の合間を縫っては、事前に用意できる書類を作成していく。引き渡しが済んでから用意しなくてはいけない書類もあるため、できることは前もってやっておく。


 「こういう書類って苦手なんだよな」


 好きだと言う人はいないだろうが、それでも愚痴をこぼさずにはいられない。


 「手伝えることがあったらするのだけれど……」


 フィオナが申し訳なさそうに困った顔をするので、俺は笑顔を作ってフィオナに向ける。


 「今は大丈夫。これは俺にしかできないことだからね。引き渡しが済んだ後に、引っ越し作業とか手伝ってくれると嬉しいな」


 「それなら、任せてちょうだい」


 今はできることがなくても、やることがあると聞いて気合いを入れるフィオナを、俺は頼もしく思う。


 「ルッカも手伝うんだぞ!」


 「うん、期待してるよ」


 そんな会話をしながらも、俺は書類にペンを走らせていた。


 いざ不動産屋を交えての話し合いを始めてみると、話し合いは非常にスムーズに進んだ。


 「相場よりかなり安くなってますけど、大丈夫ですか? あまり安いと差額分が贈与として見られる可能性もありますが」


 と、不動産屋の担当者から指摘されたくらいだ。俺は「え、そうなの?」と思ったが、千代さんは「問題ありません」と言う。


 「土地相場はそうでしょうが、建物自体は古く価値が無いこと、解体費用を含めた金額であること、建て直す際に建ぺい率の問題から同じように建てられないこと、そして重要なのが、この方と私は他人であるということです」


 千代さんの説明に、担当者も「まあ、大丈夫だとは思います」と言ってくれた。


 滞りなく話は進み、事前の話し合いの通り、八百万円での売買となった。ローンでも問題ないと言ってくれたので、ローンでの支払いにしてもらった。仮に千代さんが亡くなってしまった場合は、小日向の口座に振り込むことになっている。宅建士から説明を受け、書類にサインをする。そこで一旦解散となった。


 後日、今度は銀行に集まって決済と引き渡しになる。今度は宅建士ではなく司法書士が付いている。司法書士に書類を確認してもらってから、千代さんの口座に購入資金の頭金を振り込む。不動産屋に手数料の支払いと固定資産税の精算も済ませ、鍵を受け取る。その後の書類の手続きを司法書士がしてくれるらしい。およそ一時間ほどで終わった。


 すべてが終わり、銀行を出ると、俺は千代さんに向き直る。


 「今日はありがとうございました」


 頭を下げると、千代さんも丁寧に返してくれる。


 「こちらこそ、ありがとう。これでなんの憂いもなく残りの人生を楽しめるわ」


 そう言って優しく笑ってくれた。握りしめた鍵を見つめると、感慨深い気持ちになる。


 「一軒家を買うって、昔は想像もしなかったな」


 きっとフィオナとルッカがこの世界に来なければ、買う機会など無かっただろう。


 建物は即日入居ができるらしいが、喫茶店のままではルッカが使う店としては使えないので、リフォームする必要がある。


 「掃除なら任せて!」

 「内装をやり替えるんだぞ!」


 二人が張り切っているので、お願いすることにした。


 今の家から近いとは言えないが、そこまで遠くもないので、二人は通いながら掃除をしたり、内装をやり替えていく。俺も仕事が休みの日は一緒に作業したり、引き渡しが済んだことで作れるようになった書類を作成して警察署に届け出たりして、日々は流れていった。


 「完成だぞ!」


 家に帰ってきたルッカの第一声がそれだった。後から続いて帰ってきたフィオナも満足げな顔をしている。


 「掃除も一通り済んだわ。いつでも引っ越しできるわよ」


 とうとう引っ越しか、と家の中を見回す。一人暮らしを始めてからずっと住んでいた部屋だ。思い出が頭の中に浮かんでは消える。この家で、フィオナとルッカに初めて出会った日のことを思い出す。今では二人がいることが当たり前になっているんだなと、俺は思わず笑みをこぼした。


 「引っ越しの準備をしないとね」


 最初は引っ越し業者にでもお願いしようかと思っていたが、そのことを話すと、ルッカからストップがかかる。


 「勿体ないんだぞ。ルッカに任せるといいんだぞ!」


 そう言って自分の部屋に戻ったルッカが、ダイニングに戻ってくると、腕の中に抱えるほどの大きさの箱を持ってきた。


 「この中に仕舞えばいいんだぞ」


 「これは?」


 「マジックボックスだぞ。大容量のマジックバッグみたいなものだぞ」


 本当に便利だな、魔法。今はそのことに感謝をしつつ、荷物を詰めていく。何がどう入っているのかはまったく分からないが、入れたら入るのだから深くは考えない。魔法については、考えるだけ無駄だと思っている。


 「冷蔵庫とかも入るかな」


 「入るとは思うけれど、入れるまでが大変ね」


 フィオナの言葉に、確かにと頷く。


 「ルッカに任せるんだぞ」


 ガッと力を込めて、ルッカが冷蔵庫を持ち上げる。


 「え!?」


 驚きが口から漏れるが、ルッカは一人でそのまま冷蔵庫を箱の中に仕舞ってしまった。


 「中の食材とか入れっぱなしなんだけど……」


 恐ろしく逞しいルッカの頭をぽんぽん撫でる。


 「すごいね、ルッカ。ありがとう」


 「これくらいへっちゃらなんだぞ」


 嬉しそうに撫でられているルッカの横で、フィオナはムッとした顔になり、「なら私は洗濯機を運んでくるわ!」と脱衣所の方へ歩いていく。


 「一人は危ないよ」と声を掛けたが、「大丈夫よ」と言って止まらない。不安に思ったのも束の間、脱衣所の方から「ぎゃー!」と悲鳴に近い声が聞こえてきて、ルッカと慌てて脱衣所に入る。するとそこには、洗濯機を持ち上げる姿勢のまま固まっているフィオナの姿があった。


 「腰が……動けないわ……」


 悲痛なフィオナの声に、俺は心配の声を掛けることしかできなかった。結局、洗濯機もルッカがマジックボックスに入れて、フィオナはソファーで休んでいる。


 「病院にも行けないのは困るよね」


 行けないことはないだろうが、保険証がない。すべて自費になる。最悪それも構わないのだが、フィオナがそれを固辞した。


 「迂闊だったわ。とりあえず少し休めば問題はないわ……引っ越しが終わったら、自分で薬草を植えて薬を作ろうかしら……」


 「薬草って異世界の?」


 どうやって、という俺の疑問を感じたのか、フィオナが少しだけ顔を上げて答える。


 「植物に関する魔法なら、エルフはどの種族にも引けを取らないわ。魔力が多く必要にはなるけれど、種子を生み出すことだってできるのよ」


 「この世界で育てようと思ったら、空間に魔素を満たすことから始まるんだぞ。大変なんだぞ」


 そういえば、二人の世界では魔素が満ちているのだった。同じ環境で育てようと思えば、魔素の満ちた空間は必要不可欠であるらしい。


 「病気した時のことを思うと、必要なことよ」


 「分かった。手伝えることがあったら言ってね」


 「ええ、ありがとう」


 そこでバタッとフィオナが突っ伏した。腰が限界なのだろう。ルッカと二人でせっせと荷物をマジックボックスに詰めていく。しばらくそうしていると、家の中にあった物がすべてマジックボックスの中に入ってしまった。


 「すごいね、全部入っちゃった」


 「まだまだ容量は余ってるんだぞ」


 一体何を入れることを想定して作られているのか謎だが、異世界だと大きな魔物とかもいるのかなと思ったら、別に不思議でもなんでもない気がしてきた。感覚がおかしくなっているのだろうか。


 俺たち三人はフィオナが復活するのを待ってから、イーリンと仲間の野菜たちにもボックスに入ってもらう。荷物を持って家を出た。家を出る時、何も残っていない様子を見て、今までありがとうと心の中で呟いた。

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