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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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決断

 「ハロウィン、楽しかったね」


 仕事が終わって帰宅した俺は、写真立てに飾られた写真を見ながら、フィオナとルッカに話を振った。


 「そうね。衣装は恥ずかしかったけど……いい経験になったわ。この世界で暮らしていると、向こうでは経験できないことがたくさんあって楽しいわ」


 フィオナも同じように写真を眺めながら、目を細めて微笑む。


 「貰ったお菓子がまだまだあるんだぞ! ここはいい所なんだぞ!」


 チョコの付いたスナック菓子を頬張りながら言うルッカに、フィオナからの注意が飛ぶ。


 「ちょっと、もうすぐ晩ご飯の時間よ。お菓子は禁止!」

 「食前のお菓子はダメって言ったでしょう?」

 「ご、ごめんだぞ」


 少ししゅんとなってお菓子を片付けるルッカ。


 「たくさんあるから食べたくなる気持ちはわかるけど、普段のご飯も大事にしてね。フィオナの作ってくれるご飯は最高に美味しいんだから」


 「やだ、照れるじゃない」


 晩ご飯の調理にかかるフィオナは満面の笑みだった。美味しいご飯をずっと作ってくれているのだ、心からの感謝を伝えねば。


 「いつもありがとう。美味しい料理をいつも作ってくれるから、毎日が幸せだよ」


 「大袈裟よ。お世話になっているのだもの。これくらいは当然よ!」


 「いつもありがとうなんだぞ。ご飯は美味しいぞ! お菓子は別の時に食べるんだぞ」


 「ちゃんと分かってくれたらいいのよ」


 これでお菓子問題は解決だな。


 フィオナが料理を皿に盛り付けていく。俺はそれをテーブルに運び、全て運び終えるとみんなで席に座る。


 「じゃ、いただきます」


 料理の感想を言ったりしながら、まったりと食事をしていると、ふいにルッカが相談事を始めた。


 「最近、直した小型の家電やゲームがあまり売れてないんだぞ。ちまちま直してるのに、部屋の中が物で溢れかえって狭いんだぞ」


 「あー、まあこのご時世だしね。物価高とか、給料が上がらないとか、老後の資金とか、色々と言われてるんだ。買い渋っているんじゃないかなぁ」


 物価だけがどんどん上がっていき、賃金を上げていくという政府の方針にも、上がるのは一部の大企業等だけだ。俺のような小さい会社勤めには関係ないとさえ思える。


 「売れないのはしょうがないんだぞ。でも部屋が狭いのは困るんだぞ」


 「今は直してないのでしょう? じきに減っていくでしょう」


 ルッカが首を振りながら肩を落とす。


 「ちょっとずつ売れてはいるんだぞ。本当にちょっとずつだぞ」


 あまり売れ行きが良くないので困っているという。俺は腕を組んで、うーんと考える。


 「そろそろ、本格的に考えてみてもいいのかもしれないね」


 「ん? なにがだぞ?」


 「まあちょっとね。こっちでも考えておくから、少し待っていてくれる?」


 「分かったんだぞ」


 特に詳しく聞こうとはせずに素直に納得してくれる。ルッカはいい子なのだ。


 「無理はしないでちょうだいね」


 「大丈夫だよ、ありがとう」


 フィオナの心遣いにお礼を述べつつ、今後のことを考えながら晩ご飯を食べていた。


 翌日、俺は会社の作業場で仕事をこなしながら、小日向と会話をしていた。


 「この間の話、お願いできるかな」


 「ホントですか? ついに賃貸から脱出する決心がつきましたか」


 「色々と考えたよ。ここらで一軒家を持ってもいいかなって思えたから」


 以前、小日向に祖母のやっていた店舗付きの家を安くするから買わない? と声を掛けられていた。俺はそのご厚意に甘えることにしたのだ。


 以前から考えてはいた。部屋数は足りていても、三人揃うと狭いし、イーリンたちのこともある。どうせなら庭を使わせてあげたいと思うし、庭のスペース次第ではフィオナがまた作物を育てられるかもしれない。今回のルッカの話が決め手になった。


 「一度、見学させてもらってもいいかな。みんなで」


 「それは構いませんけど、預かっているんですよね? ずっと一緒に住む訳ではないでしょう?」


 「分からないんだ。場合によってはすぐにでも帰ってしまうかもしれないし、このまま家で預かることもあるかもしれない」


 帰還方法が分からなければ、ずっと家にいることだってありえる。多分そんなことにはならないだろうが、後のことを考えておくのは大事だろう。それに、帰ってしまったからといって家が無駄になる訳でもない。


 「そういうことなら、連絡しておきますね。一ノ瀬さんなら安心して引き渡せます」


 祖母が大事にしてきた自宅兼店舗だ、思い入れもあるだろう。きっと下手な人に売りたくなかったというのも、声を掛けてくれた理由の一つなのだろう。


 「ありがとう、頼むよ」


 こうして、物件の内見の約束を取り付けた。ルッカもそれなりに稼いでいて、生活費まで入れてくれているのだ。予算も何とかなるだろう。


 家に帰ると、今日の話をみんなに話して聞かせる。


 「という訳で、小日向さんの祖母から店舗兼自宅の物件を買う話になってるんだ。今度、内見させてもらうことになってるから」


 俺の話に、ルッカは大喜びといった様子で、ウキウキしているのがよくわかる。


 「店で売れるんだぞ!? 嬉しいぞ!」


 「本当にいいのかしら……私たちは元の世界に帰るかもしれないのに」


 どうもフィオナは申し訳無さそうではあるが、俺は胸を張って言い切った。


 「いいんだよ。俺がしたいことをしているんだから。それに、帰ってしまっても無駄にはならないさ」


 「凪……ありがとう」


 じーんと目を潤ませるフィオナの肩に、とんと軽く手を乗せて優しく言葉を重ねる。


 「帰る手段が見つかって、帰ってしまうとしても。それまで、この時間を大切にしたいし、たくさんいい思い出を持って帰って欲しいんだ」


 本当は帰って欲しくないという本音が顔に出ないよう、意識しながら喋る。いつからか当たり前になったこの三人の時間が、俺には大切で捨てがたいものになっている。きっと、家を買う理由のひとつには、そんな醜い欲望も含まれているのだろう。自分でもそう思うが、こればかりは仕方のないことだと思っている。いざ帰るとなった時、俺は素直に送り出せるのだろうかと不安になる。


 「また、内見の日が決まったら一緒に見に行こう」


 「分かったんだぞ!」


 「楽しみにしているわ」


 「なんじゃ、引っ越しするのか」


 唐突にカルミラの声が聞こえてきて驚く。どこだと探してみれば、いつの間にかソファーに寝転がっている。


 「いつも突然だね、カルミラは」


 「そういうもんじゃろ、吸血鬼じゃからな」


 「新しい家、楽しみだねー」


 カルミラの足元にいたらしいゼラも、ぷるぷる震えながらそう言う。


 「どうせじゃったら、全員見つかった時にはわしも世話になろうかのう。部屋も増えるのじゃろ?」


 「さあ、見てみないと分からないけどね」


 カルミラとゼラは現状住所不定だ。やはり落ち着いて暮らせる場所というのは必要だろう。もし全員見つかったら、また家が賑やかになるのかもしれない。


 「どちらにせよ、内見次第かな」


 小さい喫茶店をしていた店舗だと言っていたし、部屋数を見てみないとここから先は話が進まない。


 「まあ、わしも楽しみにしておくかのう」


 カルミラの今日の目的は血であったらしく、腕から血を吸うと礼を言って帰っていった。その後、ベランダに出てイーリンにも同じ話をした。


 『新しいお家!? お庭!? 嬉しい!』


 イーリンも庭があることに大喜び。やはりプランターでも問題はないが、広い庭には憧れがあるようだ。


 「内見してからにはなるけれど、引っ越ししたら庭に移してあげるからね」


 イーリンの頭を撫でていると、嬉しそうに頭を左右に振る。


 もしフィオナやルッカが元の世界に帰るとなった時、イーリンはどうするのだろう。この世界で生まれはしたが、きっと二人の世界の方がイーリンは暮らしやすいのではないだろうか。そう思うと、少し寂しい気持ちになった。

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