お菓子は仲良く
お菓子は仲良く
ハロウィン当日の夜、俺たちはルッカが作ってくれた衣装に着替えるため、それぞれ自室に向かった。何故か俺の分まで作ってくれたようで、せっかくだしと俺も仮装をすることになった。
「これ、似合うのかな……」
裕福な貴族が着ていそうな、仕立てのいいスーツのような衣装を着込む。鏡で見てみても、なんだか衣装に負けているような気がしなくもない。
部屋を出てダイニングに戻ると、ルッカは既に着替え終わっていたようで、手裏剣を構えてポーズを決めていた。わざわざ作ったのか、手裏剣はなんと鉄製だ。
「似合うんだぞ?」
「元気なルッカにはよく似合ってるよ。でもそれ、手裏剣は危ないから絶対投げちゃダメだよ」
似合っていると言われて嬉しそうではあるのだが、手裏剣を投げてはダメと言われて不服そうにしている。
くいっとズボンを引っ張られる感触に下を向くと、イーリンも仮装をしていた。
『似合う?』
モコモコの毛に包まれ、頭にくるっと曲がった角が付いている。羊なのかな?
「可愛いよ。羊っぽいけど合ってるのかな」
「ヴァリアントシープだぞ」
ああ、小人族が毛を集めていたあの羊かと納得する。なぜ羊なのかと思ったが、ゲームでも見かけたので印象に残っていたのだろう。
その時、フィオナがゆっくり扉を開けて部屋から出てきた。
「こ、これ似合っているのかしら……ちょっと露出が多い気もするのだけれど」
恥ずかしそうに出てきたフィオナだが、俺は思わず凝視してしまった。ミニスカートのナース服だった。タイツを履いているようだが、太ももが自然と目に入ってしまう。あまりにも魅力的な光景に、釘付けになっていた。
「ちょっと凪、そんなにじろじろ見ないでちょうだい」
「ご、ごめん」
慌てて視線を逸らすが、つい目線がフィオナの方を向いてしまう。フィオナは恥ずかしそうにするだけで、特に何も言わない。よく見ると、耳が少し赤くなっている。
「どうだぞ? 自信作だぞ」
ルッカが胸を張ってそう言うので、俺はつい「最高だよ」と答えてしまった。
「なーぎ?」
目が怖いよ、フィオナさん……。
「別にフィオナは家を回る訳じゃないんだぞ。問題ないんだぞ」
「それはそうかもしれないけれど……」
むむむ、と眉間に皺を寄せるフィオナだが、まぁ今更よねと諦めた様子だ。
「待たせたかのう」
カルミラの声が響く。その直後、宙に黒い何かが浮かび上がると、その周囲の空間が歪む。その歪みからゼラを抱えたカルミラが現れた。
「いや、いま全員着替え終わったところだから。カルミラはいつも通り?」
黒いいつものワンピースドレスを身にまとったカルミラは、ちっちっちっと指を振った。
「少しの変化にも気づけないのでは、女心は掴めんぞ?」
言われてよく見ると、そういえば今日はローブを羽織っているなと気が付いた。
「もしかしてその黒いローブ?」
「そうじゃ。わしはそこなドワーフほど器用ではないからのう。ローブだけならばなんとか用意はできた。ゼラとお揃いじゃ」
小さめのゼラに合わせたローブをゼラに被せると、満足そうに頷くカルミラ。
「うむ、よく似合っておる」
「ほんとー? 僕、似合うー?」
「かっこいいよ、ゼラ」
俺も褒めると、ゼラが嬉しそうにぷるぷる震える。可愛い。
「そういえば、凪の同僚も来るのよね」
「多分そろそろ来ると思うけど……ちょうど来たみたいだね」
家のインターホンが鳴る。まだ子供たちが来る時間までは少し時間があるので、多分小日向だろう。
玄関へ行き、扉を開けると、とんがり帽を被った魔女の格好をした小日向が立っていた。
「ハッピーハロウィン!」
「ハッピーハロウィンって返せばいいのかな。いらっしゃい、小日向さん」
フィオナほどではないが、裾が少し短めのスカートに、上は長いローブのようなものを羽織っている。そしてなんというか、すごく胸が強調されている。
「こ、これはその。昔に使ったハロウィンの衣装なんですけど、まだ着られると思ってたのに、いざ今日着てみたら少し小さくてですね」
「無理に仮装する必要はなかったのでは?」
「私一人だけ私服とかだと勿体ないというか、空気に馴染めなさそうで……少し無理をしてしまいました」
「まあとにかく、上がって」
小日向を家の中へ招き入れる。部屋の中へ入ってきた小日向を見て、一番反応が強かったのはやはりフィオナだった。
「大きいわね……私より大きいわよね?」
小声で何か言っている。目が怖いので黙っておこう。
「あら可愛い! あなたがルッカちゃん?」
「ルッカはルッカだぞ!」
忍者っぽくポーズを決めるルッカの挨拶に、小日向がほくそ笑む。
「そしてあなたがフィオナさんね」
「ええ、よろしく」
フィオナの目の奥に、闘志のようなものが見え隠れしている気がするが気にしない。そこに、ひょこひょことイーリンが歩いて近付いてくる。
『こんにちは!』
ホワイトボードで律儀に挨拶をしているが、流石に見られると困る光景だ。認識をズラす魔法が効いていることを祈るが、俺の心配は杞憂だったようだ。
「あら、可愛らしいワンちゃん。飼い始めたんですか?」
「そ、そうなんだ! 可愛くて一目惚れしちゃって」
助かった。どうやらイーリンは犬に見えているらしい。心の中でフィオナに感謝する。
「お主が小日向とやらじゃな。話は聞いておるぞ」
相変わらず偉そうな口調でカルミラも挨拶をする。
「えーと、貴方は?」
「わしはカルミラじゃ。そこの凪とは仲良くさせてもらっておる」
「そうなの。近所の子かな? 随分と役に入りきっているのね」
「役とはなんじゃ、わしは元からこうじゃ!」
ぷんぷんして見せるが、それも役作りの一環として見られているようで、カルミラを見る目はなんとも生暖かかった。
「その猫ちゃんも可愛いですね。お揃いの衣装だなんて素敵」
ゼラはスライムか、ペット枠なんだな。
「これで一通り顔合わせも済んだかな。そろそろ子供たちが来てもいい時間だし、お菓子の準備しなきゃ。ルッカたちも準備したら行っていいからね」
「分かったんだぞ!」
お菓子を入れる袋を持つと、ルッカとカルミラがイーリンとゼラを連れて家から出ていく。いくつお菓子が貰えるかなと楽しげな会話をしながら出ていくみんなは、とてもいい笑顔だった。
小袋を分けて、お菓子の詰め合わせを作っていく。
「そういえば、訳あって預かっていると言ってましたけど、外国の方ですよね。フィオナさんもルッカさんも」
「ああ、まぁそうだね」
細かいことは決めてなかったので、なんと説明しようかなと頭の中で考えていると、フィオナが代わりに話を合わせてくれた。
「こちらの知り合いを頼って日本に来たのだけれど、その人が調子を崩しちゃって入院してしまったのよ。その人が凪と知り合いだったから、しばらくの間、お世話になることになったの」
「んー、そうだぞー」
ルッカはよく分かってなさそうだが、とりあえず相槌を打っている。
「そうなんですか。大変ですね」
お菓子を詰め替えながら話をする小日向。
「でも、フィオナさんはお年頃ですよね。気になりませんか? 一ノ瀬さんは男の人ですし」
「全然平気よ。凪は優しいし、紳士よ。たまにいやらしい目をすることはあるけれど」
「ちょっとフィオナ!」
慌てて止めに入るが、もう遅い。小日向は小さく笑いながら俺を見て目を細める。
「仲良しなんですね、羨ましいです」
「でしょう?」
作業をしていると、ピンポンとチャイムが鳴る。どうやら時間になったようだ。
玄関のドアを開けると、子供たちが「トリックオアトリート!」と笑顔で手を出してくる。「はい」とお菓子を渡すと、「ありがとー!」と元気に去っていく。子供は元気で可愛い。
途中、ルッカたち異世界組もこの家に来て「トリックオアトリート!」とお菓子をねだっていった。後で渡すのにな、と思ったが、それとこれは別の分らしい。ちゃっかりしている。
たくさんのお菓子を持って帰ってきた四人はとても嬉しそうだった。貰ったお菓子は後で食べるらしく、それぞれしまいこむと、小日向が持ってきたお菓子をみんなで仲良く食べていた。
「それじゃあ、撮りますよ!」
小日向さんがカメラを三脚に立てて、タイマーをセットする。俺を中心に、みんなが思い思いの場所で好きなポーズを取っている。ルッカは相変わらずの忍者ポーズで、思わず笑ってしまう。隣でフィオナが少し恥ずかしそうにピースをしているのが横目に見える。カルミラがゼラを抱き、イーリンは真ん中手前で転がっている。
写真にも認識をズラす魔法は適応されるらしいので問題はないのだが、せっかくの写真にゼラもイーリンもそのまま写れないのは可哀想なので、後で小日向が帰った後にもう一枚写真を撮ろうと思っている。
端に小日向が並ぶ。これで全員が揃った。
「はい、チーズ!」
後日、その時に撮った写真と、後で撮った写真を一緒に写真立てに入れて飾っている。たとえみんなが帰ってしまったとしても、この時間は忘れないだろう。




