どんな仮装にしよう
この間のゲームの一件以降、男女の話には少し躊躇してしまう自分がいる。カルミラに言われたことだが、なんでも――
「少し恋愛ゲームとしての調整はある。と言っても、考えや思考を塗り替えたりする訳ではないぞ? 恋愛しやすい空気感とでも言うべきかの。そういうのを作ったり、選択肢を作って恋愛の方向へ持っていったり等はしておる」
とのことだ。なぜそんなゲームを作ったのかと抗議をしたのだが、大筋を作ったのはルッカだと言う。
「凪はフィオナのこと好きじゃないのかだぞ? フィオナは凪のこと……なんでもないんだぞ。ちょっと背中を押してあげるだけのつもりだ痛い痛いんだぞ!」
途中、フィオナに睨まれ、頭をグリグリされていたルッカの供述に、俺は何も言えなかった。
そんなこんなで、俺とフィオナの間には微妙な空気感がある。避けるという訳ではないが、男女を意識してしまう瞬間を極力なくそうとしている。じゃないと、この関係が壊れてしまいそうで怖かった。のだが……
「どっちなの? 男? 女?」
詰めてくる。フィオナがすごく詰めてくる。俺は諦めて答えた。
「ええと、女です……」
「へぇ、女なのね」
ずいっと顔を寄せてくるフィオナの圧が強い。ちょっと身構えてしまう。
「仕事の同僚なんだ。色々相談に乗ってもらったり、逆に相談を聞いたりするような仲ではあるけど、恋愛云々の関係じゃないから、ただの友達だから!」
俺は何を言い訳しているのだろうか。別にフィオナとはゲームの中という特殊な状況でそういう間柄になっただけだ。ちょっと意識しすぎているのかもしれない。
「まぁいいわ。あまり交友関係にまで口を出すのもどうかと思うしね。でも凪、あなた周りにいる人間が女ばっかりじゃないかしら」
そう言われてみれば、その通りなのだが。それは俺が悪いのだろうか。なんて答えるのが正解なのか。
「男の友達だっているよ! 大学の頃の友達で、少し忙しくて疎遠っていうか、あんまり連絡は取れてないけど、いないって訳じゃないからね」
まくし立てるようにそう言う俺の額からは、玉のような汗が流れる。
「まぁいいのだけれど。私は別に凪と付き合っている訳でもないし? 好きにしたらいいと思うわ」
「う……」
何も言えなくなる俺だった。そこにルッカが空気を読まずに爆弾を放り投げた。
「なんで二人は付き合わないんだぞ? お互いに好き合ってるんじゃないのかだぞ?」
ピシッと固まる俺とフィオナ。お互いの顔を見て、少し顔が赤くなるのを感じる。先に動き出したのはフィオナだった。
「簡単にそう言わないでちょうだい! そもそも、私は別に凪のことを好きだとは……」
そこで言葉を切るフィオナ。続きが出てこないようで、口をパクパクさせているが言葉にはなっていない。
「そ、それにさ。仮に本当に俺とフィオナが、仮にだよ? 好き同士だったとしても、いずれ二人は元の世界に帰ってしまうかもしれないんだよ。エルフと人間という問題もあるし、簡単に好きだから付き合おうとはならないよ……」
俺とフィオナの間にある問題は、とても大きい。心に重く何かがのしかかっているような気がして、冷たい気持ちになってしまう。
「そんなものなのかだぞ」
ルッカも微妙な顔をしている。誰も喋らない沈黙が少し続いて、俺は思い切って話の続きを喋り始める。
「まぁ、そんな訳でさ。ハロウィン用に着飾ったルッカたちをぜひ直接見たい、挨拶したいってことだから。いいかな?」
「ルッカは全然いいんだぞ。お菓子待ってるんだぞ」
「私も構わないわよ」
二人に許可をもらったので、ベランダに出てイーリンにも同じ話をする。
「イーリンも、いいかな。人を呼んでも」
『別にいいよ!』
「ありがと」
イーリンとゼラに関しては魔法で偽装するから問題はないだろう。とりあえず、カルミラとゼラにも話を通しておかないとな。
翌日、カルミラがゼラを連れてやってきた。定期的に血やご飯をねだりに来るので、いつ来るかは非常に読みやすくて助かる。
「という訳で、当日こっちの世界の知り合いが訪ねてくるからさ。カルミラとゼラもいいかな」
「構わんぞ。お菓子をくれるのじゃろ?」
「お菓子ー! 嬉しいー!」
二人ともお菓子目当てではあるが、賛成してくれたことにホッとする。
「ところで、カルミラも参加するの? 貰う側で?」
「この格好なら子供に見えるじゃろ? お菓子を貰える機会を逃すこともあるまい?」
実にカルミラらしい。カルミラは魔力を使って体を成長させたりもできるが、節約のために子供のような見た目になっている。
「そういえばゲームの中では大人になってたよね」
「ああ、先生という設定じゃったからな。流石にこの姿では格好がつくまい」
それはそうかもしれない。保健の先生としては少し見た目の破壊力があった気がしなくもないのだが。どことは言わないが。
「まぁそういう訳だから、当日はよろしくね。変なところだけ見られないようにしてほしい」
魔法を使ったりはしないだろうが、どこからみんなが普通の人間とは違うとバレるのか分からない。念には念を入れて対策をする必要はあるだろう。
「認識をズラす魔法が解けたり、変なことを喋らないように気をつけてほしいんだ。異世界人だともしバレようものなら大変なことになるだろうからね。今更言うことでもないかもしれないけどさ」
「まぁ今更じゃな。そんな下手は打たんよ」
「気をつけるー!」
カルミラがゼラを撫でる。その後、フィオナが家庭ごみをゼラに処理してもらい、お礼にプリンをあげていた。器用に触手でスプーンを握って食べる姿に、とても癒された。
さらに翌日、ルッカがミシンを使って当日の衣装であろうものを作っていた。
「どんな衣装を作ってるの?」
「忍者だぞ!」
参考にしている絵を見せてもらったが、某有名漫画の忍者の服だった。
「ハロウィンって魔女とかカボチャとか幽霊のイメージがあるけど、忍者でもいいのかな……」
うーんとルッカが首を傾げる。
「参考に色々見たんだぞ。でもなんか、仮装って感じがしなかったんだぞ」
仮装という感じがしない、という意味がよく分からず、なんとなくフィオナの方を見る。
「そうね。いわゆる魔女の衣装というのは魔法使いのローブのことでしょう? 幽霊といえばレイス系の魔物のことですし。向こうにはパンプキンスプライトというカボチャの魔物がいますし……」
「そ、そうなんだ……」
どれも向こうの世界では一般的であるらしい。確かにそれだと仮装感は薄いだろう。
「でも何故に忍者?」
「この国を代表するアニメだぞ」
俺は苦笑しながらルッカの頭を撫でた。
「確かにね。頑張ってね」
「勿論だぞ! イーリンの分も後で作るんだぞ!」
そう言ってルッカが張り切って衣装を作っていく。手伝おうかと声を掛けてみたが、「大丈夫なんだぞ!」というので応援に留めている。俺はフィオナと、その作業風景を二人で眺めていた。
「ところで、フィオナは仮装しないの?」
ぶっと飲んでいたお茶を少し吹いてしまうフィオナが、咳き込みながら俺を睨む。
「突然何を言うのよ。私は子供じゃないし、お菓子を貰いに回ったりしないわよ?」
「いや、それは分かってるんだけどさ。みんな仮装するみたいだし、どうせならフィオナも仮装したらいいんじゃないかと思って」
「そうは言っても、衣装も作らないといけないし、その日着るためだけに作るのもどうかと思ってしまうのよね……」
「別にルッカが作るんだぞ? 仮装するんだぞ?」
渋るフィオナにルッカが助け舟を出す。だがフィオナの反応は今ひとつだ。
「助かるけれど……そこまでしてもらって、仮装する必要があるのかしら」
「そうだなぁ、どうせなら俺も見てみたい。それじゃダメかな」
「べ、別にダメではないわ」
フィオナが照れて少し伏し目がちになる。
「じゃあフィオナのためにすごい仮装を作るんだぞ!」
「ごめんね、お願いしてもいいかな」
「任せるんだぞ!」
「へ、変なのはやめてちょうだいね!」
こうして、フィオナも一緒に仮装することとなった。記念にたくさん、写真も撮ろう。




