スライム発見伝
1度落ち着いて話をしようということで、ゲームから出てきた俺たちはダイニングに集まった。俺とフィオナ、ルッカにカルミラが椅子に座る。
『疲れたから、僕は休むね』
「お疲れ様、イーリン」
イーリンはベランダに戻ってプランターの中に埋まって休むようだ。年齢という概念がそのまま当てはまるのかは謎だが、まだ生まれて数ヶ月だ。体力もあまりないのかもしれない。
「で、ゼラがどうしたというのじゃ?」
ゼラはカルミラがダンジョンを探索していた際に一緒に潜っていて、行方不明になった仲間のスライムだ。こちらの世界にカルミラが来たことで、同じように来ているのではと、カルミラから見かけたら教えてほしいと言われていたのだ。
「ゲームの中で、捨てられていたスライムを保護したんだけど、喋るスライムで名前もゼラって名乗ったんだ」
「たくさん食べるっていうから、ゴミ処理施設まで連れていったんだぞ」
「な、なんじゃと?」
「ゲームにわざわざキャラクターとして出したわけではないのでしょう?」
「出しておらん。基本的にお主ら以外の存在に関しては、なんとなくそういう存在として認識する程度の作り込みじゃ。たまに喋ったり、賑やかしを振る程度で、深く関わることのない存在なのじゃ」
つまり、ゼラは意図して出したわけではない。モブとしているはずのない存在であるらしい。
「つまり、どこかにゼラがいて、ゲームの中に一緒に入り込んだってこと?」
「その可能性がいちばん高いのじゃが……」
モブのキャラクターとして存在できないのならば、プレイヤーとして参加するしかない。だが、当然この場にはゼラはいない。
「そんな広範囲にゲームは影響するのかしら」
「そんなことはないんだぞ。関係ない人をたくさん巻き込んでしまうんだぞ」
それはそうだよな、と俺は思う。ならばゼラはどこにいるのだろう。
「そういえば、ゼラをお風呂に連れていったきりだね。確か水場が必要なんだよね」
「乾きに弱いからのう。近くにいるというならば、その風呂場にいたりしてのう」
「いくらなんでもそんなことは……」
「ルッカが見てくるんだぞ!」
椅子から立ち上がって、さっさと風呂場の方へ向かうルッカを見送る。
「少なくとも、昨日の夜は居なかったわよね?」
「そうだね、俺も見てないよ」
いくらなんでも、昨日の今日で風呂場にいたりはしないと思うが……それもゲームと同じ風呂場には。
「いたぞー!」
ルッカの叫び声と、ドタドタと走る音が響く。ダイニングに走って戻って来ているようだ。
「な、なんじゃとー!?」
俺とフィオナは反応することも出来なかったが、カルミラも驚いて叫んだだけで、それ以降は言葉にならないらしい。口は動いているのに、言葉が出てこない。
「ほら、ゼラだぞ!」
「初めまして? じゃないねー。ゼラだよー」
ゲームの中で見たままの、プルプルとした水色のスライムで、細長い目が顔の部分にある。口らしき部分は見当たらない。なんとも可愛らしい。
呑気に挨拶をするゼラを、ルッカから奪い取るようにカルミラが抱えると、優しくぎゅっと抱きしめる。
「おお、生きておったかゼラよ……! わしがどれだけ心配したことか……」
「カルミラは心配しょーだから。僕はなんでも食べられるから、ご飯の心配はいらないのにー」
「飯の話だけではなかろう! 住むところもない、この世界で動くスライムというだけで見世物にされる可能性だってあったのじゃぞ?」
確かに、この世界にはスライムなんて居ないのだから、見つかると当然大騒ぎになるだろう。カルミラと同時期にやってきたのなら、数年はこの世界にいたはずだが。
「ずっと隠れてたの?」
「んーとね、見たことない物がたくさんあって、色んなところにある字が読めないの。どんな所に飛ばされたのかも分からないし、どんな人達が暮らしているのかも分からなかったから、見つからないようにしてたよー」
「すごく偉いね……賢いスライムなんだね」
思った以上に知能が高いことに驚くが、この知能の高さが、魔物ではなく魔族として例外的に認められている所以なのだろう。
「こやつは下手な魔族よりよっぽど賢いぞ? やれ破壊や殺戮じゃと言い出す頭の悪い魔族より、よっぽどの」
異世界の怖さは先日のすごろくゲームで堪能したばかりだ。ゼラのように賢く理性ある魔族ばかりであったなら、世界は平和だっただろうなと思う。
「まぁとにかく、1人……いや、1匹? 見つかって良かったじゃない」
「そうだぞ、お祝いだぞ!」
既にルッカの中では記念パーティーを開催することが決まっているらしい。ご馳走が食べたいと顔に書いてある。
「そうじゃな。あとの2人も見つかると良いのじゃが……今まで見つからなかったのに、随分あっさりとゼラが見つかって少し驚いておる」
数年探して見つからなかったのに、気付いたら我が家の風呂場にいたのだ。誰だって驚く。
「ゼラはどうしてうちの風呂場に?」
「あのねー、いつだったかな。ピンクのお花が咲きだしたくらいにねー、この辺に来たらいいって教えてくれたのー」
ピンクのお花というのは桜のことだろうか。教えてもらったというのが分からないが。
「教えてもらったって、誰に?」
「んーとね、分からないのー。頭の中に聞こえてきたのー」
「どういうことなんだぞ?」
俺も分からず、ルッカと一緒になって首を捻っていた。
「春といえば、あれじゃないかしら。私たちがここに来た原因の魔法陣よ」
「え、でもあれで呼ばれたのはフィオナとルッカだけで、ゼラは既にこの世界にいたはずだから関係ないんじゃない?」
「そうでもないかもしれないわよ?」
そう言って、じいちゃんの本を取り出したフィオナ。
「この魔法陣、私がなんて言ったか覚えてる?」
「えーと確か、『巡る因果の魔法陣』だっけ」
「因果のう。まぁ言いたいことは分かるのじゃが、そんな都合のいい話があるのかのう」
「えーと、ごめん。どういうこと?」
会話の内容についていけず、詳しい説明を求める俺に答えてくれたのはフィオナだった。
「因果っていうのは、原因があってその結果があるっていう論理的な意味もあるけれど、運命みたいなニュアンスもあるのよね。つまり、私とルッカがここに呼ばれたのは、そういう運命……この世界に訪れることがそうなのか、それとも凪と出会うことがそうなのか、その両方っていう可能性もあるけれど」
「えーと、つまり?」
「お主の周りに、わしらのような異世界組が集まっているのでは、という話じゃ」
なんとも簡潔にまとめられた話に、俺はやっと納得できた。
「なるほどなんだぞ。つまりこのまま普通に生活してたら、残りの2人もやってくるってことだぞ?」
「今の話の流れじゃと、その可能性は非常に高いとわしは思う。ゼラが導かれたようにの」
「イリスとセラフィアもここにくるのー?」
「おそらくの」
ゼラを撫でながら答えるカルミラは、これまでに見たことのない優しい顔をしていた。
「ところで、ゼラはどうするの? カルミラと一緒に暮らす?」
「そうするー!」
ゼラはカルミラと共に、引き続き仲間を探しながら一緒に暮らすらしい。
「ここに集まるかもしれんが、断定は出来んしの。わしらも引き続き探していく」
「分かった、また見つけたら連絡するよ」
「いつでも遊びにいらっしゃい」
「待ってるんだぞ!」
二人の言葉に、ゼラが嬉しそうにぷるぷる震える。
「その時は、美味しいご飯でも一緒に食べよう。ゴミばかりっていうのも味気ないよね」
「ほんとー!? 嬉しいー!」
ゼラには味覚もあるらしく、ゴミが不味いというわけではないらしいが、美味しいものは美味しく感じられるとのことだった。
「よーし、それじゃあ今日はゼラが無事に見つかったお祝いだ。ピザでも頼もうか」
「やったぞー!」
いちばん喜んだのはルッカだったのは、まぁ予想通りかな。みんなでデリバリーしたピザを美味しく頂いた。ゼラも喜んで食べていた。口が見当たらないのにどうやって食べるのかと思っていたら、自らの体を伸ばして触手のようにすると、その触手でピザを掴んで口元に持っていく。すると、触れた部分から溶けるように消えていくのだ。
「そうやって食べるんだね」
「スライムは大体こうじゃな。触手が出せるのはこやつだけじゃが」
本来は犬食いスタイルなのかな。それにしても、食べる姿も可愛い。つい見てしまって、気が付いた時にはピザがなくなっていた。全然食べられなかった……




