次に憑かれるのはあなた
女性陣によるコンサートが、大きな拍手とともに幕を閉じた。最後は息を切らしながらも、やり切ったことにみな笑顔を浮かべていた。俺は惜しみない拍手を送った。
「ウオォ、魔王さま最高!」
「愛してる魔王さまー!」
「はぁはぁ、魔王さま……」
リリスは魔族たちからとても愛されているようだ。熱烈なファンからの声援を受け、満面の笑みで手を振り、カーテシーをするリリス。視線をずらすと、舞台の下からローアングルでスカートの中を覗き込もうとしていた魔族……あれはさっき檻に閉じ込められていたストーカーのモグラだ。が、警備をしていた別のモグラに縄を掛けられ連れていかれているのが見えた。再逮捕である。
「追跡費用いらなかったのでは……?」
ゲームのシステムに文句を付けてもしょうがないのだが……解せぬ。
「お疲れ様なのだ。服は戻してやるのだ」
リリスが衣装に変えた時と同様、再び指を鳴らすと、元の服に戻る3人。
「それにしても、魔王がアイドルやってるのか。なんか変わってるね」
俺のつぶやきにカルミラが肩を竦めながら答える。
「元々、狂信的なファンが奴には何故か多くての。そのまま魔王に担ぎあげられたのじゃ。どうせなら、人気を活かして魔族のイメージアップをとアイドルの真似事を始めたのじゃが、これが思いのほかハマってしまっての」
結果、このあり様と。形はどうあれ、それでいい方向に向かうなら全然ありだな、とリリスを見て思った。
「ふぅ、疲れたわ」
肩を回しながらフィオナが小さく息を吐く。
「そういえば、全員ゴール地点にいるんだぞ。マグノリアはどうなるんだぞ?」
全員が一斉にマグノリアの姿を探して視線を彷徨わせた。肝心のマグノリアは、一緒に隅の方で踊っていたようだ。全然気付かなかった……同じように、マグノリアも息を切らせている。
「わたくしの、美しさを、全世界に……ひろめてやりますわ……!」
「ぶれない王女様だなぁ……」
思わず呟いてしまった。
「まぁ、誰かがサイコロを振って移動したら、多分付いていくんじゃないかな?」
「そうね、その時には分かるでしょう多分」
俺の言葉にフィオナが反応する。
『ぼくではありませんように』
優勝候補筆頭のイーリンは是が非でも避けたいだろう。マグノリアが憑いてさえいなければ、運が良ければ道中にでも達成してしまいそうな勢いだ。
「じゃ次の目的地なんだぞ!」
再度鳴り響くドラムロール。次の目的地は『エルデリア聖王国首都』。決まった瞬間、フィオナの顔が歪む。
「大丈夫?」
帰れない故郷、カルミラでさえも吸血鬼の街を目にした時は泣くほどの郷愁を感じていたのだ。王女であるという思いの強いフィオナにとって、それがどれ程辛いことなのか、俺には理解してあげる事はできない。
「ええ、これはゲームですもの……」
フィオナの顔色は優れない。ルッカも心配そうに見ている。
「わしもあまり人の事は言えんが、ゲームは楽しくするものじゃ」
ポンポンとフィオナの頭を軽く叩くカルミラ。
「カルミラだって泣いてたじゃない」
ふっと苦笑しながらそう言うフィオナの顔色が少しマシになった気がした。
『僕もいるよ!』
イーリンも慰めようとしているのか、フィオナの足にぎゅっと抱きついてスリスリしている。フィオナが優しくイーリンの頭を撫でていた。
「ルッカの手番からだぞ」
逆順してるので、次はルッカの手番だ。気合十分に3つのサイコロを転がす。
1度スタート地点のはじまりの神殿まで戻らなくてはいけない。
2、2、2、『6』。
「ゾロ目だぞ。サイコロ1個分しかないぞ……」
ボヤいていると周囲の景色が変わる。熱気に包まれた、マグマの流れる灼熱の火山と思しき場所に、ルッカが悲鳴をあげる。
「なんだぞ!?暑すぎるぞ!」
周りの物陰から、数種類の魔物が姿を表す。赤いスライム、炎を纏ったコウモリ、火を吹くトカゲ……明らかに全てが火属性、という感じだ。
「レッドスライム、フレイムバット、レッサーサラマンダーじゃな。どいつも貴重な火属性の素材が採れる魔物じゃ」
『チャレンジマス!』
『全ての魔物を討伐せよ!』
全ての魔物がルッカをギロリと睨む。あまりの迫力に、ルッカが「ふぇ!」と竦む。
「まともに戦ったら消し炭だぞ!これを使うんだぞ!」
アイテムカードを掲げるルッカ。
『アイテムカード、診断書を使用しました!1ターンの間身体能力が低下する代わりに、チャレンジをスキップする!』
今にも襲いかかろうとしていた魔物が、すごすごと物陰に戻っていく。どうやら戦いは避けられたようだ。
「ふう、これで安心だぞ」
少しぐったりしているように見えるが、これが身体能力低下の影響なのだろう。一安心とばかりに安堵の息を吐くルッカだったが、それで終わらなかった。
「あらあら、魔物は逃げてしまったのねぇ。臆病なこと」
ルッカの背後から声が聞こえる。ルッカが慌てて振り返ると、そこにはマグノリアがいた。
「や、やっぱりルッカなんだぞ?」
到着時点で1番遠かったのはルッカだ。本人も薄々はそうなんじゃないかとは思っていたのだろう、そこまでの驚きはないようだ。
「わたくしに恐れをなして逃げ出したのかしら?それも致し方ありませんわね、何せわたくしですもの!」
おーほっほほ、と高笑いしながら、近くにあった石を拾い上げると、物陰に向かって投げた!
「臆病者はそうやってずっと物陰に隠れてなさい!おーっほっほ!」
すると、物陰から先程隠れた魔物たちが……怒り狂って出てきた!
「え、ちょっ」
「な、何よ!やるっていうの!?わたくしが誰か知っての事ですの!?ほら、わたくしを守りなさい!」
「やなんだぞ!体が重くてまともに戦えないんだぞ!」
「体を張りなさい、わたくしを守って盾になるのよ!」
ルッカの背後で、逃げないようにガシッと体を掴まれる。
「ちょっ!うわぁぁぁ!」
目の前から、襲いかかる魔物の群れ。ルッカは見事に、肉の盾としての仕事を果たした……。




