こじ開けられるトラウマ
こじ開けられるトラウマ
「よし、振るぞ!」
フィオナのアイテムカードの効果でサイコロが3つ。ここで、マグノリアとお別れするんだ!強い意志とともに、サイコロを転がした。2、2、3。『7』。
がっくしと膝をついてしまう。このまま最下位でゲーム終わるのかな……
景色が変わり、目の前にはたくさんの檻がある。洞窟の中なのか、土の独房と通路の間を、鉄の柵が遮っている。
「なんの檻だろ」
目の前の檻は空だったが、少し先に目をやると、檻の中で暴れているものがいる事に気が付いた。
「出せやコラー!」
「皆殺しにしてやんぞオメェら!」
「舐めてんじゃねーぞ!」
「僕はストーカーじゃないこれは純愛だから、ただ愛してるだけで罪なのか?そんな訳ない愛というのは尊いものだ何者にも妨げる権利なんてないんだここに閉じ込めるなんて権利の侵害だ、横暴だ!ただ好き過ぎるだけなんだー!」
最後の奴が1番ヤバそうなのは気のせいではないだろう。目がイッてる。
「気性の荒い者の中でも面倒な奴らは何かしでかすと、ここに放り込まれるのじゃ。この辺りでは何故か魔法が使えん。封印されし土地だとか、魔法無効化の魔道具が埋まってるとか色々言われておるが、理由は謎じゃ」
「不思議な場所もあるのね……」
フィオナにとって、魔法が使えないというのは死活問題だろう。嫌そうな顔をしているのが分かる。
『チャレンジマス!』
『間違った愛を持つ囚人に正しい愛の在り方を伝えろ!』
目の前に光る鍵が現れる。
「まさか……」
先程のストーカー発言をしていた魔族の檻の扉が光っていた。そもそも話を聞いてくれなさそうなのだが……
「愛とは、食事を与える事だぞ」
『愛は水やり!』
「愛ね……その、やっぱり最初は手を繋いで、徐々に距離を詰めてからのキス……かしら」
ルッカとイーリンは分かりやすくていいなと苦笑する。照れながら愛について語るフィオナはピュアすぎてこっちも照れてしまう。
「愛のう。やはり余すことなく血を頂く事かのう。独占欲というやつじゃな。今は出来んがのう」
「いや、それだけはないでしょ」
吸血鬼の愛は死が前提だった。怖すぎる。
俺はため息を付きながら問題の魔族の檻の中へ鍵を開けて入った。中にいたのは、魔王さま♡と書かれたハチマキを額に巻いた、モグラであった。
「おい、僕をここから出せ!もう何日も彼女に会えてないんだ、気が狂いそうになってるんだぞ!ああ早く会いたい遠くからでもいいからずっと眺めていたい」
このストーカーに愛を伝える。無理じゃないかなぁ……
「あのね、愛は押し付けるものじゃないよ。相手の気持ちを考えて上げないと……それにストーカーはダメだよ」
なんとか正しい愛を伝えようと必死に考えながら喋るが……
「お前、モテないだろ。そんな奥手で相手が振り向くとでも?そもそも認知されなきゃ話は始まらないんだよ!お前はアレだ、好きなやつが出来ても少しずつ慎重に距離を詰めようとして、その間にもチャラい男がセクハラ紛いな事をしたりして強引に距離を詰められた結果その女を取られて泣いてるタイプだろ」
「ぐぅ!?」
それは中学校の時の事だ。真面目そうな少し長めのおかっぱ髪が似合う、メガネを掛けた委員長。俺も真面目な生徒として適切な距離を保って、少しずつ一緒に話をする時間を作ったり登下校出来るように時間を合わせたりして、そんな時に。クラスの中でも特にチャラい不良の奴が、「あいつ多分脱いだら凄いぜ?」とか言いだして嫌がる彼女にセクハラしているのを、俺は勇気を出して止めたりしていたのだが。気付いたら、その不良と委員長が付き合っていたのだ……
心の傷を的確に抉られた俺に、それ以上の言葉は出なかった。ただ、崩れ落ちて泣くことしか出来なかった。
『チャレンジ失敗!愛は伝わらず、被害者が出てしまった!被害者に見舞金を支払った!マイナス4万R!』
お金以上にダメージを受けた俺を、フィオナが慰めてくれる。
「その、昔の事を忘れるのは無理でしょうけど、きっといい人が現れますわ。美人で優しくて凪の事を大好きな人が……」
「自分のことを言ってるぞ?」
「……違うわよ!」
落ち込む俺には、フィオナが否定するまで間があった事に気が付かなかった。2人の掛け合いに、少しだけ気力が戻る。今はゲーム中だ、過去の事は……一旦記憶の隅に封印しよう。
「随分と虚しいお話ですこと。報われない恋なんてなんの為にするんですの?権力とお金を振りかざして娶ればいいだけの話ですのに」
相変わらずのワガママぶりを自信満々に披露するマグノリア。
「僕たちの話はアピールする手段の話であって、強引に結婚したい訳じゃない!」
ストーカーがキレた。ストーカーなりの美学を傷つけてしまったようだ。
「どのような手段を取っても、あなたごときでは無理ですわぁ。報われない恋がお望みなら、この美人で王女である私を推しなさい!」
モグラは嫌そうにペッ!とマグノリアに唾をはきかけた!
「や、やりましたわね!この!打ち首よ!打ち首よーーー!」
その場で暴れ回るマグノリアは、恐ろしく凶暴であった。ベッドを壊し、柵を壊し……破壊の限りを尽くした。
『マグノリアが檻を破壊し、囚人が脱走した!追跡費用を負担する羽目になった!マイナス4万R!』
この世界に神はいなのだろか。




