博打とは失敗するもの
「じゃあ振るんだぞ!」
ルッカの手番、サイコロを転がす。出目は『4』。景色が変わる。そこは木で出来た簡易な家が建ち並ぶ、山村のような場所だった。外には誰もおらず、家の中からルッカを覗いている複数の目が光る。
「ここは獣人族の里じゃ。アビスカルド唯一の森の中で狩りをしながら生活をしておる」
ルッカに悪意がないと分かったのか、恐る恐るではあるが家から獣人族たちがちらほら出てきた。ルッカが笑顔で手を振ると、獣人族の子供が輝くような笑顔でルッカに近寄ってきた。
「遊んでー!」
「いいぞ、何して遊ぶんだぞー?」
わいわいと話す姿は、見ていると非常に和む。
「凄く可愛らしいわね。それが隠れ住まなきゃいけなくなるなんて、可哀想よね」
フィオナが悲しそうな顔で俯く。
「しょうがない部分もあるんじゃがの。本来気さくですぐ懐く、可愛らしい種族なんじゃが、そのせいで戦争していた頃はよく狩られてのう。ペット扱いされたり労働力兼夜の相手をさせられたり……警戒心が強くなるのも致し方なしじゃ」
このゲームを始めてから、色々とこの世界の事を知る事が出来たが、なんというか世知辛い話が多い。生き抜くだけでも大変な世界だ。何度でも思う、日本に生まれて良かったと。
『チャレンジマス!』
『子供たちに笑顔を届けよ!』
「なんか分かりにくいチャレンジだぞ」
笑顔を届けるか……確かに、ただ笑顔を届けると言われても何をどうするのか、皆目見当もつかない。ルッカはどうするのだろうか。
「とにかく、遊ぶんだぞ!」
難しく考える事はやめて、一緒に遊ぶことにしたようだ。追いかけっこをして子供たちから逃げ回ったり、短距離走をして誰が速いか競ってみたり、森の中を駆け抜けて一緒に狩りをしたり……走ってばっかりだ。子供たちが満足する頃には、ルッカの息は絶え絶えだった。足もガクガクと笑っているように見える。
「はぁ、はぁ……楽しかったんだぞ?」
「楽しかったー!」「また遊びたいー!」
子供たちは嬉しそうだ。満面の笑みが幾つもそこには広がっていた。
『CLEAR!』
『子供たちに笑顔が広がった!親たちからお礼を貰った!5万R!アイテムを手に入れた!』
「お、いいアイテムを手に入れたんだぞ!早速使うんだぞ!」
『アイテムカード、運命のコインを使用しました!コインを投げて、表なら目的地までひとっ飛び!裏なら逆方向へ目的地へのマス分ひとっ飛び!』
かなりギャンブル性のあるカードだ。たしかに現状は目的地まで1番遠いし、フィオナや俺が移動のアイテムを持っていたらマグノリアが憑く可能性が高い。
「投げるぞ……」
運命の一投。果たして結果は―
『裏』。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルッカが叫んで次の瞬間、吹っ飛んでいく。比喩とかではなく、本当に。
目的地まで14マスだったルッカは残り28マスの位置、つまり正反対のミルヴァン小王国領まで飛ばされた。そこはつまり、魔の森であった……
イベント終了後にアイテムを使ったのがまだ救いだろうか。魔の森に飛ばされはしたものの、そこでルッカの手番は終了となった。
「私が決めるわ!」
フィオナがアイテムカードを掲げて使用した。カードから光が溢れる。
『アイテムカード、共有サイコロを使用しました!全員のサイコロが1度だけ3つに増えます!』
フィオナがサイコロを3つ握りしめる。そして、転がした!
5、3、4……『12』!惜しい!1足りなかった。
「く……」
全員のサイコロが増える以上、ここで決められなかったら俺かイーリンがゴールするだろう。悔しそうに顔が歪む。
そしてフィオナの周りの景色が変わる。
綺麗に形が整えられた岩を組んで作られた家や、中にはテントが建っていたりもする。統一されていない感じが、魔族っぽいなと街並みを見て思う。
「なんていうか、吸血鬼の街は豪華な城!って感じだったけど、他は随分質素な感じだね」
「見た目に拘る魔族はそう多くはないからの。食って行ければいいという連中が大半じゃ。ここはアビスカルド城下町、アビスフール。現魔王に心酔する魔族どもが暮らしておる。1番多いのはモルディ……モグラどもじゃ」
よく見ると、地面の色が他とは違う場所が複数ある。掘って埋めた後なのだろう。
「そういえば魔王って見た事無いんだぞ」
「そういえばそうね。アビスカルドから出たという話を、そもそも聞いた事がないわ」
ルッカの呟きに、フィオナが相槌を打つ。
「まぁなんというか、魔王は魔王なのじゃが……ゴールしたら分かることじゃ、己の目で確かめてみる事じゃ」
煮え切らない感じではあるが、確かにゴールすればわかる事だ。
『イベントマス!』
『魔王の悪口を喋っているのを聞かれてしまった!住民にタコ殴りにされて身ぐるみを剥がされた!マイナス5万R!』
「酷いわ!」
何故か着ていた服がツギハギのボロ布のようになり、あまりにも踏んだり蹴ったりなフィオナに、俺は「ドンマイ……」と慰める事しか出来なかった。




