駆け上がるよ何処までも
気が付くと、俺は崖の上に転がっていた。脳裏には先程襲いかかってきたワイバーンの姿が蘇る。
「うおっ!」
慌てて全身を確認するが、怪我はない。落ちている途中で意識を失った為に、なんとか無事に(?)切り抜けられたようだ。
「あれしきの事で情けないですこと。殿方らしく勇敢に戦って喰われればよろしいのよ」
無茶苦茶な事を言うマグノリアを、ついジトっと睨んでしまう。マグノリアがサイコロを転がしたのだ、お前のせいだろと言いたくもなる……。
「な、何よ!睨むなんて無礼よ私は王女なのよ!?打ち首にするわよ!」
目を釣り上げてキーキー叫ぶ。なんだか本当に打ち首にされそうな気がして、必死に心を落ち着かせて謝った。
「ごめんなさい、睨んだわけではないんです。美しくて見とれてしまいました」
「見とれ……ならしょうがないわね、わたくしは美しいものね。更に綺麗になって差し上げますから、美容の為に3万Rほど頂きますわぁ」
一瞬でにこやかな笑顔になるマグノリア。そして盗られるお金。
「そうよね、綺麗な女を見るとすぐ見とれてボーッとするわよね、カルミラの時も……」
なぜか違う爆弾に火がついた気がする……
「もちろん、フィオナの時もね。最初に見た時はあまりの綺麗さに言葉も出なかったよ。どうしてもその、男だしさ」
俺は何を言っているのだろうか。頭が回らなくなってきた。
「ちょ、綺麗って凪……ああもう、皆が見てるじゃない!」
慌てふためいて、両手をバタバタさせて顔を真っ赤にするフィオナは、やっぱり綺麗だった。
『チャレンジ失敗!慌ててお金を落としてしまった!マイナス4万R!』
お金を失うよりも悲惨な目にあった気がする。
なんとかフィオナの機嫌も治り、続いてイーリンの手番。前回と同じように執事がサイコロを丁寧に転がす。出目は『6』。
「イーリンってほんとにサイコロ運強いね」
最初からゲームを通して、イーリンはずば抜けて5や6を出す確率が高い。
『すごい?すごい?』
頬を掻くような仕草をしながらホワイトボードを手に持つイーリンは、すごく可愛い。
「うん、すごいよほんと」
えへへと照れるイーリンの周囲が、真っ暗な空間に変わった。空は暗く、陽の光が差し込まない空間。辺りには立派な装飾の施された、小さな城とでも呼ぶべき建造物が複数建っている。その中でも一際大きい、まさに城という感じの建物の前にイーリンは立っていた。
「おおお、懐かしいのう……あれは我が家じゃ……」
号泣である。ゲームとはいえ帰れなくなった故郷を再び目にすれば、あまりの嬉しさに泣きたくもなるだろう。
「ということは、ここは吸血鬼の街って事か」
建物の数自体は少ないが、どの城も非常に凝った作りをしていて、同じような物は1つとしてない。拘りを感じる。
「特に名前がある訳では無いが、吸血鬼の自治区じゃ。運営なんかは我が家で行っておる。まぁ運営とは言っても、意見をまとめるだけじゃがの。一応王城に税を収めておるぞ」
税を収めて、その代わりにそれ以外の事は全て自分たちで決めるというのが、吸血鬼たちのルールらしい。
『チャレンジマス!』
『吸血鬼の困り事を解決しろ!』
「困り事のう、やはり吸血じゃろうかの」
「血が吸えないから?」
正確には同意がないと吸えない、だが。
「別に吸えなくても普通の食事を摂ればいいでしょう?」
「おやつは我慢なんだぞ」
それぞれの指摘に、いやいやと首を振る。
「極論飲まなくても死なん、が!吸血鬼としての力は衰えていくのじゃ。全く血が飲めないとなると、全く力が使えなくなって最終的には……ただの夜行性の人間になるのじゃ」
なんと悲しい生き物なのだろうか。涙を禁じ得ない。
「なんとか血を分けてもらいながら、慎ましやかに生きているのが現状じゃ。労働を対価としたり、色々とギブアンドテイクの関係を築けるよう努力しておる」
「そうなのね……知らなかったわ」
難しい顔でフィオナがそう言うと同時、カルミラの姿が消えた。
「な、なんじゃ!?」
声がした方を見ると、イーリンのワイプの中にカルミラがいる。
「カルミラが吸血鬼の代表って事だぞ?」
「なるほどのう?ならば、改めて言おう。我らに血を!あびるほど飲める量の血を!」
イーリンが難しい顔で考えている。しばらくすると、バッと顔を上げる。なにか閃いたらしい。ホワイトボードになにかを書き込むと、執事に見せる。
「なるほど、理解しました。ご用意させて頂きます」
スッと姿が消えたかと思うと、すぐにまた現れる。
「こちら、ご所望の品です」
手渡されたのは、注射器?ホワイトボードに再び書き込むイーリン。
『血を直接飲まずに集める!』
これは、あれだ。献血だ。しかし、注射器があるなら献血という発想にはならなかったのだろうか。
「注射器は向こうには無いわ。でも、ないなら作ればいいわよね」
「た、たしかになんだぞ」
「そ、その手があったか!」
こちらの世界に飛ばされて、知識としては知っていたのだろうが、血を集めるという発想にはならなかったようで、膝を地面について項垂れている。悔しいらしい。
「帰ることが出来たら、やってみるのじゃ!ありがとう、ありがとう……!」
泣きながらお礼を言うカルミラ。こうして吸血鬼は救われた……のかな?
『CLEAR!』
『吸血鬼という種の存亡の危機を救った!吸血鬼たちから感謝され、謝礼金を貰った!プラス4万R!爵位が上がった!』
「どの国でも爵位って上がるんだ……」
そもそもこのゲームにおける爵位の重要性が謎なのだが。そもそも爵位を得たのはイーリンだけだし。
その時、イーリンがアイテムカードを掲げた。
『アイテムカード、招き猫を使用しました!次ターン行動不能になる代わりに、報酬が倍に増えた!』
「な、なんだってー!?」
報酬が4万から8万に跳ねた!なんとイーリンはもう資金が43万、圧倒的だ。更に――
『侯爵になった!』
なんと、爵位まで2段階上昇していた。
「流石でございます、侯爵さま」
一体イーリンは何処を目指しているのだろうか。




