ドワーフは酒豪です
「最初の目的地は……ここだぞ!」
ドラムロールと共に、地名が書かれた地図が全員の前に表示される。各地が点滅を繰り返し、ピタッと音が止んだと同時にひとつの地名のみが光っている。
「ミルヴァン小王国……小人族の国じゃの」
小人族という響に想像が掻き立てられる。どれくらい小さいのだろうかと、ぼんやりと考える。
「まずは私からね、サイコロは……」
そう言った瞬間、フィオナの目の前にサイコロが現れる。
「手番になるとサイコロが出てくるんだぞ」
ルッカの説明を聞きながら、フィオナはサイコロを握りしめ、迷いなく地面へと放った。
『4』
地図で確認すると、ミルヴァン小王国までの最短ルートでおよそ20マス、遠回りのルートだと32マスほどかかるらしい。
「この最短ルートだと魔物の多い魔の森を通る事になりますわね。危険な匂いがするわ」
そう言って、フィオナは迷うことなく遠回りのルートを選択した。慎重な判断だと思う。
フィオナの姿がその場から消え、代わりにワイプの画面が現れる。
「グラン王国領のクスペコ村ね」
ワイプ越しに見える村は、思っていたよりも活気があり、行き交う人々の中にはドワーフの姿が多く見られる。時折、別の種族と思しき者も混ざっている。
「複雑な会話とかは無理だぞ、少しならコミニケーションが取れるんだぞ」
ルッカの説明と同時に、ワイプが拡大されて周囲の様子がより鮮明に見えるようになる。
『チャレンジマス!』
吹き出しが現れ、すぐに消えたかと思うと、次の瞬間には内容が表示された。
『ドワーフとの飲み比べ対決だ!先に飲みきった方が勝者!』
フィオナの周囲の景色が一瞬で切り替わり、気付けば酒場のような場所にいる。目の前のテーブルには、なみなみと注がれたエールが入ったジョッキが五杯ずつ置かれており、正面には腕を組んだドワーフが仁王立ちしていた。
『俺と飲み比べたぁいい度胸よ!胸貸してやらぁ!』
「ちょっと、ドワーフと飲み比べなんて勝てないわよ!」
フィオナの抗議はもっともだが、どうやら聞き入れられる様子はない。カウントダウンが無情にも始まる。
「気合いで勝つんだぞ。負けたら罰金なんだぞ」
「一気じゃ!全部一気に飲むんじゃ!」
好き勝手に煽るルッカとカルミラ。これは完全にアルハラだと思うが、止める術はない。
『スタート!』
「やってやりますわよぉぉぉぉ!」
半ばやけくそ気味に、フィオナはジョッキを掴み一気にあおった。途端に顔が真っ赤になり、目がぐるぐると回り始める。一方で対戦相手のドワーフは、落ち着いた様子で確実に飲み進めている。
「早く次を飲むんだぞ」
「ほれほれどうしたのじゃ」
完全に面白がっている。
「もう無理……」
三杯目を飲み干したあたりで、フィオナはそのまま後ろに倒れ込んだ。かろうじて意識はあるようで、「私に勝とうなんて百年早いのよ……」などと呟いているが、その正面ではカンカンカン!と鐘の音が鳴り響き、ドワーフが勝利の雄叫びを上げている。
『チャレンジ失敗!マイナス2万R!』
表示された所持金が10万Rから8万Rへと減少する。
「これ、酔いは覚めるの?」
「次のターンが来たら覚めるんだぞ」
ぐったりとしたフィオナの姿に、少し同情してしまう。
「次は俺だね」
気を取り直してサイコロを手に取り、地面へと転がす。
『2』
「うーん、あんまり良くないな」
出目は微妙だが、進まないわけにはいかない。俺は少し考えた末に、最短ルートを選ぶことにした。危険だとしても、勝つためにはリスクを取るべきだろう。
視界が切り替わり、他のプレイヤーとはワイプで繋がる。隣には当然のようにカルミラが浮かんでいる。
「ここは……」
目の前には、鬱蒼とした森の入口が広がっていた。木々は不気味なほどに密集し、その奥からは言いようのない圧迫感が漂ってくる。
「ミルヴァン小王国領の魔の森入口じゃな、説明は不要じゃろう」
「主は勇気があるのう、怪我をすれば痛いと言っておったのにこのルートを選ぶとは」
確かに怖くないと言えば嘘になるが、それでも勝ちたいという気持ちの方が強い。それに、このゲームはただの遊びではないような気がしていた。
「優勝を狙ってるからね」
『チャレンジマス!』
再び文字が現れ、ぐにゃりと形を変える。
『魔の森から魔物が溢れた!魔物の群れを撃退しろ!』
「いや無理!」
どう考えても無理だ。武器もなければ戦う術もない。
「そんなお主に救済措置を授けるのじゃ〜!」
軽い効果音と共に、カルミラがどこからともなく槍を取り出す。
「絶対貫通槍じゃ」
「名前が強い」
「刺せば必ず刺さり、一撃必殺じゃ!お主専用じゃぞ」
「やるしかないか……!」
槍を握った瞬間、不思議と恐怖が薄れる。覚悟を決めて、目の前の魔物の群れへと突っ込んだ。
ザシュ、ザシュと音もなく敵が倒れていく。岩のような外殻を持つ魔物も、蛇の下半身を持つ異形も、すべて一撃で消えていく。
「ちょっとそれ強すぎないかしら……」
フィオナがぐったりしたまま抗議するが、もっともだと思う。
「無いよりはマシじゃろう」
カルミラは悪びれもなく言い放つ。
「うおおおお!」
夢中で突き進んでいたその時、死角から飛びかかってきた魔物の爪が腕をかすめた。
「痛っ!」
思わず顔を歪める。かすり傷とはいえ、確かに痛い。
「一気に終わらせる!」
長引かせるのは危険だと判断し、残りの敵へと一気に踏み込む。がむしゃらに槍を振るい、目の前の脅威を片っ端から排除していく。
『CLEAR!』
どうにか乗り切った。肩で息をしながら、その場に立ち尽くす。
『成功報酬でプラス5万R!』
「おめでとうなんだぞ!」
ルッカの声と拍手が聞こえる。フィオナも倒れたまま、力なく手を叩いてくれている。
「これで15万か……」
少しだけ達成感がある。
「大怪我すると次のターンまでそのままなんだぞ。いっそ死んだ方が軽傷なんだぞ」
「それは嫌だな……」
さらっと恐ろしい事を言うルッカに苦笑しながら、俺は次の展開に備えて息を整えた。




