飛び込めゲームへ
フィオナが調子を崩してお休みした翌日。俺は目を覚ましてフィオナの様子を見に行く。
「フィオナ、大丈夫?起きられる?」
扉越しに、軽くノックをしながら声をかける。結局昨日は部屋から出てこず、ルッカと2人で晩ご飯を食べた。きっとフィオナはお腹を空かせているだろう。
「おはよう、大丈夫よ。すぐ起きるわ」
良かった、大丈夫そうだ。返事があった事に安堵の息をつく。
「ゆっくりでいいよ、朝ごはんは用意しておくから」
「悪いわね、心配かけて」
短いやり取りだったが、この会話だけで少し心が軽くなった。昨日姿が見えなかったのが予想以上に堪えたらしいと、自分でも驚く。
ダイニングに行き、簡単な朝食を用意する。食パンにサラダ、あとウィンナーを焼いておく。机に並べていると、フィオナが部屋から出てくる。
「昨日はごめんなさい、すっかり寝ちゃってたみたい」
「全然いいよ、疲れた時はゆっくり休んで無理しないでね」
顔は笑っているのだが、目が笑っていないように見えて相当疲れているのかな、と少し心配になる。
「大丈夫だから、本当に気にしないでちょうだい」
こういう時、なんて声をかけるのが正解か分からずに少し悩んでいると、ルッカの部屋から大声で叫ぶ声が響く。
「出来たんだぞ!」
声がしたかと思うと、扉がバン!と開いてルッカがダイニングに出てきた。目の下のすごいクマを見る限り、夜通し作業をしていたのだろう。深夜テンションとでもいうのか、普段より3割増しくらいのハイテンションぶりだ。
「お、おはようルッカ。寝てないの?」
少したじろぎながらも心配する俺の肩をブンブン揺さぶりながら、血走った目を向けてくるルッカはなんというか、怖い。
「寝てる場合じゃないぞ!ついに完成したんだぞ!」
あまりの迫力と揺さぶられる衝撃でなにも言葉が出ない。
「ちょっとルッカ、そんなに揺さぶったら何も返事が出来ないわ」
フィオナが呆れたように口を挟み、なんとかルッカを落ち着かせる。3人で席に着き、そのまま朝ごはんを一緒に食べることになった。
「それで、何ができたの?」
食べながらルッカに話を振る。よく聞いてくれました、と言わんばかりに勢いよく喋りだした。
「皆で遊べるゲームだぞ!春からずっと作ってたんだぞ!」
この世界に来てすぐに作り始めたらしいゲームが、完成したらしい。話を聞くと、最初にゲームを直した時に閃いたらしいが、製作には魔法を使っているらしく、中々進まなかったようだ。
「食べ終わったらすぐに遊ぶんだぞ!」
ギョロっとした目が血走っているのを見て、ため息をつく。
「とりあえず、ゲームで遊ぶ前に1回寝てきなさい」
そう言うと、ルッカは「えー!」と不満の声を漏らすが、ダメなものはダメなのである。
「ルッカあなたね、目が充血して酷い事になってるわよ」
フィオナに言われてダイニングの姿見を見に行くルッカ。自分の状況に少し驚いているように感じる。
「嫌なら、ゲームで遊ぶのは無し!少しでいいから寝てくること!」
渋々といった様子で、食後に部屋に戻って行った。
「徹夜してまでゲームを作るなんて、よっぽど遊びたかったのかな」
フィオナは内心、昨日の今日なので元気づけてくれるつもりだったのかしら、とルッカの心遣いに感謝していた。
寝に戻ったルッカが部屋から出てきたのは、昼過ぎになってからだった。
「で、これがそのゲーム機?」
目の前にあるのは、どうみてもファ〇コンだ。懐かしい気分になる。
「ガワは流用したんだぞ。中身は全部1度分解して、部品一つ一つに魔法を付与しているんだぞ」
「それは大変だったでしょう、ただでさえ魔力の回復に時間が掛かるのに」
前に言っていたことを思い出す。体が作り出す微量の魔素を魔力に変換していると言っていた。気の遠くなる作業を数ヶ月かけて行ったルッカの努力を、俺は素直に賞賛した。
「ルッカは凄いね」
「それほどでもあるんだぞ!」
ご機嫌なルッカの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。
「それで、どんなゲームなの?」
「それはやってみてのお楽しみなんだぞ」
直前まで内容は秘密らしい。まぁそれは良いだろう。フィオナも少しではあるが目に力が戻ったような気がする。ルッカに感謝だな、と心の中で思う。
「じゃあ早速、起動するんだぞ」
そう言ってスイッチをオンにする。
すると、視界が歪んだ。
空間がねじ曲がるかのように、ぐるぐると回る世界。足元の感覚が消え、身体が引きずり込まれるような奇妙な浮遊感に包まれる。
その視界の隅に、微かにイーリンの姿と、黒い何かが現れるのを捉えたが、何かを認識するよりも先に意識が遠のいていく。
音も、光も、全てが途切れるように。
すぐに意識がブラックアウトした。




