行方不明の仲間たち
「ところで、何で今まで名乗らなかったの?」
心にメモしていた疑問をやっと口に出すことができた。
「初対面の相手にいきなり名乗る事はなかろう?ある程度信用ができてからじゃろうに」
それはそうなんだけど、何か腑に落ちない。
「それにじゃ、わしの名はちと通りが良すぎるでの。契約でもせん限りは明かさんようにしとる」
そうなの?と視線をフィオナに向けると、頷いて答える。
「カルミラ・ヴァレンシア。吸血鬼の真祖の直系ね。大物中の大物よ」
「噂ではいたずらに恐怖を撒き散らす迷惑娘とか言われてたんだぞ」
うげーという顔をするルッカ。
「心外じゃな。ちょっと人里に血の雨を降らせたり、魔物をけしかけたりした程度じゃぞ」
やれやれと手を振るカルミラを見て、なるほど迷惑娘だと納得する。
「まぁ安心されよ。契約もしたのじゃ。変な事はせんよ」
そうあって欲しいものだ。
「それと、これは契約とは関係なくお願いなのじゃが」
改まって姿勢を正すその様子は、確かに名家の娘らしい佇まいだった。
「わしの仲間を見かけたら知らせてほしいのじゃ」
「仲間?」
さっきまでの高飛車な態度とは違い、カルミラは心配そうに眉を下げている。
「先程のどうやってこの世界に来たのかという話にも繋がるのじゃが、結論から言うと事故じゃ」
「事故……行き来できる訳じゃないんだぞ?」
少し残念そうにルッカのハンマーが下がる。
「これ、当たるじゃろうが。そろそろ下ろしてもよかろ?」
ルッカは渋々といった様子でハンマーを下ろした。
「続きじゃ。わしは仲間と一緒にダンジョンを探索しておった。新しく発見されたダンジョンなんじゃが、どうも元からある洞窟がダンジョン化したようでの。それがなんと、かの賢者の隠し住まいだと判明したのじゃ」
興奮した様子で語るカルミラの話に、俺はダンジョンという言葉に思わず胸が高鳴る。
「どうして賢者の隠し住まいだと分かったのかしら?」
「先に潜った先遣隊が見つけたのじゃ。賢者の手記をの」
「それは凄い発見なんだぞ。歴史が変わるんだぞ」
どうやら本当に凄いことらしい。賢者の記録が残っているなら、魔法の研究も大きく進むのだろう。
「そこでわしは仲間とともにダンジョンに潜ったんじゃが、最初は順調じゃった。じゃが大広間に出た時じゃ。何やら魔法陣が光ったかと思うと、気付けばこっちの世界に来ておった」
「なるほど、つまりその仲間を探してると」
カルミラが静かに頷く。
「そうじゃ。わしと同じように飛ばされたはずなのじゃ。猫獣人族の女でイリス、スライムのゼラ、ドライアドのセレフィアじゃ」
頭の中で名前を整理しておく。
「中々個性的なメンツだね」
思ったまま口に出してしまったが、カルミラは気にした様子もなかった。
「皆小さい頃からの付き合いでの。その繋がりで今回の探索だったんじゃが……わしが誘ったばっかりにのう」
悔しそうに唇を噛むその姿に、軽口は引っ込めるしかなかった。
「分かった、見かけたら知らせるよ。でもどうやって連絡するの?」
よく考えたら連絡手段がない。
「これを渡しておこう」
渡されたのは小さなホイッスルだった。装飾の凝ったそれをまじまじと見ていると、カルミラが胸を張る。
「無くすなよ。貴重なんじゃから。その笛を吹けば音は鳴らんが、わしには伝わるからの」
なるほど、魔道具というやつか。
「はぁ、結局帰る手段は分からずじまいなのね」
肩を落とすフィオナの背中を、ルッカがぽんぽんと叩く。
「落ち込むことはないんだぞ。あの本を調べていたら、そのうち帰れるかもしれないんだぞ。帰れなくても美味しいご飯がここでは食べ放題なんだぞ」
慰めになっているのか分からない言葉に、フィオナは何とも言えない顔をする。
だがカルミラは、少し考えるようにしてから口を開いた。
「詳しくは覚えとらんが、魔法陣は確かに見た。あれは次元を跨ぐ転移陣じゃ。知る限りの情報なら提供しようぞ」
その言葉に、フィオナとルッカの表情が明るくなる。
手がかりが無かった状況から、一歩前に進んだのは間違いない。
それを良かったと思う気持ちと、胸の奥に引っかかる何かを感じながら、俺はその様子を見ていた。
「ところで、あそこにいる不思議生物はなんじゃ?」
カルミラが指さした先を見ると、カーテンの隙間から顔だけ出して震えているイーリンがいた。
バレた、というようにビクッと体を揺らすと、慌ててホワイトボードに何かを書き込む。
掲げられた文字を見て、思わず言葉を失った。
『やんのかこらー!』
なんでそこで喧嘩を売るんだよ。




