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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第二章 二人の王女と夏の思い出
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血の契約

「あんのクソ吸血鬼!」


ガバッと布団から起き上がったフィオナの第一声がこれだった。今まで出したことの無い声量で、自分を貶めた少女を罵倒する。


「なんじゃ、うるさいのう」


返事が返ってくると思っていなかったフィオナは、なぜか天井に張り付いている少女を確認すると、すぐさま魔法で消し飛ばそうと魔力を練る。


「消え去りなさいこの悪魔め!」


おびただしい数の風の塊が少女に向かって飛ぶ。細かいかまいたちのような風が幾つも少女に当たり、その体と服を切り裂いていく。


「おーおー、怖いのう」


しかし次の瞬間には風は消え、破れたはずの服も元通りになっていた。風で乱れた部屋の中も、何事も無かったかのように整っている。傷一つないその姿を見て、フィオナはわずかに息を呑んだ。


「あなた、何者なのよ」


「じゃから吸血鬼だと言っておろう。決して悪魔などではないぞ?」


震えを含んだ問いに、分かりきったことを聞くなと言わんばかりに答える少女。


「そんな事より、起きたのなら出てくるんじゃ。みな待っておるぞ」


そう言うや否や、少女の姿は唐突に消えた。


「はぁ……」


重いため息をつきながら、フィオナは部屋を出た。



「お、良かった。目が覚めたんだね」


ダイニングに戻ってきたフィオナを見て、俺は安堵の息をつく。


「ええ、なんとかね」


そう言うフィオナはどこか疲れたような顔をしている。


「それより、じゃ。起きたのなら契約を済ませるのじゃ」


待ちくたびれたと言わんばかりに急かしてくる少女。


「魔法ならフィオナに任せるんだぞ。変なことしないか、ルッカも見張っておくんだぞ」


いつの間に持ち出したのか、大きなハンマーを肩に担いだルッカが睨みを利かせている。


「とにもかくにも、じゃ。契約内容を詰めるのじゃ」


机を挟んで四人が向かい合う。俺の隣にフィオナ、正面に少女、その隣にルッカ。物々しい空気の中で話し合いが始まった。


「まず一番大事な事じゃ。わしが血を欲した時に、お主は少量の血を提供する義務を負う」


「待ちなさい。血を欲した時に凪が許可を出した場合にするべきよ。そうでないと場所も時間も関係なく来るでしょう」


フィオナがすぐさま修正を入れる。


「それだと断り続けることができるじゃろ。わしが血を飲めんくなるではないか」


確かにそれもそうだが、好き勝手に来られるのも困る。


「なら、血を欲した時、一時間以内に提供するのはどうなんだぞ」


ルッカの提案に、俺は頷く。


「俺はそれでいいと思う」


「まぁよかろう。多少の妥協は必要じゃな」


少女も渋々といった様子で同意した。


「じゃあ次はこっちの条件だね。求める情報の開示」


「ほう?」


少女が目を細める。


「この世界に来た方法と、元の世界に戻る方法。それが分かるなら教えてほしい」


フィオナが続けると、少女は納得したように頷いた。


「良かろう。他にも知りたいことがあれば、答えられる範囲で答えようぞ」


「あと名前ね。いつまでも仮名は面倒だから」


「分かっておるわ」


少しだけ不満そうにしながらも、少女は了承した。


「それともう一つ。わしが困っておる時は助けてほしいのじゃ」


その声には、今までの軽さとは違う切実さが滲んでいた。


「それはお互い様だな。こっちも困ってる時に助けてくれるならいいよ」


その言葉に、少女は満足そうに頷いた。


「では契約に移るのじゃ」


少女はどこから取り出したのか紙に今の内容を書き連ねていく。


「ここに名前と血を押すのじゃ」


示された場所に名前を書く。少女もその下に名前を書き、小さな刃で指を傷つけて血を押した。俺も指先に傷をつけて血を押す。


その瞬間、紙が燃え上がった。


「これで契約は完了じゃ」


立ち上がり、優雅に一礼する少女。


「改めて名乗ろう。わしの名はカルミラ・ヴァレンシアじゃ」


その仕草は気品に満ちていて、先程までの姿とは別人のようだった。


「……いや、さっきとの差がすごいな」


思わず呟くと、カルミラはふんと鼻を鳴らす。


「失礼なやつじゃのう。あれは非常事態じゃ」


「非常事態でも限度があるんだぞ」


ルッカの一言に、カルミラはぐっと言葉に詰まる。


「……うるさいのじゃ」


その様子に、フィオナが小さく息を吐いた。


「本当に大丈夫なのかしら、この契約」


「もう成立しておるのじゃ。今さらじゃぞ?」


どこか楽しげに笑うカルミラを見て、俺は軽く肩をすくめた。


不安がないわけじゃない。それでも。


「まぁ、なんとかなるだろ」


そう呟くと、カルミラがじっとこちらを見る。


「ずいぶんと楽観的じゃのう」


「今さら怖がっても仕方ないしね」


俺の言葉に、カルミラはくくっと笑った。


こうして、吸血鬼との奇妙な契約が結ばれた。


少なくとも、これから先が今まで以上に騒がしくなるのは間違いなさそうだった。

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