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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第二章 二人の王女と夏の思い出
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襲来

俺がいつも通りに出勤し、作業場で仕事をこなしていた。

同僚たちは配送に出ているので、今は俺ひとり。静かな空間で、注文の花を一本ずつ丁寧に刺していく。


 パチ、パチ、と花鋏の小さな音だけが響く。


「寂しそうじゃのう」


 背後から突然掛けられた声に、思わず心臓が跳ね上がる。


「うぉっ!」


 振り返ると、ほぼゼロ距離。

いつの間にか背後に立っていた吸血鬼の少女が、口元に手を当てて、わざとらしく耳元で囁いてきた。


「いきなり耳元に話しかけるのやめてくれる?心臓止まるかと思ったよ……えーと、よしのちゃんだっけ?」


 悪びれる様子もなく、少女――よしのちゃん(仮名)はケラケラと笑う。


「ゾクッとしたか?それは悪いことをしたのぅ。1人寂しかろうと思うてな、気を利かせてやったんじゃぞ?」


「そんな気の利かせ方はいらないよ」


 正面に向き直り、仕事を再開する。

これ以上付き合うと、間違いなくペースを乱される。


「なんじゃつれんのう。美少女と2人きりじゃぞ?発情しても構わんのじゃぞ?」


「俺はロリコンじゃないんでね」


 あまり相手をしても疲れるだけだと判断し、話半分に花を刺していく。


「今はこんな姿じゃが、血さえ貰えればのう、こうドカン!とのう」


 そう言って、自らの胸元を手で持ち上げるようにして強調する。


「そんなアンバランスな……」


「胸だけではないぞ?身長から何から、すべてがパワーアップじゃ」


 腕を組み、得意げに胸を張る少女。

なるほど、血をもらって本来の姿に戻りたい、ということか。


「やはり、わしが吸血鬼ということは聞いておるんじゃな」


「やはり?」


「一緒におった2人は、エルフとドワーフであろう?まさかこちらで同郷の者らと出会うとは思わなんだ」


 どうやら少女も気付いていたらしい。

お互いに、種族特有の何かを感じ取れるのだろうか。


「まぁ話には聞いたよ。残念だけど血はあげられないかな。死にたくはないからね」


「何を言っておる、死ぬほどは飲まんさ。少し分けてもらえればそれでよい」


 全く信用できない笑みを浮かべている。

正直、怖い。


「とか言いつつ、吸い尽くすつもりだったりしない?初対面の子をそんな簡単に信用はできないなぁ」


 もし裏切られたら、それで終わりだ。慎重にもなる。


「おや、聞いておらんのか?それとも、知らんのか」


「なんの事?」


「我々吸血鬼は、先の戦争以降、無断で吸血することは盟約によって禁じられている」


「うん、それは聞いた。契約しないと血は飲めないんだよね」


 ここまでは、フィオナたちから聞いた通りだ。


「で、その契約に“量の制限”を加えれば、何も問題はないというわけじゃ」


 なるほど。

確かに、全部吸われると分かって契約する奴はいない。


「今なら契約キャンペーン中じゃ!血を貰えれば、元の姿に戻った時に好きなだけ揉ませてやろうぞ?」


 一瞬、成長した姿を想像してしまう。

……いや、ダメだ。


「べ、別にそういうのは大丈夫、ノーサンキュー」


 少し声が裏返った気がするが、気にしない。

ここで負けるわけにはいかない。


 脳裏に、氷点下の表情をしたフィオナと、虫を見るような目のルッカが浮かんだ。


「それだけでは足りぬと……欲張りじゃのう」


 いつの間にか背後に回り、腰にぎゅっと抱きついてくる少女。


「ちょっと、そういうのほんと大丈夫だから……!」


 なんとか引き剥がすと、今度は目を潤ませて上目遣い。


「私じゃ、ダメですか……?いっぱい尽くしますから……」


「アプローチ変えてもダメ!」


 むぅ!と頬を膨らませ、ダンダンと床を踏み鳴らす。


「ちょっとくらいいいじゃろうが、ケチケチするでない!」


 俺は少し考える。


 この少女からは、こちらに来た経緯や、元の世界に戻る方法――聞きたいことが山ほどある。

少しの血で、それが手に入るのなら。


 あの2人のためになるなら、と。


「魔法的なことは分からないから、契約の話はフィオナとルッカ――あの時一緒にいた2人ね。あの2人がいる時にすること」


 指を一本立てて条件を示す。


「その時に、こっちの聞きたい情報をちゃんと全部話すこと」


 もう一本。


「あと、よしのちゃん(仮名)はやめて、ちゃんとした名前を教えること」


 言い切ると、少女の顔がぱぁっと明るくなった。


「うむ、いいじゃろう!」


 勢いよく頷く。


「久しぶりに血が飲めるのじゃ……長かったのぅ……」


 そう言って、じわりと目に涙を浮かべる。


 ……なんというか。


「……大丈夫?そんなに飢えてたの」


「うるさいわ!」


 即答だった。


 やっぱりどこか、残念なやつだなと思ってしまうのだった。

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