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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第二章 二人の王女と夏の思い出
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謎の少女

「食事を提供してくれたこと、感謝するぞ」


 妙に気位が高そうな少女は、腕を組みながら若干見下すような目線でそう言い放った。


 身に纏う真っ黒なワンピースドレスは、元は良いものなのだろうが、ところどころ擦り切れ、引っ掛けた跡もあり、少し薄汚れている。長い白髪に赤い目。妙に艶っぽく視線を集めるその見た目に、俺は――綺麗な人ではあるんだけど……と、どこか引っかかる感想を抱いた。


 「ちょっと、見すぎじゃないかしら」


 フィオナの、少し冷めた視線に気付く。


 「べ、別にそんなに見てないよ。変わった人だなって思っただけで」


 本人が目の前にいることも忘れて言い訳をする俺に、フィオナは呆れたようにため息をついた。


 「痴話喧嘩は後にするんだぞ」


 「「違うから(違いますから)」」


 ルッカの一言に、俺とフィオナの反論が見事に被る。


 「仲が良さそうじゃのう」


 少女はニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。


 少しだけイラッとした。八つ当たりかもしれないが、食事を与えてからかわれる筋合いはない。


 「で、君は誰なのかな」


 少し強めの口調で問いかける。


 「そうじゃなぁ……よしのちゃん(仮名)とでも名乗っておこうかの」


 仮名って言ってる時点で名乗る気ないよな、それ。


 「飯の恩はまた今度返そうぞ!ではな!」


 そう言った瞬間――


 気付けば、少女の姿は消えていた。


 「なんだったんだ……」


 呆然と、さっきまで少女がいた場所を見るが、そこにはもう何もない。


 「まぁ、詳しいことは家に帰ってから話しましょう」


 「そうだな」


 2人は何か知っている様子だ。帰ったら話を聞こう。


 「楽しい夏祭りの最後がこれって、なんか締まらないね」


 俺の言葉に、2人は苦笑いで頷いた。



 「で、何か知ってるの?」


 家に帰り、フィオナが3人分の飲み物を用意してくれた。俺はコーヒー、フィオナは冷たいお茶、ルッカは買ってきた炭酸飲料を手にしている。


 「あの女、吸血鬼よ」


 吸血鬼。


 この世界でも古くから語られる怪物だ。映画や漫画でよく見る存在だが、あくまでフィクションのはずだ。


 「よく映画とかで見る吸血鬼?」


 「似たような存在ではあるわ。微かにだけど、あの女から魔素が漏れていたの。あの白髪に赤い目、そして魔素……間違いなく私たちの世界の吸血鬼よ」


 「でも不思議なんだぞ。世界を跨ぐような転移魔法なんて存在しないはずなんだぞ」


 フィオナとルッカが来た時の魔法陣――あれは転移魔法とは別物らしい。


 「何かの事故か、それとも移動する手段を見つけたのか……一度話を聞く必要がありそうね」


 帰る手がかりになるかもしれない。


 そう思うのに、なぜか胸の奥が少しだけざわついた。


 「吸血鬼ってことは血を吸うんでしょ?早く見つけないとまずいんじゃない?その……人が死んだりとか」


 恐る恐る最悪のケースを口にする。


 「それはないから安心してちょうだい」


 即答だった。


 「血は飲まないの?吸血鬼なのに?」


 そういえば、さっきは空腹で倒れていた。血を吸えるなら、あんな状態にはならないはずだ。


 「盟約に縛られているなら、血は吸えないんだぞ」


 「盟約?」


 フィオナが説明を引き継ぐ。


 「昔は好き放題していたらしいけれど、翻訳魔法が完成してから、他種族と盟約を交わしたのよ。“契約を果たさない限り血を吸わない”って」


 「吸血鬼なのに、それでいいの?」


 「別に飲まなくても死にはしないんだぞ。血は嗜好品みたいなものなんだぞ」


 なるほど、おやつ感覚か。


 「そもそも、飲みすぎて問題になることが多かったのよ。自業自得ね」


 フィオナは肩をすくめる。


 「多分あいつはまた来るんだぞ。頼まれても血はあげない方がいいんだぞ」


 「分かったよ」


 素直に頷いたその時だった。


 くいっ、とズボンの裾が引っ張られる。


 視線を落とすと――


 イーリンがいた。


 「あ……」


 やってしまった。


 お土産、完全に忘れていた。


 ジュースもかき氷も、全部あの少女の腹の中だ。


 「いたいいたい!」


 思いっきり足を踏まれる。


 結局、ルッカが釣ってきたヨーヨーを渡すことでなんとか機嫌を直してくれた。


 ぽよんぽよんと弾ませて遊ぶイーリンは、すっかり上機嫌だった。

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