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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第二章 二人の王女と夏の思い出
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唐揚げと花火の行き倒れ

「そういえば、あっちに唐揚げの屋台があったんだぞ。まだ行ってないから行くんだぞ」


 手に持っていた食べ物をすべて平らげたルッカが、お腹をさすりながら屋台の方角を指さす。


 「ほんとにブラックホールみたいだね、ルッカは」


 少し苦笑気味にそう言うと、フィオナがなにか思い出したのか、あっという顔をする。


 「そういえば、前に息子が唐揚げの屋台をするらしいから食べに来てほしいって言われてたのよ」


 そういうやり取りがあったのか。地域に溶け込んできているようで、俺はどこか誇らしくなった。


 「なら、せっかくだし3人で行こうか」


 人通りが多くて狭い道を、間を縫うように進む。


 「はぐれないように手を繋ぎましょう」


 そう言ってフィオナがルッカの手を握る。


 「ルッカは子供じゃないんだぞ」


 少し頬を膨らませて抗議するルッカ。


 「ほら、凪も」


 すっと伸ばされる手を握るのに、俺は一瞬躊躇した。その迷いを感じてか、フィオナは寂しそうな顔で「ごめんなさい、別にいいのよ」と言って手を引こうとする。俺は思い切ってその手を掴んだ。


 「ごめんね、大丈夫だから」


 何が大丈夫なんだとか、なぜ躊躇したのかとか、自分に言いたいことは色々ある。ただ、フィオナの手を握った瞬間、ふとよぎった考えが頭から離れなかった。


 ――ずっと日本で暮らせばいいのに。


 「唐揚げ3つなんだぞ!」


 元気に注文するルッカに、店主が「はいよ!」と手早く揚げた唐揚げをコップ型の容器に詰めていく。


 「あなたのお父様から、ぜひ食べてやってくれって言われたのよ。息子想いのいい父親ね」


 フィオナはどこか羨ましそうに目を細めた。


 「おお、そうなのか。わざわざ来てくれてありがとよ!ほら、おまけ付けてやるから」


 一つずつ唐揚げを追加してくれる。3人でお礼を言って店を離れた。


 「やったんだぞ、唐揚げが増えたんだぞ!」


 嬉しそうにかぶりつくルッカ。


 その横で、フィオナは唐揚げを小さく齧りながら食べている。


 「美味しいわね……なんていうか、お祭りの味って感じがするわ」


 「お祭り味ってどんな味だろ」


 3人で笑い合う。穏やかで、平和な時間だった。


 「そろそろ花火が始まるよ。移動しようか」


 縁石に座っていた俺たちは、立ち上がって歩き出す。


 「花火はあっちから上がるはずだから……」


 指さした方向へ進みながら、ちょうどいい場所を探す。


 「あそこなら良く見えそうだぞ」


 木々が開けた場所に、すでに何人か集まっている。


 「じゃあここで見ようか」


 「絵では見たけれど、実際はどれくらい綺麗なのかしら。楽しみね」


 「どデカい花火を期待!なんだぞ!」


 思い思いに話していると、ひゅーっと一発目の花火が夜空に上がった。


 大きく咲いた光が、遅れて音を響かせる。


 「とても……綺麗ね」


 そう言って見上げるフィオナは、花火よりも目を引いた。


 「たーまやーなんだぞ!」


 「かぎやーってのもあるわよね」


 くすくすと笑い合う2人を、俺は花火と交互に眺めていた。


 「いやー、凄かったね」


 大学以来来ていなかった夏祭り。忙しさもあるが、一緒に来る相手がいなかったのも大きい。


 「ほんとに綺麗だったわ。最高ね」


 「こんなの向こうには無いんだぞ!作ってみたいぞ!」


 「いくらルッカでも火薬はちょっと怖いかな……」


 花火が終わり、祭りの終了アナウンスが流れる。俺たちも神社を後にした。


 浴衣と甚平を返すため、借りた店へ戻る。


 「はい、返却ですね。お写真撮りましょうか」


 「せっかくだし、お願いします」


 簡易の撮影ブースで、花火の夜景パネルを背に並ぶ。


 「じゃあ撮りますよ、3枚ほど」


 シャッター音が続き、撮影が終わる。


 「こうして形に残るのはいいわよね」


 「ルッカかわいく撮れてるんだぞ?」


 「現像したら2人にも渡すね」


 私服に着替えて店を出る。あとは帰るだけ――そう思った時だった。


 ぐきゅるるるる……


 家の近くの路地裏から、やけに大きな音が響いた。


 「ん?なんの音だろ……」


 「気をつけて。得体の知れないものかもしれないわ」


 「各員警戒!なんだぞ!」


 恐る恐る覗き込むと、人が倒れていた。


 「大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄る。


 ぐぎゅるるるるるる!


 また大きな音。どうやら腹の虫らしい。


 「お、お腹空いた……」


 思わず3人で固まる。


 その少女は、俺の持っているビニール袋をよだれを垂らしながら見つめていた。


 「美味しそうな匂いがする……それを私に……!」


 ぎらりと光る目に押されて、思わず差し出してしまう。


 「は、はいこれ……どうぞ」


 受け取るや否や、袋を開けて中のお好み焼きを猛スピードで食べ始める。


 「うまい……うみゃい……」


 涙を流しながら食べる少女を、俺たちはなんとも言えない目で見守るしかなかった。

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