街の賑わい
街の賑わい
「今日は安く買えたわね」
満足げにフィオナが微笑む。食費と生活費を入れているルッカとは違って、収入面で貢献出来てはいない事を引け目に感じているフィオナは、極力生活費を抑えられるようにセール情報は欠かさずチェックしている。
「安く買えた分、お菓子買っても……」
「だめよ、約束した分は買ったでしょう?」
以前、体調面から購入する金額を2人で約束したのだ。
「この国には、塵も積もれば山となるということわざがあるのよ」
フィオナがドヤっとしていると、ルッカが呟く。
「塵が山になったところで吹き飛ぶだけだぞ」
「そういう事が言いたいわけではないのよ」
とりとめのない会話をしながら歩いていると、わいわいとたくさんの人の話し声が聞こえてくる。声のする方へ視線を向けると、出店の屋台の骨組みを組んでいた。
「もうすぐ夏祭りね……」
声を掛け合い、協力してどんどん骨組みを組んでいく。
「差し入れもってきたよー」
うおおお、と叫ぶような声とともに、差し入れに群がる男衆。地域で協力して行う祭りは準備段階からお祭り騒ぎだ。
「楽しみなんだぞ」
ルッカもその光景を見ながら、期待に胸を膨らませる。
「お、嬢ちゃんたちもお祭りに来てくれるのかい」
近くで休憩していた中年の男から声を掛けられる。
「ええ、そのつもりですわ」
丁寧に返事をするフィオナ。ルッカも「行くんだぞ!」と元気に答える。
「そりゃ嬉しいね。息子も出店するらしいから食ってやってくれよ。唐揚げの屋台をするんだと」
「唐揚げ!絶対食べるんだぞ!」
男は嬉しそうにニッと笑うと、「そろそろ再開するぞ!」と声が掛かり、作業に戻っていった。
「温かいですわね」
人情の温かさを感じてそう零すフィオナの横でルッカが見当違いの事を言う。
「暖かいというか、暑いんだぞ」
「分かるよ、祭りって本番も楽しいけど、準備する時も楽しいんだよね」
風呂上がりに牛乳を飲みながら話すフィオナに、凪が久しぶりにゲームを起動しながら答える。
「凪もお祭りの準備をした事があるんですの?」
「お祭りって言っても、学生の頃の文化祭の事だけどね」
笑いながらそう言う凪だが、その顔からは大切な思い出なのだろうという事は伝わる。
「学生ね、日本では義務教育っていうのがあるのよね。素晴らしい取り組みだと思うわ」
「そっちの世界って識字率とかそんなに高くなかったりするの?」
以前読んだ異世界の話は、そんなに識字率が高くなかったので主人公が改革をする、というお話だった。
「どうかしら。王族はもちろん、貴族や商人は読めるし書けるわ。ただ、一般の民となるとそこまで高くは無いかもしれないわね」
「日々の生活で困らないなら勉強するより、働いてお金を稼いだり、親の手伝いに駆り出されたりするのかな、やっぱり」
「まぁそれが一般的かしらね」
日本に生まれてなんの不自由もなく生きられる事に、感謝の念を抱かずにはいられない。
「ルッカは小さい時からガンガン詰め込まれて大変だったんだぞ……」
「それは私もそうよ。王族ですもの、当然よ」
2人の会話を微笑ましげに見ていると、どうやら話を聞いていたらしいインリーが、くいっくいっと凪のズボンの裾を引っ張っている。
「ん?どうしたのインリー」
インリーが手で地面になにか書くような仕草をしている。
「なにか書くものがほしいの?」
インリーは手で×を作った。うーん、と考えているとそれを見ていたフィオナが「もしかして」と会話に加わる。
「勉強がしたいんじゃないかしら」
そんなまさかーと凪が思っていると、なんと正解だったらしい。手で丸を作って揺れている。
「うーん、勉強か……」
そうだ、と閃いた凪は以前フィオナとルッカに渡したあいうえお表と辞書をインリーに渡してあげた。
「これで勉強すれば、頑張って体で伝えなくても文字で伝えられるようになるよ」
インリーは喜んで受け取ると、それらを持ってベランダの方へかけて行った。
「偉いね、インリーも」
そう言って起動していたゲームを始める凪。
「あ、あれ?前は時々は勝ててたのになぁ」
インクをお互いに塗りあって戦うゲームなのだが、以前は勝っては負けてを繰り返していた。そこまで勝ちに執着している訳では無いが、やるからには勝ちたいくらいの気持ちはあるのだ。
「え?S+20!?」
プレイヤーの上手さに応じてランクがあるのだが、前に遊んだ時はS+0だったはずだ。それがなぜかあがっている。とてつもなく。
「ま、まさか……」
恐る恐る上位マッチのレートを見ると、2500までパワーが伸びていた。ちなみに以前は1200くらいだった。
「遊んでたら上がったんだぞ。ダメだったぞ?」
全然勝てないどころか周りの迷惑になるなと感じた凪は、そっとゲーム機の電源を落とした。
「ちなみに何使ってるの?」
「ダイ〇モなんだぞ」




