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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第二章 二人の王女と夏の思い出
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拗ねるイーリン

いつものように三人で朝ごはんを食べて、凪が出勤した朝。いつもなら水の催促に来るイーリンが姿を見せない。というより、海に行った日からずっと土の中に潜ったまま、顔すら出していないのだ。


フィオナは少し心配になりながらも、じょうろに水を入れてベランダへ出る。順番に水をやっていき、最後にイーリンのプランターへ水をあげる。片付けてダイニングに戻ろうとしたその時、背後からかすかな物音が聞こえた。


「……!……!」


振り返ると、イーリンが土からぬっと現れ、なぜかブレイクダンスのような動きをしている。


「一体何かしら」


どうやら体調が悪いというわけではなさそうだ。そもそも体調という概念が当てはまるのかも怪しいが。


「何か伝えたいのかしら」


フィオナがそう呟くと、イーリンはぴたりと動きを止める。今度は手を額にかざすようにして空を見上げた。


「太陽が眩しい?」


イーリンはこくこくと大きく頷き、今度は腕を左右交互に円を描くように回し始める。


「えーと……何かしら」


伝わっていないと分かったのか、今度はうつ伏せになって足をばたばたさせながら腕を回し始める。


「あ、泳いでいるのね!」


激しく頷くイーリン。そして次の瞬間、点と線で出来ていた顔がぱっと変わり、見慣れた男の顔になる。


「凪の顔ね……え、何それ。そんなことも出来るの?」


戸惑いを隠せないまま見ていると、イーリンはまた顔を変える。


「今度はルッカ……」


さらにぱっと変わり、今度はフィオナ自身の顔になる。


「私たち三人がどうしたの?」


頭の中で情報を繋げていく。三人、泳ぐ、眩しい太陽。


「ひょっとして……海に行きたかったの?」


イーリンは正解だと言わんばかりに腕で丸を作り、そのまま地団駄を踏み始める。


「ま、待って、落ち着いてちょうだい!」


慌ててなだめに入るフィオナ。


「海は人が沢山いたし、イーリンは目立つのよ。さすがに人目が多いところに連れていくのは難しいわ」


そう言うと、イーリンはガーンという音が聞こえてきそうなほど分かりやすく落ち込んだ。顔に線が入っているので、多分間違いない。


「そのうち、イーリンも一緒に行けるような場所に出かけることもきっとあるわ。その時に一緒にお出かけしましょう?」


本当?と言いたげに見上げてくるイーリンの頭を撫でると、安心したように足にぎゅっと抱きつき、そのまま自分のプランターへ戻って土の中に潜っていった。



夜。三人でお風呂に入り、まったりとした時間を過ごしている中で、フィオナは今日あった出来事を凪に話して聞かせた。


「へー、イーリンが……すごい特技だね」


やはり気になるのは顔の変化らしい。自由自在に変えられるのだとしたら、なかなか恐ろしい能力だ。


「うーん、イーリンも連れていける場所か……次の夏祭りは難しそうだしね」


「また行けないってなったら、本気で拗ねそうなんだぞ」


ルッカの言葉に、凪は頭を抱える。


「そうだなぁ……」


どうすれば納得してくれるかを考える。


「イーリンを連れて遊びに行くしかないんだぞ」


それもそうだな、と頭の中で候補を探していくが、どこも人目が多い場所ばかりだ。特に夏休みのこの時期は、どこへ行っても人が多い。


「やっぱり、個室というか……家族単位で過ごせる場所が必要よね」


家族、という言葉に少しだけ胸の奥が温かくなるが、今はそれどころではないと意識を戻す。


「家族単位……個室……」


そこでふと、思い出した。この県の北部にある有名な温泉地のことを。


「夏祭りの後にはなるけど、温泉旅行なんてどうかな。家族風呂がある宿なら、イーリンも一緒に入れるだろうし」


その提案に、フィオナもルッカも一気に表情を明るくする。特にフィオナの反応は分かりやすい。


「温泉って、あれよね。普通のお風呂とは違って、芯から温まるお湯で……美容にもいいっていう」


「楽しそうなんだぞ!」


二人の反応を見て、凪は温泉旅行に行くことを決めた。多少出費は増えるが、ルッカが生活費も入れてくれている今なら問題はない。


「じゃあ明日、イーリンに伝えておくわね」


その日はそれぞれ、新しい夏の予定に胸を弾ませながら眠りについた。


翌日。温泉旅行の話を聞いたイーリンは、見たこともないほど整った美形の顔になり、一日中フィオナの足に絡みついていた。

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