海だ!
「海にきたんだぞー!」
降り注ぐ暑い日差しの中、俺たち三人は電車を乗り継いで海へとやってきた。海水浴場には多くの人が詰めかけていて、海の家も数軒立ち並んでいる。ルッカのテンションは朝から爆上がりだ。
「それじゃあ着替えてくるから」
はしゃいで服のまま海に突撃しようとするルッカの首根っこを掴んで、フィオナが更衣室のある建物へと歩いていった。俺も男性用の更衣室で着替える。膝丈くらいのサーフパンツに、上は無地のシャツ、その上から薄手のパーカーを羽織る。
更衣室から出て辺りを見渡すが、まだフィオナとルッカは出てきていないようだ。防水カバーに入れたスマホを取り出して、出てくるまで時間を潰していると、「凪ー!」と元気なルッカの声が聞こえて視線を上げる。
赤いタンクトップ型のトップスに、同じ赤色のショートパンツ。パンツは太ももの半ばくらいまであり、いかにも元気なルッカらしいと思える水着だ。
「似合ってるよ、ルッカ。フィオナは?」
「もう出てくるんだぞ」
その言葉通り、こちらを気にしながら恥ずかしそうに歩いてくるフィオナに気付いて、思わず見つめてしまう。真面目な形のワンピース水着なのに、縁にあしらわれた小さなフリルがとても可愛らしい。普段は大人びているように感じるフィオナも、今日は見た目の年相応の女の子という感じに見えて、少しドキドキしてしまう。
「どう……?似合うかしら」
フィオナがもじもじしながら聞いてくるが、俺は咄嗟に返せなかった。
「凪が固まってるんだぞ」
ルッカの声にハッと意識が戻る。返事がないことに不安を感じているのか、フィオナの眉が少し下がっている。
「ご、ごめん。すごく綺麗だよ。水着もよく似合ってる」
そう言うと、フィオナの顔が一気に明るくなった。
砂浜にシートを敷いてパラソルを立てる。二人はパラソルの下でシートに座り、素肌が見えているところに丁寧に日焼け止めを塗っていく。
「早速泳ぎにいきましょう」
日焼け止めを塗り終わると、フィオナがにこにこしながら海の方へ歩いていく。ルッカは「浮き輪借りてくるんだぞ」と言って海の家に走っていった。
海の中に足を入れ、「冷たいわ」と笑うフィオナ。持ってきたビニールのボールを膨らませて、フィオナとビーチバレーもどきをして遊んでいると、浮き輪を持ったルッカが帰ってくる。三人で三角の輪になって、右から左へパスを回して遊ぶ。
「そろそろお腹がすいたね、何か食べようよ」
二人もお腹がすいたようで、すぐに賛同してくれた。海の家を回って、どれを食べようかわいわい話しながら決めていく。
「やっぱり、海の家といえば焼きそばかな」
「焼きとうもろこしがあるわ、あれにしましょう」
「かき氷も食べたいんだぞ!」
思い思いに選んでいくと、つい注文しすぎてしまったようだ。
「全部食べられるかな」
「全然いけるんだぞ!」
不安になった俺に、たこ焼きを頬張りながらルッカが余裕の顔をする。フィオナは焼きとうもろこしを食べている。
「あれだけ頑張って運動したんだもの……食べ過ぎは良くないわ」
小声でそう呟く。多い分はルッカと凪に任せようと、フィオナはゆっくり時間をかけて食べていく。
あれだけあった料理はいずこやら、気がつけば綺麗にお腹の中に収まっていた。
「もう食べられないんだぞ」
「お腹いっぱい……」
俺とルッカは食べ過ぎたせいで満身創痍だ。フィオナは少し困ったような顔をしている。
「これからは、注文する段階で気をつけましょうね」
そう言われて、そろって項垂れることしかできなかった。
それから三人で一緒に海を泳いだり、砂でルッカが器用に西洋風の城を建てたり、フィオナがナンパされそうになったりしながら、楽しい時間は過ぎていった。
ナンパされそうになった時はフィオナが困惑していたが、ルッカが気を利かせて「ママー」とフィオナを呼ぶことで、なんだ子連れかよと言われはしたものの何事もなく回避することに成功した。俺はその時トイレに行っていたので後で話を聞いたのだが、フィオナは美人だからなと納得しつつ、少しモヤッとしてしまった。ルッカがフィオナのことをママ呼びしたことで、感謝の言葉とともに砂浜に埋められたのはご愛嬌だ。




