魔素
遅れた分の補填プラスちょっと短いので
食後にコーヒーを飲みながらまったりしていると、インリーがこくん、こくんと体を揺らしている。
「眠いのかしら?」
フィオナがインリーに顔を寄せて「眠たいの?」と聞くと、インリーは頭を縦に振る。その反応を見て、フィオナはインリーを抱えてベランダに出ていく。ルッカはソファーに寝転びながら、テレビで漫才の番組を見てげらげら笑っている。俺も机の方からテレビを一緒に見ながらコーヒーを飲む。
少しすると、フィオナがベランダから戻ってきた。
「インリーはプランターで寝るの?」
生態がよく分からないので少し気になる。
「どうやらそうみたいよ。他の作物も、自分が植わっていたプランターに戻って埋まっていたわ。他のプランターには目もくれずにね」
自分の家みたいな感覚なのだろうか。不思議だ。
「もうベランダはいっぱいなんだぞ。インリーたちを育てるなら、もう新しく作物は植えないんだぞ?」
ルッカがこちらを向いてフィオナに聞く。元々育てた作物を食卓に並べようと育て始めたのに、結局食べられずにベランダのプランターも占領されてしまった。
「現状はそうね。残念だけれど……」
言葉通り残念そうに、フィオナはため息をつく。
「まぁしょうがないよ。フィオナの育てた作物を食べられないのは、確かに残念だけどね」
俺は肩を竦めて同意した。ルッカも「残念だぞー」と肩を落とす。
「まぁまぁ、あんまり暗くなっても事態はよくならないし、せっかく特別な日にしたんだから、考えるのは明日にしようよ」
そう言うと二人も「そうね」「そうだぞ」とそれぞれの言葉で頷く。
「あ、そういえばなんだけどさ。さっき言ってた魔素っていうのは?魔力とは違うの?」
思い出したように俺は聞いた。満月草には魔素が含まれていないと言っていた。つまりそれ以外の異世界の作物には基本魔素が含まれているという事だ。
「魔素は魔力の素よ。魔素を練って魔力にするの。微量だけど、魔法回路自体が体の栄養から魔素に変換していたりするわ。それを練り上げて回路に流すのが基本ね」
「向こうの世界は魔物ももちろん作物も魔素を含んでいるんだぞ。それを食べる事で、魔素を直接魔法回路に取り込む事ができるんだぞ」
なるほど、と思いながらも、ふとそれならと違う事が気になった。
「この世界に魔素はないよね?魔力が回復しなくない?」
フィオナは「そうなのよねぇ」と大きなため息をついた。
「厳密に言えば、しない訳ではないのよ。魔法回路が体の栄養から魔素に微量を変換していると言ったでしょ?逆に言うとそれだけなんだけれど」
つまり、ほんの少しだけしか回復しないがゼロではないという事だ。
「台風が来た時に使った魔力の回復が全然追いつかないのよね……」
フィオナが疲れたように笑った。
その話し合いの後、俺たちは順番にお風呂に入ると、そのままそれぞれの部屋に戻った。一時はどうなることかと思ったが、フィオナが元気になってくれて良かったと思いながら、俺は瞼を閉じた。
三人が寝静まった夜、ベランダでは。
大根のインリー主導のもと、作物による大運動会が開催されていた。ぶどうを支えていた支柱を走れる作物が飛び越え、歩けない作物は転がってレースをする。軽い物音だけが響くベランダは、静かな熱気に包まれて……いたのかもしれない。




