挫折
膝を抱えて泣くフィオナに、なんと声を掛けていいのか分からず、俺はルッカを見る。するとルッカも小さく首を振った。安易な慰めは逆にフィオナを傷つけるだろうと、容易に想像できてしまうからだ。
「フィオナ……」
名前を呼ぶが、その後の言葉が続かない。だが、反応は返ってきた。
「申し訳ないけれど、少し1人になりたいの……部屋に戻るわ」
そう言ってフィオナは立ち上がると、赤くなった目を擦りながら部屋へ戻っていった。
「無理もないんだぞ。収穫をすごく楽しみにしてたんだぞ」
ルッカは憐れむように目を伏せる。
「今は自分で立ち直ってもらうしかないかな……立ち直った時に、これからの事を考えられるようにサポートしよう」
ルッカも頷いて肯定する。
「ルッカもフィオナを慰めるんだぞ」
2人で小さく微笑んだ。
フィオナは部屋に戻ると、布団に三角座りで丸まり、また泣いていた。凪は魔法陣で呼んだ可能性が高いのだから生活できるようにサポートすると言ってくれているが、魔法陣の起動はあくまで事故のようなものだとフィオナは思っている。お金を出し、家に住まわせてもらい、この世界のことを教えてもらい、かなり世話になっていると感謝しているのだ。
ルッカもそれは同じなのだが、ルッカは既に自分で収入を得る手段を確立した。食費を自分で稼ぎ、フィオナをケーキバイキングに連れて行ってくれたりもした。それに比べて、私は……と、悪い考えばかりが頭をよぎる。
「ほんと、甘えてばかりで何も返せない……」
フィオナの口から零れる悲痛な心の叫びが、小さく部屋に響く。その時、フィオナの肩にトン、と誰かが慰めるように手を乗せたのが分かった。扉が開いた気配もなく、誰かが入ってきた雰囲気も感じなかったフィオナは混乱して、丸まっていた布団をガバッと払い除けた。
「今は1人にしてほしいとさっき……!」
赤い目でキッと肩に置かれた手の方を見ると、そこにいたのは……
フィオナが引き抜いた大根だった。
ずっと握ったままだったのか、それとも大根がついてきたのかは分からないが、そこにいたのは何故か大根だ。引き抜いた時、作画コストの高そうなものすごく驚愕した顔で金切り声をあげるという、まるでマンドラゴラみたいな事をしでかしてフィオナを気絶させた大根は、今は点と線だけの顔で慰めようとしている……ように見える。
「……」
複雑な表情でフィオナは大根を見る。そもそも、フィオナが今泣いているのは作物が『こうなって』しまったからだ。
大根の手?を払い除けると、再び肩に手を乗せる。何度かそれを繰り返すと、大根は諦めたように線の口がへの字に曲がり、腕にきゅっと抱きついてきた。
フィオナは1度、大きく息を吐いた。
「そうね、あなたたちが悪いのではないわよね。これは八つ当たりだわ」
フィオナは大根の頭の部分を撫でる。
大根は嬉しそうに頭を左右に振っているが、への字になった口が真っ直ぐに戻っただけで表情に大きな変化はない。
「これからの事を考えないとね。いつまでもウジウジしていてもしょうがないわ」
フィオナは「今は何も考えられないのだけれど」と小さく零す。でも、凪が、ルッカがきっと助けてくれるだろう。それに頼り切りにならないように、次こそは上手くやろう。そこまで考えると、フィオナは立ち上がる。そして部屋からダイニングに繋がる扉を開けた。
ダイニングのテーブルの上に、ほんのりと温かいお茶と、カップ入りのサラダスティックが置いてあった。よく見ると、サラダスティックのカップの下に手紙が挟まっている。
『ルッカと買い物に行ってくるから、落ち着いたらひと休みしていて。晩ご飯にはご馳走を買って帰るから、楽しみにしててね』
優しい思いやりに、再び目頭が熱くなった。
肩の上に乗っていた大根も泣いていた。




