休息は大事
その日、フィオナとルッカは買い物に出ていた。開店直後からセールがあるため、朝早く家を出たのだが、スーパーには既に何人も並んでいる。セール時の値引き率が高いことで有名な店だけあって、競争率も相当なものだ。
開店と同時に、2人は目を合わせて頷き合い、自然と二手に分かれて走り出す。それぞれが担当を決めていた商品を確保し、かごに入れていく姿は、もはや熟練の連携と言っていい。最後はレジ前で合流し、互いの戦果を確認すると、ぱんっと小気味よいハイタッチを交わした。
「良かったわ、全部買えて」
フィオナが安堵の息を吐く。緊張が解けたのか、肩が少しだけ落ちる。
「勝利の味だぞ!」
ルッカはさっそく買ったばかりのチョコを開け、歩きながら口に運ぶ。
「あなたねぇ。歩きながらお菓子を食べるのはおやめなさい。行儀が悪いわ」
呆れ半分にたしなめると、ルッカは残りのチョコをぽいっと口に放り込み、今度はフィオナのほうを指さした。
「ちょっと、人を指でさすのはやめなさい」
「違うんだぞ。あっちに、最近できたケーキバイキングの店があるんだぞ」
視線の先には、色鮮やかな看板。甘い香りが漂ってきそうな佇まいに、フィオナの胸がわずかに高鳴る。だが同時に、家計のことが頭をよぎり、素直に行きたいとは言えない。
「それは……いいわね。さぞ美味しいのでしょうね」
抑えた声音。だが目は、ちらりと店を見ている。
「一回家に帰って荷物を置いてから行くんだぞ!」
ぱあっと明るい顔で言われ、フィオナは一瞬だけ息を呑む。嬉しい。けれど、これはルッカが稼いだお金だ。自分はまだ何も……そう思いかけたところで、ルッカが先に口を開いた。
「気にすることはないんだぞ。収穫できたら、美味しい野菜や果物を食べさせてもらうんだぞ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「ルッカ……ありがとう」
目元をわずかに滲ませながら、素直に礼を言った。
2人は一度家へ戻り、荷物を片付けると、改めて店へ向かう。
「こっちなんだぞ」
得意げに案内するルッカの後ろを、フィオナが歩く。そして出来たばかりのケーキバイキングのチェーン店に入店した。
ショーケースに並ぶケーキを前に、フィオナは真剣な表情で厳選していく。色合い、バランス、味の想像。皿の上は美しく整えられていく。一方のルッカは、目に付いたものを片っ端から乗せていき、あっという間に山のような皿を完成させた。
テーブルにつくと、2人はほぼ同時にフォークを入れる。
「ん〜……このチーズケーキは絶品ね。チョコケーキも最高だわ」
「どれも美味しいんだぞ!」
甘さに頬を緩め、時折顔を見合わせて笑う。競争の朝を駆け抜けたご褒美のような時間だった。
帰宅後、ダイニングの椅子に腰掛けながら、フィオナはうっとりと目を閉じる。
「夢のような時間だったわね……」
ルッカも満足げに何度も頷く。
「家でケーキは作れないんだぞ?」
その一言で、はっとする。作ればいいのだ。材料を揃え、試行錯誤すればきっと出来るはず。
「今度作ってみようかしら。それと、そろそろ作物も収穫できそうなのよね。楽しみにしていてちょうだい」
誇らしげに微笑むと、フィオナはベランダへ出て作物の様子を確かめに行く。葉の色、実の張り、土の具合。ひとつひとつ確認するその姿には、確かな自信が宿り始めていた。
ルッカはダイニングで最新の家庭用ゲーム機を起動し、楽しげに遊び始める。
それぞれのゆったりとした休息の時間は、やがて凪が帰ってくるまで、穏やかに続いていった。




