天才か!?
呆然と立ち尽くすフィオナをどうにか宥め、何とか歩いてもらう事には成功したが、目が死んでいる。
「私はゴミよ、寄生虫よ。他人に寄りかかってたかるだけのハエよ」
ぶつぶつと自虐の言葉を吐き続けるフィオナを連れて家に戻り、温かいコーヒーを淹れてお茶菓子と一緒に差し出す。カップを両手で包むように持ち、ゆっくりと飲み終える頃には呼吸は落ち着いたが、目にはまだ光が戻らない。
「フィオナは家庭菜園で頑張っているじゃないか。もう少ししたら収穫できるんでしょ? 皆で美味しく食べられるし、家計も助かる!」
少し大袈裟なくらい身振りを交えて、助かっているんだよと全力でアピールすると、フィオナの瞳にわずかに色が戻る。
「そ、そうよね。私は頑張っているわよね」
「頑張ってる頑張ってる。それにご飯も作ってくれるし、掃除もしてくれるし、すごく助かってるよ。いつもありがとう、フィオナ」
素直にそう伝えると、フィオナは一瞬固まり、それから赤面して顔をフイッと逸らした。
「感謝してくれているなら、私も嬉しいわ。これからも頑張らないとね」
よし、かなり回復した。この調子なら大丈夫そうだ、と胸を撫で下ろしたその瞬間。
「ルッカは自分で稼いで食費を助けてるんだぞ。なんなら生活費も入れられるようにするんだぞ!」
回復しかけていたフィオナに、クリティカルヒットが入った。グハッと効果音が聞こえた気がしたし、心に槍が突き刺さる幻覚まで見えた。
「私も、稼ぐわ……作物を沢山作って売るなり何なりして、絶対稼ぐわ!!」
目が据わっている。別の方向に覚醒しそうだ。
「モチベーションが高いのはいい事だと思うよ……」
今の俺には、それ以上の言葉は出てこなかった。
「で、本題なんだけど。ルッカはどうやって稼いでいるの?」
気を取り直して尋ねると、ルッカはにやりと笑い、俺とフィオナをちょいちょいと手招きする。
「こっちなんだぞ」
案内されるままルッカの部屋へ入り、恐る恐る中を覗き込んだ瞬間の事だった。
「「え!?」」
思わず声が揃う。
そこには大量のゲーム機や小型モニター、ドライヤーなどの家電が所狭しと床に並べられていた。きちんと整頓はされているが、量が尋常ではない。
「こ、これは?」
ルッカは胸を反らし、えへん、と誇らしげに鼻を鳴らす。
「全部、壊れていたのを直したんだぞ」
全部直した? これを? 頭が追いつかない。そういえば以前、家で見覚えのないゲーム機で遊んでいた事があった。あれも直して使っていたのだろう。
「直すっていっても、故障した部品とかあったんじゃない? モニターが割れてたりとか」
「壊れた部品も直したんだぞ。モニターも難しかったけど、直せたぞ」
さらりと言われて、唖然とする。まさか部品レベルから修復できるとは思わなかった。
「分かった? これがドワーフよ。普段はバカみたいに見えるかもしれないけれど、モノづくりに関してだけ言えば、天才の種族なのよ」
「バカみたいとはなんだぞ!」
思わぬ流れ弾に、ルッカが憤怒の顔で抗議する。だがフィオナは澄ました顔で軽く受け流した。
「それで、直したものをフリマサイトで売ってるんだぞ。それなりに売れているぞ」
スマホで販売ページを見せられる。確かに出品済みの数も多く、いくつも“売り切れ”の表示が並んでいる。値段も中古にしては強気だ。写真を拡大すると、どれも新品同様に磨かれているのが分かる。
「すごいね、ルッカ。ありがとう」
自然とそんな言葉が出ていた。頭を撫でると、ルッカはくすぐったそうにしながらも、満更でもない顔をする。
「でも無茶はしちゃダメだよ。頑張りすぎてルッカが倒れるのは嫌だからね」
「大丈夫なんだぞ。部品から直してると、小さいものでも数日は掛かるんだぞ。集中しないと失敗するし、余裕を持って作業しないと身も心も持たないぞ」
職人の顔でそう言われ、ひとまずは納得する。
三人でダイニングに戻ると、ルッカは早速ゲーム機の電源を入れ、フィオナは「ふんぬっ!」と気合いの入りそうなポーズを取ってからベランダへと向かった。どうやら本気で農業王を目指すらしい。
天才ドワーフに、負けず嫌いのエルフ。
俺はというと、コーヒーのおかわりを淹れながら、なんだか少し誇らしい気持ちになっていた。




