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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第一章 二人の王女は現代に適応する
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魔法陣と魔法の関係

「まず、魔法陣については詳しい事はまだ分かっていないわ。正確には、内容は分かるのだけれど、どうして動くのかはあまり分かっていないの。前に話した、魔法式が本来の魔法式とは形式が全然違うのよ」


フィオナが静かにそう切り出し、俺は思わず首を傾げる。内容は分かるのに、どうして動くのかは分からない、というのはどういう事なのだろう。


「でもこの本には魔法陣が載っているわけだし、実際に使われている技術なんでしょ?」


率直な疑問を口にすると、フィオナはゆっくりと首を振った。


「魔法陣は過去の遺物よ。翻訳の魔法や空間拡張の魔法を編み出した『賢者』と呼ばれている人間がいるのだけれど、その人が残したとされている文献にしか魔法陣は残っていないの。だから、後世の魔法使い達はその魔法陣を検証してそのまま使ってみたり、少しだけ内容を変えて偶然成功したり、その程度でしか扱えていないのよ。理論として体系立てられてはいないの」


隣でルッカがうんうんと頷きながら口を開く。


「ルッカが使える付与魔法も、元を辿れば魔法陣の技術を応用した魔法だと言われているんだぞ。ご先祖が魔法陣を徹底的に調べあげて獲得して、それを独占してきたから、ドワーフのみに代々伝えられている魔法なんだぞ」


なるほど、と腕を組みながら頷きつつも、胸の奥に引っかかった疑問がそのまま言葉になって出てきた。


「そんな謎だらけの魔法陣が、なんでじいちゃんの本に載っているんだ?」


二人は顔を見合わせ、揃ってうーんと唸るだけで、明確な答えは出てこない。


「もう少し読み進めれば分かるかもしれないけれど……今のところ分かっている範囲で言えば、これは日記兼研究日誌ね。単なる蒐集ではなく、自分で考察して、試して、書き残している形跡があるわ」


じいちゃんが何者なのか、本気で分からなくなってくる。魔法を研究し、異世界の人間ですら原理を理解していない魔法陣を扱い、それを本にまとめている。俺はじいちゃんが異世界に行ったなんて話は一度も聞いた事がないし、行方不明になった時期もない。仮に今さら「実は異世界に行っていた」と言われても、冗談だと笑い飛ばしてしまう自信がある。


「本を借りて研究も続けているけれど、その中にこう書かれていたわ。『魔法陣は従来の魔法をより細かく条件指定出来て、より高い自由度の魔法を発現させる技術である』と。ここまで踏み込んで魔法陣について記している書物を、私は見たことがないわ。その上で魔法そのものの研究も行っていて、初めて見るような魔法の理論や構想がいくつも並んでいる。凪の祖父は何者なの?」


そう問われても、俺の中でのじいちゃんは、優しくて少し頑固な、どこにでもいる田舎の老人でしかない。魔法のまの字も聞いた事はないのだ。


「借りている間は私が管理するからまだいいけれど、凪が持っている間は本当に気をつけてちょうだい。前にも言ったけれど、この本には魔力が込められているわ。魔法は魔力回路に魔力を循環させて発動するけれど、魔力を帯びたこの本は、一時的に魔法回路の代わりになり得るの」


フィオナはそこで一度言葉を区切り、真剣な目で俺を見る。


「つまり、魔力を持ったこの本は、魔法陣に触れるだけで魔法を起動させてしまう可能性があるという事よ。どうやら他にも魔法陣はいくつか載っているようだし、意図しない発動も十分にあり得るわ」


そこまで説明すると、フィオナはコーヒーを一口飲んで喉を潤し、本を開きながら静かに続ける。


「この本には魔力が込められていて、魔法陣が載っている。減ったとはいえ、まだ魔力は残っている。そして魔法陣は、本に込められた魔力を使って発動する。つまり……」


俺が魔法を使える?本を通して?そんな考えが頭をよぎり、少しだけ胸が高鳴る。魔法なんて絵本の中の話だと思っていたのに、もしかして、という淡い期待がどうしても浮かんでしまう。


その空気をぶち壊すように、いつの間にかコーヒーを飲みながらお菓子を食べていたルッカが、もぐもぐと口を動かしつつ割り込んできた。


「でも魔法を使うのはやめた方がいいんだぞ。下手に魔法を使おうとして、設定してある魔法の魔力量が本の魔力を超えていたら……」


言いながら、ルッカはわざとらしく怖い顔を作って俺をじっと見つめてくる。俺はつられてゴクリと唾を飲み込んだ。


「魔力回路のない凪から魔力を吸い出そうとして、魔力が無いから代わりに生命力を持っていかれるんだぞ」


最悪死ぬ、という意味を含んだその言葉に、俺はひえっと小さく震える。さっきまでの高揚感は綺麗さっぱり消え去っていた。


「分かった、使わないようにするよ……」


命と引き換えにする勇気はさすがにない。それでも、一度くらい魔法を使ってみたかったなと、ほんの少しだけ未練を抱いてしまう自分がいて、そんな自分に苦笑しながら、俺はそっと本を閉じた。

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