話を纏めよう
まとめのお話なのでセット投稿です
「色々難しいんだね。魔法と一口に言っても」
そう言うと、フィオナは口元を手で隠しながら、くすっと小さく笑った。
「それはもう、専門家が何人も集まって研究して、世代を経て少しずつ分かってきている事だもの。時代によっては、生きたまま体を開いて魔法回路を探した、なんて記述まであるのよ」
さらりと告げられた内容に、背筋がぞくりとする。恐ろしい話だ。隣ではルッカがウゲー、とあからさまに顔をしかめている。
以前フィオナに聞いた話を思い出す。異世界では、あらゆる人種に魔力が多かれ少なかれ宿っているらしい。エルフも、ドワーフも、人間も例外ではない。それは魔法を使うためというより、魔力回路を維持するための最低限の保証魔力が備わっているからだという。だが俺には、その最低限すら存在しない。つまり魔力回路そのものが無い、という事になる。
それを踏まえて、今までの話を頭の中で整理してみる。魔法回路は異世界に住む人々の体内に備わっていて、そこに各種の条件やパラメータを設定し、起動呪文を唱える事で魔法は発現する。その際、回路の中で魔力を循環させる事によって現象が成立するのだが、破綻した魔法式を何度も無理に使おうとすれば、回路そのものが壊れてしまう可能性がある。魔法陣は過去の文献に残っている物を使うか、わずかに改変する程度でしか運用できておらず、魔法式の形式が従来と大きく異なるせいで研究は思うように進んでいない。じいちゃんの残した本のように、あらかじめ魔力を込めておけば一時的に魔力回路の代わりとなり、それを介して魔法陣を起動する事は可能だが、必要な魔力量が足りなければ本来は使用者から魔力を、さらに足りなければ生命力を持っていく、というわけだ。
「なるほど、大体は理解できたかな。でもこの本みたいに魔力を込められるようにしておけば、魔力回路の代わりになるんだよね? 魔法陣じゃなくても、普通の魔法を書いておけば、魔法が使えるんじゃないの?」
思いついたままを口にすると、フィオナはゆっくりと首を振った。
「今までに試した研究者はいたけれど、成功したという話は聞かないわ。魔法陣はそういう意味でも特殊なのよ。それに問題はそれだけじゃないの。魔力を大量に込めるには、高額で希少な素材が必要になるわ。よほど質の良い素材でなければ、そこまでの魔力は保持出来ないの。この本、何で出来ているか分かる?」
そう言って、指先で本の表紙を軽く叩く。
「これね、ドラゴンの皮よ。それも古龍種の」
思わずギョッとする。異世界のドラゴンといえば、最強種の一角という印象しかない。その皮を使っているという事実に、じいちゃんの正体がますます分からなくなる。
「簡単に手に入る素材で作った物に魔力を込めたところで、魔法陣は起動しないわ。そもそも魔法陣で扱うような魔法は、構造が複雑で必要魔力も多い場合がほとんどだそうですから」
フィオナの説明を補うように、ルッカが本を指差しながら続ける。
「魔法式の形式が複雑で中々研究は進んでいないけど、完全に解明できれば国家規模の結界を張る事も可能なんじゃないかって言われているんだぞ」
なるほど、だからこそ各国が必死に研究しているのか。自由自在に魔法陣を構築できるようになれば、それは間違いなく革命だろう。
ひと通り頭の中で整理し終え、コーヒーを一口啜ると、いつの間にかカップは空になっていた。
「話はこの辺にしようか。朝ごはんも食べてないしね」
会話に夢中で時間の感覚が抜け落ちていたが、時計を見るともう昼前だ。
「私がお昼を作りましょうか」
フィオナが自然に申し出てくれるが、俺は手を振ってやんわりと断る。
「今日は外に食べにいこう。昨日の今日で疲れたでしょ? それに、せっかくの休みだからね」
そう言うと、二人は顔を見合わせ、それから小さく頷いた。重たい話の後くらい、少し肩の力を抜いてもいいだろうと思いながら、俺は立ち上がった。




