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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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アカシックレコード

フィオナが本に触れ、魔法陣を起動させる。本に描かれていた魔法陣が浮き上がり、床に移動すると広がっていく。


「イリス、魔法陣の中心に立つのよ」


 フィオナの指示に従い、短くきゅーと鳴いたイリスが魔法陣の中心に立った。


「おお!」


 カルミラが声を上げた。魔法陣が少しずつ空中に上がっている。全身を包み込みながら、まるでMRIで検査しているみたいだなと俺は感じた。


「修復箇所を調べている感じだぞ?」


「多分そうじゃないかしら。詳しくは分からないけれど」


 正直なところ魔法陣は解明されている部分は少ないし、細かな説明が本に載っている訳でもない。魔法回路を修復する魔法陣だと書いてあるにすぎないのだ。それでも他に方法は無い訳だし、上手くいってくれと全員が固唾を飲んで見守っている。


 魔法陣がイリスの体を何往復かして、少しすると中心くらいの高さで止まる。そして眩い光を放った。


「うわっ」


 あまりの眩しさに目を開けていられず、思わず目を瞑る。どうやらそれは皆も同じらしかった。


「く、見えん!どうなっておるのじゃ!?」


「光が収まるまで何も見えないわ、警戒だけは怠らないで!」


「目が!目がぁ!」


 何が起こるか未知数な事から警戒を促すフィオナと、目を瞑るタイミングが遅れて目をやられたらしいルッカ。なんとも騒がしい。徐々に光が収まってきたのを瞼に感じ、ゆっくりと目を開ける。


「イリス!」


 魔法陣の上でぐったりしているイリスを抱き上げようとするカルミラをフィオナが慌てて制止する。


「待って!魔法陣が消えるまで触らないで!」


 魔法陣が残っていると言うことは、作業はまだ終わっていないという事らしい。伸ばしていた手を引っ込め、ぐっと耐えるように呻き声を上げるカルミラ。


「きっともう少しで終わるだろうから、カルミラも頑張って耐えないと」


「そうじゃな、イリスも頑張っておるのにわしが台無しにする訳にもいかんのう」


 少し無理をしているようには感じるが、それでも普段通りに振舞おうとしている事はわかった。そうして待っていると、徐々に魔法陣が薄くなっていく。完全に消え去ると、カルミラはイリスへと駆け寄った。


「大丈夫か、イリス」


 優しく抱き上げると、イリスは短くきゅっと鳴いた。


「これで魔法回路は修復されたのかしら」


「完全獣化を解いてみれば分かるんだぞ?」


「確かに、やってみないと分からないよね」


 魔法陣が正しく機能したのか、そもそも魔法陣の用途として合っているのか、分からない事だらけだ。上手くいくといいのだが……


「イリス、完全獣化を解くことは出来るかの?」


 やってみると言わんばかりに頷いたイリスがきゅっと瞼を閉じる。蹲るように体を丸めたうさぎの姿が、徐々に大きくなっていく。人型ほどの大きさになったところで止まり、少しすると蹲っていた体を起こす。その姿は、頭の上にうさぎの耳が付いた女の子だった。


「イリス……ようやく会えたのう」


「カルミラぁ……怖かったよぉ!」


 びえーんと大泣きしながらカルミラに抱きつくイリスは、線が細くモデルのような体型にも関わらず、大人バージョンのカルミラよりも胸があった。そして、その姿を俺はモロに見た。見てしまった。だって、服を着ていないんだもの。


 後ろから手が伸びて俺の目を覆い隠した。


「凪?見たの?見たわよね?」


 手に力が籠っている。そしてどんどん圧力を掛けられている。


「痛い!痛いよフィオナ、目が飛び出る!」


「飛び出したとしてもちゃんと戻してあげるわよ」


「そもそも飛び出さないようにして欲しいな!」


 感動の再会のすぐ側で、俺は旅立つのかと戦々恐々とする羽目になった。


「い、色々と助けて頂いて、ありがとうございまひゅう……」


 噛みながらお礼を言うイリス。なんとも愛らしいその姿に、なんだかホッコリしてしまう。


「わしからもお礼を言わせて欲しい、まさかはぐれていた全員と引き合わせてもらえるなぞ、思ってなかった。感謝しておる」


 深々と頭を下げるカルミラ。普段のヘラヘラした様子は一切なく、真面目に感謝しているようだ。


「見つかったのは偶然だし、フィオナたちと同じ世界に住むものとして助け合うのは当然だよね」


「ええ、私たちも助けられたりしているもの、お互い様だわ」


「助け合いなんだぞ!」


 それぞれ感謝を伝えあったところで、話を進めていく。


「それにしたって、なぜあのような姿に固定されたのじゃろうのう」


 カルミラが不思議そうに腕を組む様子を見てフィオナも考える。


「そうねぇ、こちらの世界の理に引っ張られているって鏡は言ってたわね。元のまま完全獣化すると、世界にとって不都合があったりとかするのかしら?」


「不都合ねぇ……そりゃ、あると思うよ。要は大きくて凶暴なうさぎの姿でしょ?下手したら世の中が大騒ぎになるよ」


 捕獲に軍隊が出てきたりとか研究所に送られたりだとか、非道な実験をされたりとか……全部想像だけど。


「ひえっ!そんな恐ろしい目に遭うのは御免こうむりますぅ!」


 今にも泣きそうな顔で怯えるイリスをカルミラが慰める。


「おーよしよし、そうならないように可愛らしいうさぎの姿に変えてくれたのやもしれんのう。世の理とやらがのう」


「世の理って一体なんなんだぞ……」


 ルッカが胡散臭そうに目を細めている。俺からしたらアカシックレコードも十分胡散臭いのだが、ルッカはそうではないらしい。まあ実際そのアカシックレコードのおかげでこうしてイリスは元に戻る事が出来てはいるのだが。


「というか、アカシックレコードってそんな簡単に接続できるものなの?向こうでは」


「全然簡単じゃないぞ。アカシックレコードは、全てのあまねく世界における事象を記録していると言われているんだぞ。それを管理しているのが神で、神の図書館とも呼ばれているんだぞ。向こうでは聖職者が集まって祈りを捧げると、神より求める知識の一端が授けられるんだぞ」


「ふむふむ、神託とかそれに近い何かなのかな。それを簡単に〇iriに聞くみたいに引き出して……バチ当りでは?」


「出来たということは、許されているという事だぞ。そもそも神がいてしてはいけないというなら、成功する方がおかしいんだぞ。ちなみに、アカシックレコードの座標はセレフィアが手伝ってくれたから特定出来たんだぞ。流石は信仰の対象になっているだけの事はあるんだぞ」


「ええ……」


 成功しているから許されている、とはなんとも科学者らしい考え方だなと俺は思った。


「まぁ信仰の対象という事は、少なからず神威を得ているという事ですものね」


「よく分からぬが、そんなものなのかのう」


「何はともあれ、それで助かったのなら何も言う事はないのですぅ」


 とんでも理論だろうが神の領分に足を踏み入れようが、結果的にイリスが助かったのは事実なので、これで良かったんだみたいな空気が流れ始める。そんな時、鏡がひとりでに喋り始めた。


『警告、警告。管理者より、メッセージが届いています』


「え!?」


 全員が鏡の方を見て固まる。先程話していた通りなら、アカシックレコードの管理者とは神そのものだ。全員、特にルッカの顔色が一気に悪くなった。


『不正なアクセスにより、アカシックレコードと接続したものには厳罰を処す。と言いたいが、今回の使用目的を考えれば情状酌量の余地はあると考える。よって、今回限りでの使用は認めるものとする。次に同じような事が発生した場合、審判を下すのでそのつもりでいるように』


 鏡がパリン!と割れた。粉々になった鏡には、最早なんの力も残っていなかった。


「た、助かったんだぞ!」


「こ、こんな事ってあるのね……恐ろしいわ……」


「触れてはいけないものってあるんじゃのう」


「これって私のせいですかぁ!?腹を切って謝罪をしますぅ!」


「切らなくていいから……というかよく知ってるね、そんなの」


 みんなが落ち着くまで、暫くの時間が掛かったのだった。みんなが焦りまくっていたおかげで、俺は逆に比較的冷静でいられたのは良かったのか悪かったのか。


「まぁとにかく、無事にイリスとも合流出来て良かったねって事でさ、これで全員揃った訳だよね?」


「ああ、そうじゃの。ほんに世話になったの」


「改めて、ありがとうございまひゅ!このご恩は忘れましぇん!」


 噛み噛みに礼を言っては頭を下げるイリス。


「お礼は何度も聞いたから、それよりせっかく全員揃ったんだし、みんな集まって歓迎パーティーでもしようか」


「いいわね、派手にやりましょ」


「パーティー!楽しみなんだぞ!」


 みんなノリノリでパーティーに同意してくれた。


「もうすぐ年末じゃし、準備をして盛大に祝うのはどうじゃ?」


「そうだね、それが良いかもね」


 今は12月の28日だ。31日の夜から、盛大にパーティーを開いて年越しをしようという話になった。一時はどうなる事かと思ったが、こうして全員揃って迎えられる年の瀬に、俺はなんとも言えない感慨深さを感じていた。

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