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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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マシュマロはマシュマロじゃない?

俺が心の中でツッコミを入れた鏡を前に、ルッカが自信満々に鏡の説明を始める。


「この鏡は、触れなくても動かす事が出来るんだぞ。Hey!鏡!」


『ご要件はなんでしょうか』


 先程カルミラが触れた時同様、機械的な音声が流れる。


「これってパクリでは?」


「参考にしただけだぞ!売る訳じゃないからセーフだぞ!」


 まぁ世に出さなければ問題はない……のか?


「にしても、また凄いものを作ったわね」


 感心したようにフィオナが鏡を見つめている。


「とりあえず使ってみるんだぞ!Hey!鏡!かっこいい銃の買い方を教えて欲しいぞ!」


「え?ちょ、ルッカさん?」


『検索しています……ダークウェブに接続できる特別なブラウザを使用し、購入サイトにアクセスした後、仮想通貨で支払いを済ませる事で……』


「だ、ダメー!ストップー!」


 俺は途中で遮った。これはいけない。許してはいけない暴挙だ。


「この鏡は危険!封印!」


「えー!?なんでなんだぞー!?」


「というか、検索って何?ネットにでも繋がってるの?」


「ネットじゃないぞ、魔道具だぞ?」


「尚更訳が分からないんだけど……」


「えーと、アカシックレコード?」


 なんてものに接続しているんだ……というか、そんなのありなのか?


「あー、悪いんじゃが。封印する前に、イリスだけ探してみてもよいか?」


「あ、ごめんそうだね」


 元々イリスを探す為にカルミラが頼んだ鏡だ、本来の使用用途には使っておこう。せっかくルッカが作った訳だし。


「ごほん。では、うさぎの獣人であるイリスの現在地を教えて欲しいのじゃ」


 ひとつ咳払いをしてから鏡に問いかけるカルミラ。その答えもすぐに示された。


『検索しています……現在地、緯度34.68…経度314.94…』


「いや、分からんのじゃ」


 答えらしきものは出てきたが、聞いていてもまるで場所が分からないので質問を変えてみる。


「緯度経度じゃなくて、住所で教えてくれる?」


 俺が横からそう質問すると、鏡はすぐに答えた。


『住所、〇〇県〇〇市……』


 最後まで住所を聞きながらメモを取る。


「ん?これ、ここの住所じゃない?」


「本当ね……」


 鏡が示した住所は、今俺たちがいるこの家の住所だった。


「何じゃと!?イリスはここにいるのか!?」


 家の中を隈なく捜索し始めるカルミラ。だが俺は気になった事がある。


「でも、うさぎの獣人とは言ってもマシュマロみたいに小さくないんでしょ?大きいうさぎがいたら流石に目立つと思うけどなぁ」


「ルッカも手伝うんだぞ」


 ルッカが捜索に手を貸しているのを見て、俺とフィオナも慌てて参加する。隅々まで探したのだが、案の定イリスは見つからなかった。


「おかしいんだぞ、誤作動のはずは無いんだぞ」


 頭を捻るルッカに、カルミラが詰め寄る。


「やっと手掛かりが見つかったと思ったのに酷いのじゃ!なんとかならんのか!?」


「ちょっとカルミラ、無理を言ってもしょうがないわよ」


 間に入って取りなそうとフィオナが奮闘しているが、カルミラにとってはまたとない好機だ、諦めきれない気持ちもよく分かる。


「聞き方変えたらなんとかならないかな、Hey!鏡!イリスの居る場所を映像で見せて」


「映像で?それはちょっと無理があるんじゃ……」


「鏡だしさ、いけそうじゃない?それに、マップで航空写真見たりするでしょ?似たようなものかなって」


 ちょっと理屈が強引だが、空気を変えたくて俺は無茶とも思える要求を投げた。


「鏡に何か映ってるぞ」


 ルッカの言葉に、俺たちは「え!?」と全員で鏡を覗き込んだ。そこには、小屋の中でスヤスヤ眠っているマシュマロの姿が映し出されていた。


「えーと、マシュマロは普通のうさぎなんだよね?」


「そのはずじゃが?本来のうさぎ獣人の完全獣化は以前も言った通り、マシュマロよりは大きいし牙や爪もあるからの、凶暴に見えるはずじゃ。少なくともこのような愛玩動物のような見た目ではないの」


「やはり誤作動じゃないのかしら。うさぎ獣人のイリスっていう検索が出来なくて、普通のうさぎでいちばん近くにいるマシュマロが引っかかったとか」


「ありそうだけどね……」


 三人で頭を抱える。結局手掛かりは幻だったのかと肩を落としたその時、諦めきれないカルミラが最後の悪あがきにでた。


「この映っておるうさぎについて詳しく教えて欲しいのじゃ」


『うさぎのプロフィールです。うさぎ獣人のイリス、今はマシュマロと呼ばれている。仲間たちと共にダンジョン探索を行っていたところ、事故により世界を跨いで飛ばされ、日本に現れた。こちらの世界では完全獣化した姿で固定されてしまい、戻ることが出来ずにいる。また完全獣化はこの世界の理に引っ張られ、可愛らしいうさぎの姿となっている』


 つらつらと述べられたその真実に、俺たちは言葉を発する事が出来なかった。


「イリス?……イリスなのか?」


 たっぷり数十秒フリーズしたカルミラだったが、復活してすぐにイリスの小屋へと駆け寄る。眠っているマシュマロを小屋からゆっくりと出して抱き上げる。動かされた事で目を覚ましたマシュマロが不思議そうに辺りを見回し、カルミラに抱き上げられている事に気が付くと、きゅーと鳴いた。


「イリス、分かるか!?わしじゃ、カルミラじゃ!」


 この辺りになって、俺とフィオナ、それにルッカの三人はマシュマロって名前でもう呼ばない方がいいのかなと逡巡していた。とにかく、マシュマロがイリスなのかどうかを確認するべく、話の行方を見守る事にした。


「そうじゃ、これをこうして……」


 カルミラは突然紙を取り出して何かを記していく。それは大きな丸とバツが書かれた2枚の紙だった。


「イリスなら会話の内容が分かるはずじゃ、質問させてもらうぞ?」


 目の前に二枚の紙を並べる。その様子を俺たちは固唾を飲んで見守っている。


「お主は間違いなくイリスなのか?」


 きゅー!と鳴きながら丸の方へ飛び乗った。


「おお!?」


 沸き立つ歓声に、少しビクつくマシュマロ改めイリス。そういえば気弱だとか前に言っていたな。


「次の質問じゃ、完全獣化を解くことが出来ぬのか?」


 丸の上から動く様子はない。どうやら解けないようだ。


「ふむ、困ったのう。一生この姿のままという事じゃろうか」


 その言葉に、イリスはきゅう……とか細い声で鳴いたかと思うと、小粒だが涙がこぼれ落ちる。


「可哀想なんだぞ……」


「どうにかならないのかしら」


「よし、それも鏡に聞いてみよう」


 なんとなく、答えをくれそうな気がしたのだ。なにせ、アカシックレコードだし。仮にダメでも、聞くこと自体は無駄では無いと思う。


「Hey!鏡!イリスの完全獣化の解き方教えて」


 この質問への回答には、少し時間が掛かった。といっても数秒程ではあるが。


『検索しています……魔法回路に問題が発生している可能性が高いです。魔法回路を修復することで改善する見込みがあります』


「魔法回路じゃと?」


 困った顔でカルミラがフィオナの方を見る。


「残念だけれど……魔法回路は、一度壊れてしまうと、修復する方法は存在しないわ」


「魔道具でもどうしようもないんだぞ」


「そんな……」


 あまりの絶望感に、場の空気が重くなる。現状解決策は存在せず、最後までうさぎの姿のまま一生を過ごすしかないのだ。


「しかしどうして魔法回路が壊れたりなんてしたのかしら……」


「それはわしにも分からんが……恐らく、こちらへ飛ばされた時に使われた魔法陣の影響ではないかとわしは思う。獣人族は種族的に獣化以外の魔法は使うことが出来ん。つまり、魔法回路そのものが未発達な種族とも言える訳じゃ。そこに転移魔法陣などという前人未到の大魔法を行使する魔法陣を使う事で、本来影響のない魔法回路を傷つけてしまったのではないかとわしは考えておる」


「そんな事があるんだぞ?」


「そういえば、前に似たような事故があったわね。魔法陣を研究している過程で、実験中に魔法回路が壊れた研究者が続出したっていう、謎の事故が」


「ええ、怖いねそれ」


 原因不明な事故で魔法回路を失うなんて、きっと恐ろしい事故だったに違いない。なにせ向こうの異世界では魔法が根幹の世界だろうし、使えないとなれば死活問題だろう。


「まぁ原因はともかく、治療は難しいと言わざるを得ない……ん?ちょっと待ってちょうだい」


 何かを考え始めるフィオナに、全員の視線が集まる。


「そういえばあの本の中に……」


 ブツブツと何やら呟くフィオナがはっと顔を上げる。


「凪、あの本あるかしら」


「あの本ってじいちゃんの?」


「そう、それよ!」


「ちょっと待ってて」


 急いで部屋から本を持ってきてフィオナに手渡す。


「ありがとう、確かこの中に……あったわ!」


「ふむふむ、これは……」


 覗き込んだカルミラが驚く声を上げた。


「魔法回路の修復を行う魔法陣じゃと?」


「そんなものまであるんだぞ?」


 それぞれが驚く中、カルミラは希望を見つけたとようやく普段の明るさを取り戻したように見えた。


「早速これを試すのじゃ!」


「それは構わないのだけれど、この魔法陣を使えば本に残された魔力は空になるわ。凪もいいかしら?」


「もちろん、悩むまでもないよ」


「恩に着るぞ」


 感謝を示すように頭を下げるカルミラに、俺たちは小さく笑った。

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