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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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鏡よ鏡

翌日、店を開けると疎らに客がやって来る。最初ほどの勢いこそ無いものの、それでも着実に顧客は増えていた。安定して売上が出るようになってきた上に、最近では修理依頼も少しずつ入るようになっている。


 ルッカは修理作業に追われ、セレフィアは五体のゴーレムを駆使しながら元気よく接客をこなしていた。フィオナは会計をしつつ、修理依頼の受付や引き渡しを担当している。ルッカが店頭に出る時間が減った今、自然とこういう役割分担になっていた。


「きゃ〜! この子かわいい!」


 店内の一角では、女性客がマシュマロを撫で回していた。マシュマロは嫌がる様子もなく、気持ち良さそうに目を細めている。


「ほら、おやつだよ〜」


 別の客が人参スティックを揺らすと、マシュマロはぴょこんと顔を上げ、口を開けて催促した。差し出された人参が吸い込まれるように口へ消えていき、ポリポリと小気味いい音を立てながら食べている。


 その様子は、まさに店のマスコットそのものだった。


 そんな光景をカウンター越しに眺めていたセレフィアが、ニヤリと笑う。


「ふふ、計画通り……」


 朝。いつものようにカルミラと一緒に現れたセレフィアは、何やら大きな袋を抱えていた。


「あーしは考えた! せっかくこんな可愛いうさぎがいるんだから、利用しない手はないって!」


「利用って言い方はちょっと嫌なんだぞ」


「そうよ、物じゃないのだから……」


 フィオナとルッカから即座にツッコミが入り、セレフィアは慌てて両手を振る。


「いやいや! 言葉選びはアレだったけど! この世界には“働かざる者食うべからず”って言葉があるんです!」


「別にマシュマロに働いてもらおうなんて思ってないのだけれど」


「イーリンだって働いてないんだぞ」


「うぐっ……」


 秒で論破されたセレフィアは悔しそうに唸った後、「とにかく!」と話を戻した。


「働くって言っても簡単なこと! これを見よ!」


 ドスン、と袋を机の上に置き、中身を広げる。


「これ……人参かしら?」


「人参なんだぞ」


「これをスティック状にして、お客さんに売る。そんで店でくつろいでるマシュマロに食べさせてもらうって寸法よ!」


「それって、いいのかしら……」


 フィオナは微妙そうに首を傾げる。ここは動物カフェではなく、あくまでリサイクル家電店だ。


「別にダメじゃないっしょ? 量とか時間をちゃんと管理すればさ。それに、マシュマロはおやつ貰えて、お客さんは癒されて、店も盛り上がる。三方良し!」


「ルッカはいいアイデアだと思うんだぞ」


 真っ先に賛成したのはルッカだった。


「食べるだけで仕事になるなんて羨ましいんだぞ。ルッカも代わって欲しいくらいなんだぞ」


「ルッカ、あなたねぇ……」


 フィオナは呆れたようにため息を吐いたが、どこか笑っている。


 結局、人参は細いスティック状に加工され、更に半分に切って量を調整することになった。流石に与え過ぎは良くないが、数人に体験してもらう程度なら問題は無いだろうという結論になったのだ。


「これで自分のおやつ代は自分で稼げるってわけ! 完璧!」


「まぁ、誰かが困る訳でもないし……いいんじゃないかしら」


 そう言いつつも、フィオナは「太らないかしら」と少し心配そうだった。


 そんな訳で、マシュマロは今日も盛大に甘やかされていた。


「本当に人参食べてるだけで稼げてるんだぞ……」


 様子を見に来たルッカが羨ましそうに呟く。


「だから量はちゃんと調整してるって!」


「分かっていても心配になるのよ」


 フィオナはまるで子供を見守る母親のようだった。


 営業終了まで、店内には黄色い歓声が響き続けていた。


「ただいま――お?」


 帰宅した俺は、庭の一角を見て思わず足を止めた。


 昨日までブルーシートで覆われていたラビットランが、ついに全貌を現していたのだ。


「おぉ……」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 金網で囲われた広々としたスペース。小さなカラフルコーンに、トンネル代わりの土管。画像で見せた参考例より、明らかに立派になっていた。


「おかえりなさい、どうしたの?」


「いや、ラビットラン凄いなって」


「朝から“開店までに作るんだぞ!”って張り切ってたわよ」


 フィオナがルッカの真似をするように腕を曲げ、力こぶポーズを作る。


「マシュマロも喜んでた?」


「ええ。夕方頃なんて、凄い勢いで走り回ってたわ」


 どうやら三時頃からおやつタイムを終了し、ラビットランに放していたらしい。


「見たかったなぁ……」


 少し悔しく思いながら家の中へ入る。


 二階で着替えを済ませ、ダイニングへ戻るとフィオナが声を掛けてきた。


「もうすぐご飯が出来るから、ルッカを呼んできて貰えるかしら」


「了解」


 俺はルッカの作業部屋へ向かう。


 中からはカンカンと何かを加工する音が響いていた。防音材を入れているお陰でそこまでうるさくはないが、かなり集中して作業しているらしい。


「ルッカ、ご飯だってさ。何作ってるの?」


「ああ凪、おかえりなんだぞ。入っていいんだぞ」


 部屋へ入ると、床には部品や工具が散乱していた。


「ちょっとは片付けた方がいいんじゃない? 踏んだら痛いよ?」


「すぐ使うものばっかりだから、一々片付けるの面倒なんだぞ……」


「まぁ、その気持ちは分からなくもないけど」


 俺はルッカの手元を覗き込む。


 そこにあったのは、一枚の鏡だった。


「それは?」


「真実を映し出す鏡なんだぞ」


「真実? なんか急にファンタジー感が強いね」


 八咫鏡かな? なんて考えつつも、それより気になったのは、なぜそんなものを作っているのかだった。


「なんでまたそんな鏡を?」


「カルミラに頼まれたんだぞ」


 ルッカは手を止めず、器用に鏡の縁を加工していく。


「真実を映すって言ったけど、本質は質問に答える鏡なんだぞ。Hey!〇iri!なんだぞ」


「結局そっちなんだ」


 神秘的な名前に対して急に俗っぽい。


「これでイリスを探すらしいんだぞ」


「なるほどねぇ」


 ゼラやセレフィアとは偶然出会えた。しかし、イリスだけは今も手掛かりがない。カルミラが焦る気持ちも分かる。


「もう完成しそう?」


「ガワはほぼ完成なんだぞ。後は魔道具化して機能を付けるだけなんだぞ」


 ハードは完成済みで、後はソフトウェア部分らしい。


 その辺りも、ルッカならすぐ終わらせてしまうのだろう。


「ちょっと! 何時まで喋ってるのよ!」


 勢いよく扉が開き、フィオナが入ってきた。


「ご飯が冷めちゃうでしょう!?」


「ご、ごめん」


「ごめんなさいなんだぞ」


 あまりの迫力に、俺たちは素直に謝るしかなかった。


 翌日、俺は休みを取っていた。


 仕事自体は年末まであるのだが、この時期は比較的落ち着いている。休みたい医者が延命しているだとか、逆にトドメを刺しているだとか、そんな陰謀論じみた話もあるが真偽は不明だ。


 葬儀屋という仕事柄、結局いつ忙しくなるかなんて誰にも分からない。


 店の方も、年始三日までは休みにする予定だった。


 久々の、三人だけのゆっくりした休日だ。


「もうすぐ今年も終わりだねぇ」


「まだ三日あるわよ。気が早いわね」


「餅が食べたいんだぞ」


 まったりとお茶を飲んでいると、黒いモヤと共にカルミラが現れた。


「おはようなのじゃ」


「カルミラ? 今日は店休みだよ?」


「分かっておるわ」


 カルミラは頷く。


「そうじゃなくて、以前頼んだアレはどうかと思ってのう」


「あー、あの鏡?」


 昨日見た鏡を思い出す。


「もう少し待って欲しいんだぞ」


「ふむ……急がせるようで悪いのう」


 仲間の行方が分からない以上、焦るのも当然だ。


「ガワは完成してるんだぞ。後は魔道具化だけなんだぞ」


「なんじゃ、ほぼ完成しておるではないか!」


 カルミラは嬉しそうに目を輝かせた。


「なら持ってくるんだぞ。今から仕上げるんだぞ」


「ああ、もちろん待つのじゃ!」


 ルッカは作業部屋へ向かい、すぐに鏡を抱えて戻ってきた。


「サクッと終わらせるんだぞ」


 ルッカの周囲に青いオーラが立ち昇る。


 鏡へ次々と文字や記号が刻まれていき、その光景はどこか幻想的だった。


「いつ見ても見事なものじゃのう」


 カルミラが感心したように呟く。


 しばらくして、青い光がふっと消えた。


「完成だぞ!」


「おおっ、流石じゃ! どれ早速――」


 待ちきれないとばかりにカルミラが鏡へ触れる。


 すると。


 ピピッ、と電子音が鳴った。


『ご要件はなんでしょうか』


 どこかで聞いた事のある機械音声が響く。


 思わず俺はズッコケそうになった。


「いや、そのままかい!」

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