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異世界の王女は現代で異世界の夢を見るか  作者: うあこ
第四章 二人の王女とお店経営
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命名、マシュマロ

「白玉にましろかぁ。悪くないんじゃない?」


 家に帰った俺は、フィオナたちから今日の出来事を聞いていた。朝、カルミラとセレフィアが店へ来た時の話や、店の様子、そしてうさぎ――いや、まだ名前の決まっていないこの子の話だ。


「そうよね、私もかわいい名前だと思うわ。この子にピッタリじゃない?」

「ルッカも賛成なんだぞ」


 二人ともかなり気に入っているようだった。どうやらそれぞれ別の候補も考えていたらしいのだが、聞いてみれば向こうの世界の魔物か何かみたいな名前ばかりで、最終的にセレフィアが出した「白玉」と「ましろ」が有力候補になったらしい。


「白玉って、あれよね。もちもちしたお餅みたいなお菓子」

「パフェに乗ってたやつなんだぞ?」


 以前、二人で甘い物を食べに行った時に乗っていたらしい。俺はその場にいなかったので想像するしかないが、ルッカは妙に気に入ったのか嬉しそうに話していた。


「美味しいよね、白玉。ペットの名前としても結構ありがちだけど、かわいいと思うよ」

「ましろは真っ白だから、って意味よね? もちろん合ってるのだけれど……色だけで決めるのは少し寂しい気もするのよね」

「たしかにそうなんだぞ。でも白玉も、そこまで共通点ある訳じゃないんじゃないか?」

「まぁね。ふわふわはしてるけど、別にもちもちではないし」


 テーブルの上で丸くなっているうさぎを見る。真っ白な毛並みは確かに綺麗で、ふわふわしていて、抱きしめたら気持ち良さそうだった。


「白くてふわふわ……かき氷とか?」

「要素は満たしてるけれど、名前としては微妙ね」

「可愛くないんだぞ」


 三人でうーんと頭を捻る。


 白い。ふわふわ。かわいい。


「雪とか、わたあめとか、マシュマロとか?」

「マシュマロ、いいじゃない。かわいいわ」

「その中ならマシュマロがオススメなんだぞ!」


 どうやら二人の中では決まりらしい。


 マシュマロかぁ。


 確かにふわふわしていて、この子の見た目にも合っている。けれど、俺はそこで少しだけ遊び心を出したくなった。


「じゃあ、マシュマロンとかどう?」

「ンはどこから来たのかしら?」


 不思議そうに首を傾げるフィオナに、俺はニヤリと笑って説明する。


「マロンって栗の事だからさ。ほら、この子ってかわいいけど結構蹴ってくるじゃない? カルミラも蹴られてたらしいし、チクチクした栗の外皮っぽい一面も――痛い痛い!」


 いつの間にか背後に回っていたうさぎが、俺の足に見事なドロップキックを決めてきた。


 いや待って、うさぎってそんな飛ぶの?


「意地悪言うから蹴られてるんだぞ」

「別に悪口じゃないだろ……」


 そう反論しかけた瞬間、今度は脛をぺしっと蹴られた。


「うわっ! もしかして考えてる事読んでたりしないよね?」

「まさかねぇ」


 フィオナは笑っているが、うさぎはぷいっと顔を背けている。


 なんだか本当に意思疎通しているみたいで少し怖い。


「普通にマシュマロでいいじゃない。かわいいし」


 フィオナはそう言いながら、うさぎの顔の高さまでしゃがみ込む。


「ねー?」


 猫撫で声で話しかけるフィオナに、うさぎはきゅーと鳴いた。


「それに、ンが付くだけでゲームに出てくる敵モンスターっぽいんだぞ」

「そうかなぁ……」


 納得できるような、できないような。


 結局そこまで拘る理由も無かったので、名前はシンプルに「マシュマロ」に決定した。


「これからよろしくね、マシュマロ」

「私たちは、これから家族よ」

「家族なんだぞ!」


 フィオナに抱き上げられたマシュマロは、嬉しそうにきゅー!と鳴いた。


「そういえば、ラビットランってどうなったの?」

「バッチリなんだぞ! ちょっと仕上げだけ残ってるけど、それさえ終わればいつでも遊べるんだぞ!」


 家に入る時、庭の隅にブルーシートが掛けられていた。恐らくあれがそうなのだろう。流石ルッカ、仕事が早い。


「それは楽しみだね。ねー、マシュマロ」


 顔を寄せてスリスリしようとした瞬間、今度は蹴りではなく前足によるパンチが飛んできた。


「ぐふっ!?」


 頬を叩かれ、変な声が漏れる。


「マシュマロって強くない?」

「さぁ……この世界のうさぎ事情は分からないし、普通かどうか判断が難しいのだけれど」


 いや絶対普通じゃないと思う。


 だって今、完全にボクシングみたいなフォームだったぞ。


「でもカルミラは、イリスとは関係ないって言ってたんだぞ」


 もう一人の獣人――うさぎの獣人であるイリス。もし異世界由来ならその可能性も考えたが、カルミラは否定していた。


「なら、普通のうさぎ……?」


 二本足で立ち、シュッシュッとシャドーボクシングしているこの生き物が?


「きっと特殊な訓練を受けたうさぎなのよ」

「毎日ネズミと追いかけっこしてるんだぞ!」

「そんなカー〇ゥーンみたいな世界ある?」


 そんな馬鹿話で盛り上がっていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「あ、そうだった!」


 俺は思い出したように立ち上がる。


「小日向さんに、うさぎを飼い始めたって話したら、ぜひ見に行きたいって言ってたんだよ」

「来客があるなら先に言ってちょうだいよ!」


 フィオナが慌てた様子で立ち上がる。


「ご、ごめん。完全に忘れてた……」

「そこまで気にする必要ないんだぞ」


 のんびりと言うルッカに、フィオナはビシッと指を突き付けた。


「バカおっしゃい! 出迎える準備も出来てない女だと思われたら、凪の評価まで下がるのよ!」

「そ、そこまで!?」

「当たり前でしょう! ルッカ、貴方も少し身支度整えて!」


 うさぎを見に来るだけとはいえ、フィオナは部屋を軽く片付けたり、お茶の用意をしたりと大忙しだ。


 俺は下手に動くと邪魔になりそうだったので、玄関の靴を揃えたりと簡単な事だけ済ませて扉を開けた。


「ごめん、待たせたかな」

「いえいえ! 急だったのに、会わせてもらえて嬉しいです!」


 ニコニコしている小日向に、俺は苦笑いしながら後ろを振り返る。


 ルッカが腕でバツを作っていた。


「えっと……もう少しだけ待ってもらえる?」

「構いませんけど……やっぱりご迷惑でしたか?」


 しゅんとした小日向に、俺は慌てて首を振る。


「違う違う! ちょうど名前決めてたんだよ。マシュマロって名前になった」

「マシュマロちゃん!」


 小日向の目が一瞬で輝いた。


「かわいい名前ですね!!」


 むふーっ! と鼻息が聞こえてきそうな勢いだ。


「落ち着いて、ちょっと怖いから……」

「すみません! でも絶対かわいいです!」


 再び後ろを見ると、今度はルッカが丸を作っていた。


「お待たせ、中へどうぞ」

「お邪魔します!」


 靴を脱いだ小日向は、迷いなくダイニングへ突撃していく。


 そういえばここ、元々小日向のおばあちゃんの家だったな。


 案内する必要なんて無かった。


「かわいいでちゅねー、もふもふでちゅねー」


 ダイニングに入った頃には、既に小日向がマシュマロを撫で回していた。


「いい子でちゅねー、ふわふわだねー」


 見た事のないテンションだった。


「あー、お茶を淹れてるから、良ければ召し上がってね」


 フィオナが声を掛けるが、小日向の耳には届いていない。


「かわいいねー、かわいいねー」


 完全にうさぎに脳を焼かれていた。


 俺は乾いた笑いを零しながら、その様子を眺める事しか出来なかった。


     ◇


「この度は大変な失礼を……」


 しばらくしてようやく落ち着いた小日向は、椅子に座ってフィオナの淹れたお茶を飲みながら深々と頭を下げた。


「構わないのだけれど、そんなにうさぎが好きなのかしら?」

「それはもう子供の頃からです!」


 スイッチが入った。


「小学校で飼ってたうさぎが本当にかわいくて! お世話係になれる年から毎年立候補してたんです! そしたらある日、その子が私の腕に耳をスリスリしてきて、まるで“構って?”って言ってるみたいで! もう我慢出来なくなって抱き締めながら校庭を転がってたら先生たちがやって来て、うさぎを引き離そうとするんですよ!? 酷くないですか!? 私は絶対離さないって叫んで――」

「ストップ!!」


 俺は慌てて止めた。


「これからがいい所なのに……」

「いや十分濃かったから」

「うさぎ狂いなんだぞ」

「否定できないわね……」


 フィオナとルッカも若干引いている。


「はっ! 私ったらまた!」


 ようやく我に返った小日向は顔を真っ赤にしていた。


 どうやら本当に、うさぎ関連になると理性が飛ぶタイプらしい。


 その後も小日向は散々マシュマロを撫で回し、「絶対また来ます!」と言い残して帰っていった。


「次は、ないわよ」

「はい……本当にすいませんでした」


 結局その後、俺はフィオナからたっぷり説教を受ける事になったのだった。

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