606話:パレード本番1
聖女は錬金術師だったかもしれない。
それは大発見とは言え、僕たちは学生だ。
学園行事を無視するわけにもいかない。
それに、本来参加予定なかったところに、僕たちはねじ込んだ形だ。
準備や練習で、時間はいくらあっても足りないし、他の学科のようなノウハウも存在しない。
先生たちも巻き込んだことから、そっちからもまず学校行事に集中しろとも言われた。
ってことで、聖女の遺物は一度置くことになる。
聖女教会の残党捕まえたり、規制したりでルキウサリアの国が動くのが落ち着いてからって話になった。
聖女教会も根幹断ったわけじゃないし、もっと苛烈なのいるらしいしね。
こっちが何かしたというよりも、聖女教会がへまをしたと捉えてもらうには、こっちも今は大人しくしておくべきだろう。
「思ったより学園のパレードってお祭り感あって楽しかった」
僕は初めて見た春の行事に、そう感想を述べる。
パレードと言っても軍事行動を元にしたものだけど、学生らしい軽快さもあり、選ばれた上位陣だけが参加というのも納得の練度もあった。
街の中を練り歩くパレードを見て、学園へと戻り、今は休憩中。
パレードの片付けもしつつ、学園の春の催しも行われてて周囲は賑わいで溢れてる。
けど手伝いの予定もない錬金術科は、人と落ち合う約束の待ち時時間で暇をしてた。
自然、僕らは雑談に移行する。
「帝都で見た軍馬並みに馬が立派だったのは、ルキウサリアが名馬の産地だからかな?」
感想を言う僕に、ラトラスとネヴロフは鼻をひくつかせて応じた。
「そうそう、学生が使うにしてはいい馬使ってるよね。武具にもお金かかってたし」
「馬で緊張してるのは若い奴ばっかで、年いってそうなのは平気な顔してたな」
するとエフィが、思い出すように首をひねる。
「一年時に聞いたが、馬専用の飼育員を要請する学舎があって、そこからの貸し出しらしい」
「三年目になるが、未だに知らない学舎も多いな。まぁ、関わらないから知る必要もないか」
ウー・ヤーは、方向音痴だから下手に知らない所を行かないほうがいいと思う。
学園の敷地だけでも広いんだし。
なんて思ってるのは僕だけじゃないらしく、同じ寮で方向音痴を助ける頻度が多いネヴロフも知らなくていいと言うように頷いてた。
これはさすがに、自分が捜して迎えに行くことになるってわかってるんだろう。
「見応えと練度は確かにあったわね。けれど驚きや目新しさは足りないんじゃないかしら」
イルメはちょっと得意げだ。
毎年見てるクラスメイトたちに聞くと、だいたいいつも同じだという。
足並みをそろえる歩兵、威容を誇る騎馬、乱れずマーチングをする楽隊。
輸送部隊を模した山車のようなものは、磨き上げた武器で飾られてたのは初めて見たけど、それも毎年のことらしい。
「確かに観客のほとんどが、パレード参加者の身内っぽかったね。それでも結構な人もいたけど。見ずに学園に向かう人も多かった」
僕がそう言った途端、突然怒声が飛んだ。
「おい、邪魔だ。関係のない奴は出ていけ!」
雑談してたら、片づけしてる何処かの騎士科らしい学生に怒られた。
たぶんイルメの批評を聞いて、腹を立てたんだろう。
僕はただ見た事実しか言ってないしね、うん。
あと、僕たち錬金術科ってわかるマント着てるから舐められたかな。
だいたいの学生は遠巻きにしてるだけだったのに、批評された途端声かけて来たし。
「僕たちも用事があるからここで待ってるんだよ」
僕が当たり障りなく流そうとすると、当のイルメが正論を叩き返した。
「周囲には物もなく、他人が通る場所でもないわ。何が邪魔だと言うのか説明してちょうだい」
「俺ら広がらないように固まってるんだから、邪魔じゃないだろ?」
ネヴロフも言えば、ウー・ヤーも続く。
「絡むにしてももう少し状況を見てから言うべきだな」
「関係がないと決めつける時点で何も知らされてないだけだろ」
エフィもまともに相手にする気が起きないのか、邪魔そうに手を振って見せた。
ラトラスは笑って、学生のほうに指を向ける。
「たぶん通り道で足止めてる君のほうが邪魔になってるからどいたほうがいいよ」
容赦ない上に、思春期の学生に正論を無情にぶつけたところで退くわけない。
予想どおり、様子見してた他の学生が、多勢に無勢の騎士科っぽい学生を助けに寄って来る。
そんな連帯感いらないんだけどなぁ。
だってそこ、ラトラスが言うように通り道なんだ。
邪魔になってるんだけど、十代の学生たちにはそんな周囲見る余裕はない。
「おっと」
僕はその中の一人が手袋を外したのを見て前に出る。
そして、イルメに投げつけられようとした手袋を受けた。
「うーん、これ古風?」
前世で漫画とかでしか見たことない決闘の申し入れだ。
つい聞いたら、エフィがあきれ顔で首を横に振る。
「いや、騎士同士だとたまにあるな。ただ、直接投げつけるのは侮辱の意味が強い」
「そう、だったらこっちも礼儀はいいか。三つ数えて、地面に手を突いたほうが負けね」
言って、僕が目を向けると、イルメが手早く応じた。
「竹光かもしれないけれど、武器を持ってるのに準備が足りないなんて情けないことは言わないでしょう。それでは、三つで始めるわ。一、二、三」
手袋を投げたほうは準備ができず、三まで数えられてから剣の柄を握る遅さ。
僕は三で大股に近づき、上から剣を押さえ込んで抜けなくする。
それと同時に無闇に距離を詰めて、相手の重心を不安定にした。
「どけ!」
「はいはい」
剣から離した手を振られて距離を開けると、まんまと相手が拳を握って振り下ろしてくる。
誘ったとおりの動きに、僕は拳に手を添えるように動かして、自分と拳が当たらない軌道を誘導しつつ身を引く。
そして対象に当たらず伸び切った腕を、重心移動と共に引いた。
途端に、腰の入ってなかった相手は前のめりになる。
僕の手元が見えなかった人からすれば、殴りかかった勢いで自分から転んだように見えるだろう。
そしてもちろん、相手は咄嗟に地面に手を突いた。
「はい、君の負け。腕を鍛えてパレードで格好つけるのもいいけど、軽挙妄動をしない精神の修養も疎かにしないほうがいいよ」
「な、な…………舐めやがって!」
地面から飛び起きて性懲りもなく挑んできた。
今度は避けて、それから足元を狙おうかと考えてたら、間延びした声が割って入る。
「駄目だすー」
僕と相手の間に入ったのは、秋田犬のヨトシペ。
僕と同じように相手の腕を引いてる。
けどそこは完全に力技。
そのままバランスを崩させたかと思ったら、流れるように背中から抱え込み、真上に放り投げた。
「ひぎぃやぁぁああ!?」
「口閉じないと舌噛むでげすー」
言いながら落下する鍛えた体の学生をキャッチしたかと思えば、また軽々と投げ上げる。
顎を上げて見上げないといけない距離飛んでるなぁ。
五回ぐらい飛ばされて、叫ぶ元気もなくなったらようやく下ろされた。
あまりの力技に、僕たちも騎士科っぽい学生の仲間も何も言えず。
地面に降ろされた学生は、ガクガク震えて動けなくなってた。
「円尾だ、ヤバいぞ…………!」
「超人だ、逃げないと…………!」
ざわざわ他から切迫した声が聞こえる。
うん、実はけっこう円尾の超人が危険って学内で常識なのかな?
「ありがとう、ヨトシペ。こっちに何か用があったの?」
「錬金術科が暗くなってからパレードするって聞いたでごわす。だから時間聞きに来たどす。アズ郎たちは今から準備だす?」
どうやら当日の予定表を見て、錬金術科として参加を知り見に来たらしい。
しかも匂いを辿って来たとか言ってるし、ラトラスとネヴロフは接近に気づいてたとか。
「そうそう。馬具とか楽器とかは学生たち共用の同じもの使うからね。仕舞い込まれる前にこっちで使うために確保するんだ」
「俺たちはその道具を運ぶ手伝いで来てるんだよ」
僕が言うと、ラトラスも教える。
するとネヴロフが声を上げた。
「お、あいつら来たぜ。って、止まったけどどうしたんだ?」
「な、なんで円尾の超人がいるんだ!?」
一緒に企画したリーウス校の学生が、ヨトシペの姿に逃げ腰だった。
エフィはちょっと遠い目をして呟く。
「そう言えば、魔法学科でも超人は物を壊す可能性が高いから、貴重なものは近づけるなと注意された覚えがある」
「あぁ、ヴラディル先生もあれこれ壊されたって言ってたことがあるな」
ウー・ヤーにも言われて、ヨトシペ照れたように笑った。
そう言えば僕も、くしゃみの勢いで魔石砕いたことあるとか聞いた覚えがある。
「うん、そうだね。ヨトシペ、向こうで話そうか」
「はいだすぅ」
僕一人でも大丈夫だったけど、怖がったリーウス校の学生が、錬金術科全員で円尾の超人に対処したほうがいいと懇願してきた。
そのせいで、手伝いに来たはずが何故か、全員でその場を離れることになったのだった、
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