607話:パレード本番2
パレードに使うものを運び出すためにいたら、ヨトシペがやってきた。
そして僕たち錬金術科はヨトシペの相手をするために、夕方の準備を横に置いて離れることになる。
「ヨトシペ、ちなみに何したの?」
「わかんないだす。けど、全部金属ですごく重いっていう槍持ち上げたことあるどす。その前に斧にぶつかって曲げたことあったでごわす。あ、馬はあーしから逃げるか、ずっと後ろついてくるようになるんでげす」
聞いてみても、よくわからない説明をされた。
うん、持ち手まで金属の槍を持ち上げるのはもう、鉄塊だってことはわかる。
斧ぶつかって曲げたのは、普通曲がらないよねって話なのもわかる。
けど馬って何?
けど同じ獣人のラトラスはわかった様子で頷いてた。
「あー、ヨトシペさん強いから、群れる動物はそうなるのか」
ネヴロフはヨトシペの行状なんて気にせず、今後の予定を聞く。
「この後どうする? ヨトシペさん何かある?」
「ないどすー。だからこっそり見て回ろうかと思ってたんでげす」
ヨトシペの答えに、ウー・ヤーが首を傾げた。
「こっそり? それに参加はしないのか? 身体強化を使わなくとも、大抵の力試しは勝てるだろうに」
「あーしら、九尾は学生時代で出禁でごわす」
それってつまり?
僕が言う前にイルメが確認する。
「つまり、ヴラディル先生たちも何かやらかして、競技系には参加できないと?」
「いったい何をしたんだ? いや、魔法以外も、獣人と竜人なら荒らせるか?」
エフィが呆れて、知ってる九尾を思い浮かべる様子だ。
というか、もう荒らすって言ってるよ。
もちろんヨトシペも迷いなく肯定したけど。
「腕力勝負はムッフィとトレビでも人間じゃ相手にならなかったでげす。剣とか槍はちょっと技術あっても、獣人相手にはどうにもならないどす。弓はヴィーとウィーが得意だっただす」
しかも魔法じゃなくて物理の話だった。
つまり、魔法は言わずもがなで、人間以外の種族の特性で争う必要もないと。
あと、ウェアレルたちはエルフの親の教育なのかな?
「あーしも学生時代は加減下手だったでごわす。石舞台粉砕したら出禁だったでげす」
ヨトシペが照れたように言うけど、荒らすって言われるくらいだから、相当な失敗をしたんだと思う。
いや、もう、石舞台粉砕って現実離れしすぎて想像もつかないよ。
なんて思ってたらイルメが腕まくりを始めた。
「毎年雑用で会場には来なかったから、人間の弓術を見たことなかったわ。今年は参加もいいわね」
「あれ、そうなの?」
僕が聞くとラトラスが応じる。
「前日までの雑用とかが主なんだけどね。ネヴロフとか力強いからずっと働かされてた」
「そうそう、人間たち重いもんあるとすぐ俺呼ぶんだ。ラトラスも身体強化できるからって手伝わされてた」
ネヴロフが頭の後ろで腕を組むと、ウー・ヤーも思い出すように言った。
「あと、演舞のようなことをやってる場所だと、客の整理はずっと立ってることになるな」
「正直、この顔ぶれは目立つから、名前も知らない他学科の奴を使う側からすると声をかけやすいんだ」
エフィが人間側の内情を告げる。
しかも丁寧な感じじゃなく、言い捨てるような雑用の押し付けらしい。
そうなると名前も知らない相手は不確かだ。
だから他種族で目立つ特徴のある僕のクラスメイトたちは、名指しで雑用押しつけられてたそうだ。
どうやら二年の間、あまり参加してなかった風なのは、目につくところにいると雑用させられるためらしい。
確かに、こういう腕試し好きそうなのに、いつも雑用してたとしか聞いてない。
参加してない僕ともしかしたら大差ない経験値かもしれなかった。
「つまり、ヨトシペが一緒の今は?」
僕が言うと、ウー・ヤーが手を打った。
「そうだな、さっきの様子からしても、進んで声をかけられることもない」
「いや、そもそも今回は雑用しなくていいんだから、断ればいいとは思うけどね」
ラトラスが苦笑いすると、ネヴロフは首を捻る。
「そう言えば出禁って、どんな感じなんだ? 見るのも駄目なのか?」
「そんなことはないはずよ。そもそも学生時代の出禁だなんてもう無効でしょ」
正しいことを言った風なイルメに、ヨトシペも笑顔になって尻尾を振る。
現在も警戒されてる様子、さっき見たけどな。
あと、結局は勢いで物壊して修復不能にされるのが困るんだと思う。
ただそう考えると、確かに見るだけで文句を言われる筋合いもなさそうだし。
なんて僕が考えてたら、ヨトシペが丸い秋田犬の尻尾を盛大に振った。
「だったら久しぶりに遊びたいだすー」
なんか勢いで行くことになった。
けど、僕は待ったをかけた。
いや、もう荒らしになるのは好きにしてと思う。
どうせ僕じゃ止められないし、ヨトシペも一応手加減は覚えてる大人だし。
だからこれは僕の私用だ。
「僕は、教養学科のほうの様子を見に行きたいんだ」
「レックスか。だったら俺もそっちのほうが気になるな。正直、魔法学科も競技を開いてるから、あまり近づいても面倒ごとにしかならない」
エフィが言うと、ラトラスも手を挙げた。
「俺も荒らすより、そっちかな。急に動かれたりすると反射で爪出るし。引っかけて文句言われるのも面倒そう」
言われて僕は、ヨトシペ、イルメ、ウー・ヤー、ネヴロフを見る。
ヨトシペは参加するかしないにしても、このメンツで参加すると荒らすことになりそうだ。
少なくとも僕のクラスメイトは手加減なんてしなさそうな顔ぶれだし。
まぁ、イベントごとだしいいか。
きっとそういうアクシデント対処も、学生の内に教師からのフォローを受けられる状況で経験するのも学びの内だろう。
ただそれはそれとして、注意だけはしておこう。
「道具とかは壊さないようにね」
一応の注意をした上で、大人のヨトシペにも安全策を言っておく。
「正直、学生相手なんてあそびにもならないんじゃないかな? だったら対戦相手を自分で連れてくれば、場所とか道具借りるだけの参加はできるんじゃない? 九尾の誰かとかさ」
「あ、だったらイールとニール捜すだす」
ユキヒョウ先生たちってことは、身体強化の魔法ありきかな?
ウェアレルとヴラディル先生は風属性の魔法使いだし。
「いたら、声かけてほしいどす。うーん、向こうにいそうな匂いあるだす、呼んできてほしいでげす」
実は年相応な内面してるヨトシペは、ネヴロフにお願いする。
もちろん善意で即座に請け負うんだけど、それって、面倒ごとから逃げるユキヒョウ先生たちを油断させる手じゃない?
まぁ、いいか。
僕はラトラスとエフィと一緒に教養学科がやってるボードゲーム会場に向かうことにした。
場所はラクス城校の講堂。
受験も行われる広く開けた空間だ。
「わ、けっこうな規模になってる」
「提案しておいて本当に何も知らないのか?」
僕の驚きの声に、エフィが呆れて聞く。
それにラトラスは笑った。
「夜のパレードのことで、他の学科に回ってたりしたしね」
「一応、ディオラと打ち合わせる時に様子聞いたりもしてはいたよ」
その時に、意見聞かれたりしてたし、ソティリオスが錬金術科に来たこともある。
ただ聖女の遺物関連の手回しとかもあって、完成形は見てないってだけだ。
広い講堂には左右に通路と観客席にできそうな階段状のスペースがある。
入り口付近には今やってる試合の人員の簡単な紹介、すでに終わってる試合の記譜。
「奥の方に人が集まってるね。レックスの試合見るものじゃないの?」
「いや、これだけ距離があると何してるかなんてよくは見えないな」
獣人のラトラスの視力に、エフィはわからないという。
僕たちは奥に向かいながら、講堂の中央で今行われてる試合を横目に進む。
「奥のほうでは確か、今やってる試合の解説してるはずだよ」
テレビもマイクもないと、実況は難しかった。
体を使う競技と違って、実況は盛り上がりよりも邪魔になると判断されたんだ。
集中力とか考える力を奪う形になるって。
そう言えば将棋の試合って、実況解説みたいなのは別部屋だった。
カードゲームならガンガンに音楽かけたりで、いっそ他人の声をかき消す勢いだけど。
ここじゃできなくて断念したんだ。
だから、選手とは放した場所で解説してるはず。
実況は、その解説の実況って言う形になった。
「ほら、審判として張り付いてる人以外に、歩き回ってる人。あれは試合状況を書いて解説に回す役のはずだよ」
カメラでリアルタイムなんて無理だし、だったら人力で解決するしかない。
結果、記録係が行き交う形になってる。
無駄な音を立てずに動き回るって、案外貴族の礼儀作法の上では必要スキルらしい。
家を継げないと、別の家の上級使用人っていう雇用先も見据える必要があるからって。
だから記録係に選ばれたのは、礼儀作法の成績上位者っていうのをディオラに聞いた。
なんか腕の見せ所的な感じで、選抜みたいなこともやったそうだ。
「あとは、僕がやったことないって言ったこともあって、見学者がレックスするためのスペースを作るって聞いたかな?」
それらしい所に着くと、ちょうど訪ねてきたソティリオスの姿を見つけることになった。
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