表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

暇な人達2

 一回戦が終わって、残っているのは私、リオネル、レオナルド、アルバーノです。

 私の次の相手は、リオネルですね。

 これは一撃で、胸の花が散りそうな相手です。一定の打撃はマジックアイテムたる花が受けてくれるとはいえ、リオネル相手では不安です。

 過去の鍛錬から見ても、その動きの速さは目で追うのもやっとなのですから。

 ですから、とっとと棄権してしまおうかとも思ったのです。が、一回戦でリオネルの対戦相手だったアンジェリカが、バカと一緒に控え室にやってきて激励なんてなさるから。


「おい、アンジェがああまで応援してるんだ。まさか、棄権なんてしないだろうな」


 と、まあバカの嫁バカな発言をいただく始末です。

 しかも、タイミングが悪いことに、控え室には幼い王子も激励に来ていらして。


「叔父上。イレーヌが棄権なんてするわけ無いじゃないですか。最強なんですから」


 などと、大変ありがたくも意味の分からないお言葉を、バカへと言ってくださいました。

 一緒に居たドミニクやヨハンくん。どうして王子の言葉にうなづいているんでしょうかね?先ほどの試合は、あくまで作戦勝ちで私は一介の貴族の子女に過ぎないのですが。それに、あの作戦はヨハンくんも一緒に考えたでしょう?

 

「ありがたいお言葉です。が、生憎先の試合にて以後は召喚を禁じられた以上、リオネルと正面から試合して勝てるとは」


 信頼しきった目で見てくださる王子を傷つけまいと、やんわりと言葉を紡ぐ。

 そう、唯一私がこのトーナメントで勝機のある方法が、使えなくなってしまったのです。試合の結果は無効にはなりませんでした。が、他者の力を借りる召喚は、この大会の意義たる最強を決めるのに相応しくないとのこと。

 剣を己が得物とする騎士の多くからの訴えにより、先ほどそう決まったそうです。

 正々堂々と正面から戦うなどど、戦いを生業としている者が有利じゃないですか。

 繰り返していいますが、私は貴族の子女です。学園でレオナルドから剣技を習いはしましたが、決して得手ではないのですよ。

 しかし、どうやらこの国の王家というものは、思い込んだら一直線のようで。


「そんな!イレーヌだったら勝てるもの」


 いやいやいや。

 王子、先ほどのリオネルとアンジェリカの試合観てましたよね。凄かったですよね。

 あんな残像が生じるほどの動きが出来る騎士相手に、どう勝てと。

 何とか王子を説得して棄権しようと、言葉を重ねました。が、そうしている間にも時間は過ぎるもので。

 気づけば試合まで間もなくという、今更棄権とは言い出せない時間になってしまいました。

 こうなっては仕方ありません。

 覚悟を決めましょう。

 もしかしたら一撃くらいは反撃出来るかも知れません。

 ……嘘です。ごめんなさい、ドミニク。姉さん、胃が痛いです。





 試合会場。

 対峙するリオネルは、相変わらず涼し気な顔をしています。先の試合での疲労などどこにも残っていなさそうです。疲れていれば、速さもわずかとはいえ落ちるかと、若干期待していましたのに。

 ああ、もうこうなったら一か八かです。カウンターが成功することを祈りましょう。

 審判役の騎士が一歩下がる。

 開始の合図と共に、リオネルが間合いを詰めてきます。

 こんなことなら早口も練習しておくのだったと、後悔しながら必死に詠唱を紡ぐ。

 視線はリオネルの剣の柄から離さない。

 彼の手が動く。

 抜き打ちの一閃が私の服を掠めるのと、ほぼ時同じく詠唱が完成。

 “転移”による死角からの強襲。

 これしか、私には実行できそうな策を思いつけませんでした。。

 ですが、服を掠めたことで体勢を崩したせいか、本来の出現場所とは異なる場所へと姿を現すこととなりました。

 固い地面を蹴るはずだった足の裏には、何の感触もなく。

 それどころか空中に放り出された浮遊感。そして急な落下に驚いている間もなく、何か柔らかい物が足にあたりました。落下による崩れた体勢では有りましたが、自然、下へと視線は動きました。そして視界に映る光景に、一瞬思考が真っ白となりました。

 本来なら、体勢を立て直そうと動くべきでした。

 しかし、私の足は見事にリオネルの顔を踏んでおりました。多分、私が消えたことで死角へと視線を動かした際に、偶然ぶつかったのでしょう。

 だから、私の足を顔面で受け止めきれるはずもなく、そのまま彼は私の下敷きとなりました。

 私は、尻餅をつく形で彼の上に居ました。動こうにも、私自身落下の衝撃で、身体が痛くてたまりません。

 わずかな合間に起こった出来事に、会場の誰もが沈黙です。


「……イレーヌ」


 くぐもったリオネルの声。

 さすがに彼もこれは痛かったようで、辛そうな声音でした。

 早くどいてあげなければ。

 そう思ったのですが、彼の次の言葉に思わず我を忘れてしまいました。


「重い」


 失敬な。

 確かに療養の身の間に、若干肉付きが良くなったとは思います。が、重いと言われるほどではないでしょう!

 カッとなった私は、杖を振り上げ、そのまま鈍い音が出そうな勢いでリオネルの頭を叩いてしまいました。





 只今、反省中です。

 結局、カッとなっての連打が効いたのか、リオネルの胸の花は散り、試合は私の勝利で幕を閉じました。

 ええ、私の勝利です。

 審判が勝利を告げた時、会場の微妙な空気と言ったら。

 他の方々の試合が、鮮やかな剣技によって決着をみているのに比べて、さすがに今回の試合はあんまりでした。

 でも、私だってこういう形になるなんて、まったく思っていなかったんですよ。誰が好んで多くの方が見る試合にて、リオネルを尻の下に敷こうだなんて考えますか。

 観客席の騎士の方々の目が痛かったです。多分、あれは無いなーとか思ってますよ。

 試合を見ていらしたレオナルドが笑みを浮かべてくださいましたが、あれ絶対にひきつってましたよ。

 でも、何故か、私の控え室に来てくださる方々は、好意的に解釈をしてくださるようで。王子は素直に私の勝利を喜んでくださるし、アンジェリカはあんな戦い方もあるのねと、感心してくださるし、いたたまれません。

 それに、リオネルの剣が掠めた部分が、その剣速のせいか“転移”の際にか、すっぱりと裂けていました。

 右脇から正面へと綺麗な裂け目からは、下着が見えてしまっています。

 控え室に戻ってから、それに気づいた時にはもう顔から火が出るかと思う位恥ずかしかったです。

 これ、皆に見られましたよね。

 ……もう、もうダメ。

 一刻もはやく家に帰りたいです。

 棄権させてください。どうせ、次の対戦相手はレオナルドでしょうから、今度こそ勝ち目はないです。

 こんな心が弱った状態でキラキラなんて直視したら、壊れます。なんだかよくわからないけど、大事な何かが壊れます。

 だから、本当に棄権させてください!



この後、イレーヌは棄権しました。

壊れるのは理性ですかね。

続きは別の人視点になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ