第33話 無自覚チート
俺の名前は『無字角 千依斗』。
地球の日本という国から来た転生者だ。
しかし残念ながら、漫画やアニメの主人公のような特別な力は無い。
《超剣術S》
《超魔力S》
《超格闘術S》
その他、数々の平凡なスキルを持ち、総ステータスはたった1億2315万。
冒険者ランクはアルファベットで数えると、下も下のSランク。
そして全属性の神級魔法が使える程度だ。
本当に大したことがない。
そんな俺は今、約1週間の船旅を経て、隣の大陸『イケナイ国』に到着した。
なんでも俺をこの世界に転生させた神『ヴィシュヌ』の遣い、神獣フェンリルからの連絡が途絶えたらしく、その行方を探ってほしいとか。
やれやれ、飼い犬の世話くらい自分でやってほしいものだ。
とにかく神獣がいなくなったとされる『チコク町』へ向け、馬車に乗った。
◇
馬車に揺られて2日後――
「うわあああぁぁぁ!」
御者の叫び声とともに、馬車は急停止した。
なんだ?
客車内の乗客がざわざわと騒がしくなる。
するとまもなく、ガタガタと震えた御者が客車の中へ入ってきた。
「用心棒のスグ・ニゲルさん……キングベアーが……!」
「ほう、Aランク魔物とは珍しいな」
そう言うと、1人の大男が立ち上がる。
首から下げた『Aランク冒険者』のギルド証を見るに、かなりの実力だろう。
「キングベアー1頭くらい、ひと捻りしてやるよ」
「それが……群れなのです……」
「ほ……ほう……まあ任せときな!」
そう言ってスグ・ニゲルは馬車から降り……どこかへ走り去っていった。
「悪いな!
ちょっとトイレに行ってくるぜー!」
「そんな!
だ、だれか冒険者様はいらっしゃいませんか!?」
……他に冒険者は俺だけのようだな。
やれやれ、仕方ない。
俺は客車のドアを開けると、前方の20頭ほどいるクマの群れに地魔法を放ち、串刺しにした。
「これでいいか?」
「「「えー!」」」
客車内の乗客から驚愕の声が上がった。
「すごい……キングベアーの硬い皮膚をいとも簡単に……!」
たかがクマを黙らせただけなんだが……。
もしかして俺、やっちゃいましたか?
「ああっ!」
今度はなんだ?
「キングベアーに驚いた馬が逃げてしまった……これでは動くことが……」
「なんだ、そんなことか」
俺は風魔法で馬車を浮かせた。
「方角さえ教えてくれれば俺が操作しよう」
「「「えー!」」」
「馬車ほどのものを自在に操る魔法なんて見たことがない!」
……こんなことで騒がしいな。
もしかして俺、またやっちゃいましたか?
そんな中、1人の乗客から声をかけられた。
「あの……私、商人のタカ・タネットと申します!
この魔物、すべて買い取らせていただけませんか?」
「いや、俺には必要ない。
代わりにその買い取り金額を恵まれない子どもたちへ募金してくれ」
「「「えー!」」」
「チャリティ番組なのに高額のギャラを受け取る冒険者もいるというのに、なんて素晴らしい人だ!」
最低限の生活ができればいいし、ただ解体が面倒なだけなんだが。
もしかして俺、またやっちゃいましたか?
その後、クマの解体に手間取っていたし早くチコク町へ向かいたかったから、すべて俺が運んでやろうと《アイテムボックス》に入れたら、そのスキルにみんな驚いていた。
こんなスキル、荷運びや腐敗防止くらいしか用途がないのに、
「もしかして俺、またやっちゃいましたか?」
そうして俺は馬車を風魔法で操作し、チコク町へ向かった。
◇
4時間後、チコク町に到着した。
「この度は本当にありがとうございました……しかし、あなたはいったい何者なんですか?」
「ああ、俺はただのSランク冒険者だよ」
「「「えー!」」」
「世界に6人しかいないといわれる……あの!?」
こんな雑魚冒険者、そこらじゅうにいるだろうになにを驚いてるんだ?
もしかして俺、またやっちゃいましたか?
そんなことより、噂話を聞いた俺は『チコク魔法学校』へ向かうことにした。
噂によると、その学校の裏山でフェンリルが目撃されたらしい。
それにしても……魔法学校の学生といえば、おそらく強い冒険者に最も憧れている世代だろう。
「ふへへ……」
【説明しよう!
あらゆる作品の無自覚チート系のキャラクターは――
無自覚のフリをしているだけである!】
「いっけなーい! 遅刻遅刻ー!」
「私、コムギーノ・カホ! 14歳! ド田舎育ちのパン屋の娘で、チコク魔法学校2年生!」
おっと、ちょうど後ろから食パンくわえて遅刻中の女学生が走ってきてるみたいだな。
そこの曲がり角から俺、登場
↓
ぶつかる
↓
俺「大丈夫かい?」Sランクギルド証チラッ
↓
女学生「キュン、好き」
↓
俺「もしかして俺、またやっちゃいましたか?」
……これだな。
さーて、ヒロイン1号を確保して、無自覚ハーレム主人公生活といきますか!
タイミングを見計らって……。
いまだ!
『ズドン――』
「えっ!?」
「もしかして私、またやっちゃったー!?」
【カホとぶつかった千依斗は、衝撃で記憶をなくした。
そして真の無自覚チート系として生まれ変わったという。】




