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おっさんの大切なもの

 あれから約1ヶ月。

 ハーナさんは自力で立ち上がり、歩けるようになるまでに回復していた。


「トシローさん……本当にありがとうございます」


 そう、俺はあのとき――


 ◇


《エリクサーの生成に成功。》


 《賢者》の無機質な声を聞きながら、ほっと胸を撫で下ろした。

 いや、こうしちゃおれん!

 すぐにエリクサーを飲ませると、ハーナさんは青白い光に包まれ、


《ウイルスの消滅を確認。

病状は完全回復。》


「今の光……!

それってエリクサーじゃ!?」


「ああ、それがどうかしたか?」


「『どうかしたか?』って……!

エリクサーって1本で王都に家が建つって言われるほどの高級品よ!

そんなの私に払えるわけが……」


「いーっていーって!

金なんかより大事な命だろ?」


「トスロー……」


「それに、安心するのは早い。

長い間寝たきりで栄養も筋肉も足りてない……完全回復には時間がかかる」


 これは回復魔法でもどうにもならないらしい。


「どうしたら……」


「ま、俺に任せとけって!」


 ◇


 ハーナさんは俺の介護で、寝たきりだったとは思えないほど元気になった。

 トレーニングや食事補助は散々やってきた……介護職がこんなところで役立つとは思わなかった。

 しかしハーナさん、改めて見ると綺麗な人だ。

 ちなみに40歳らしい……もしかして、ワンチャンあるか?

 と思ったそのとき、ぽかぽかとマーナが殴ってきた。


「痛いって!

どうしたんだよ?」


「なんか……嫌な感じしたから……」


 ちなみにマーナは19歳。


 俺にも娘がいたらこんなガサツに……いたたたたた!


「マーナがこんなに良い人を連れてくるなんて……」


「いやー、大したことないですよ!

困ったことがあったらいつでも言ってください!」


「感謝してもしきれません……もし良ければ娘を今後もよろしくお願いします」


「ちょっとママ!

そんなんじゃないから!」

「でもまあ……無くはないけど……」


 ん?

 最後の方聞き取れなかったな?


「何か言ったか?」


「べ、べつに!

それより!

お昼、冷めないうちに食べてよね!」


 ハーナさんはくすくすと笑ってるけど、なにがおかしいんだ?

 そしてお昼を食べ終わる頃、マーナが不安そうに話し始めた。


「最近また住民がキングベアーに襲われたんだって……これで10回目だよ?

魔王が討伐されて、やっと平和になるはずだったのに……」


 話によれば、新たな魔王城がこの町の近くに出現したらしい。

 その影響か、魔王城近くに住んでいたキングベアーがあの森へ住処を移したと考えられてるみたいだ。

 これはいつかガネーシャが言っていた『異変』と関係があるのだろうか。


「安心しろ!

そんなポッと出の魔王なんて、俺が倒してやるよ!」


 俺はハーナさんが回復するまでの期間に、ありとあらゆるスキルを高めてきた。

 キングベアーも今なら1人で文字通りワンパンだ。


「だめ!

行かないで!

討伐に向かった冒険者たちも誰ひとり帰ってこないんだよ!」


 マーナ……!


「そんな危険なところ……トシローに、もしものことがあったら……私……!」


 もう名前の発音は完璧だ。

 まだ1ヶ月と短いが……マーナも俺を大切に思って一生懸命練習したんだろう。


「……お前らの身に危険があるかもしれんだろ、それは見過ごせない」


「でも……」


 それまで黙って聞いていたハーナさんが口を開いた。


「……きっと大丈夫、トシローさんの強さはSランク冒険者と同等以上。

総ステータス1億4000万なんて聞いたことが無いわ」


「そう、大丈夫だ!

俺は必ず魔王を討伐してみせる!」


 この世界で1番大切な人を守る!


「わかった……帰ってこないと許さないから!」


 マーナは俺の唇にキスをした。


 ――


 そして5日後。

 灼熱に燃え盛る迷宮。

 並の冒険者なら立っているのもやっとの熱さの中、宝玉を通してガネーシャと連絡を取り合う。


〈この雰囲気は……今までとわけが違います。

注意して進んでください〉


 ガネーシャの言葉通り、迷宮内はキングベアーとは比べ物にならない数々の強敵。

 そいつらをなんとか倒し、


〈ここがおそらく最深部でしょう〉


 そこに現れたのは――


「おやおや、新居の掃除は済ませたと思いましたが……まだゴキブリが残っていましたか」


〈あれは……伝説のシャッフルデーモン!

総ステータス5億超えのSSS級魔物です!〉


「こいつが新しい魔王か……?」


 ヤバそうなオーラだ……。

 だが……!


「やるしかねえよなぁ!」


 俺たちの運命をかけた戦いが始まる……!


 ◇


 私、コムギーノ・カホ! 14歳!

 ド田舎育ちのパン屋の娘で、チコク魔法学校2年生!

 詳しくは第1話を見てね!


【説明しよう!

 チコク魔法学校とは――

 今回は話が長引いたので省略するのである!】


 学校終わったから家に帰るよ!

 今日はちょっと肌寒いから、あったかい道から行こっと!

 るん♪

 るん♫

 ……ってあれ?

 おじさんと……ピエロさんがダンスしてる?

 たのしそー!


「おじさーん!

ピエロさーん!

私も混ぜてー!」


「は!?

なんだこのガキ!?

……ってガネーシャ!?

なんで通信切るんだ……〈幸あれ!〉ってなんだよ!

おい!」


「またゴキブリが……汚らわしい!

消えなさい!」

「真・豪熱ガイアハリケーンフィンガーーーーー!」


「えっ!?

そんな勢いよく手を繋いじゃだめっ!」


 シャッフルデーモンは消し飛んだ。


【説明しよう!

 カホが両手を突き出しNOを突きつけたとき!

 両手から波動を生み出したのである!

 要するに――

 波〇拳である!】


「……え?

おい《賢者》……何が起きたんだ!?

ニゲロ……?

どういうことだ!?」


 あれ?

 ピエロさん帰っちゃった?

 なら……。


「おじさん!」


「ひっ!」


「踊ろう!」


「えっ!

あっ……。

そういえば!

今日は早く帰ってくるようにって言われてたんです!」

「では失礼しまーーす!」


 え!?

 なんで行っちゃうの!?

 さっきまで楽しそうだったのに……?


「もしかして私、またやっちゃったー!?」


【帰宅した俊郎を迎えたマーナはボロボロに泣いた。

 そして『溶岩の迷宮』最深部までの調査記録をギルドに提出した俊郎は無事、Sランク冒険者となった。

 しかし最深部で遭遇したデーモンについての回答には歯切れが悪かったという。】

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