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おっさん、異世界へ

 俺の名前は中峰俊郎(なかみね としろう)。

 生まれも育ちも日本の、ごく普通の42歳……未婚だ。

 若い頃は悪い仲間とヤンチャばかりしていたが、親父の病気が発覚して……目が覚めた。

 俺はいつまで人に迷惑かけるつもりだ。

 それからは人の役に立ちたい、そして少しは親父の助けになれるかと思い、介護の仕事をしていた。

 そんなある日。

 仕事帰りに忘れ物に気づき、会社へ取りに戻ろうと引き返したそのとき――

 暴走したトラックが突っ込んできて、俺の人生はあっけなく幕を閉じた。


 『もっと親孝行しておけばよかった』

 『親父が死ぬ前に、孫の顔くらい見せてやりたかった』


 なんて、先に死んでしまってどうするんだ。

 そこで俺の意識は、プツリと途切れた。


 ――


 目が覚めた。

 あたりは真っ白な空間。

 ここは……病院じゃないな。

 やっぱり、死んだのか。


「俊郎」


 背後から俺を呼ぶ声!


「だ……誰だ!」


 振り返るとそこには、頭が象の……人?

 まさか!


「そう、私はガネーシャ」


 俺の思考を読み取ったように返事が返ってきた。


「ははっ……夢でも見ているのか?」


「残念ながら……あなたは交通事故で亡くなってしまいました」


 現実なのか? 信じられないが……。


「これは現実であり、ここは世界の狭間。

本来であれば、あなたはここへ来ることもなく、すぐに輪廻の流れに乗り新たな生へ転生するはずでした」


「本来なら……?」


「あなたはあの場で死ぬ運命ではなかったのです」


 なんだって……!


「なら! 生き返らせてくれ!

俺はまだ……!」


「残念ながら、それはできないのです」


 なぜだ……!

 じゃあなんでわざわざ……そんな現実を突きつけるためだけに連れてきたっていうのか!?


「そう思うのも無理はありません」


 やっぱり、こいつ……神は俺の思考を読んでいるみたいだ。


「一度失われた命を元に戻すことはできないのです。

その代わり、希望するならあなたには別世界へ転生する許可が与えられています」

「あなたたちの世界でいう、剣と魔法の世界です」


 え……まさか!

 これが異世界転生というやつか!?


「もちろん、あなたが思うようなスキルもできる限り授けましょう」


 スキル……!

 これを聞いてテンションが上がらない男はいないだろう。

 不覚にもわくわくしてしまう。

 

「ただし、この世界では今、私たち神でも把握できていない異変が起きています。

本来この世界を守護していた神も行方不明になりました……あなたにはその原因を調査してほしいのです」


「わかんねーけど、神がわからんものを俺がわかるのか?」


「私たちから見える範囲では限界がありますから。

それに……悪魔との協定で、神が人間界に下手に手を出すと悪魔が何をするかわかりませんし……。

それでも了承していただけるなら、この宝玉を受け取ってください……私と意思疎通できるアイテムです」


 ここまで聞いて、迷いはなかった。

 どうせ日本にはもう戻れないんだ。

 生まれ変わって親父やおふくろのことを忘れてしまうくらいなら……!


「やるぜ!

スキルもくれるんだろ!?」


 俺が宝玉をガッシリ掴むと、ガネーシャは微笑んだ。


「もちろんです」

「では……目を閉じて胸に手を当ててください」


 指示通りに目を閉じると、胸の奥から力が湧いて出てくる。


「……終わりました。

ステータスオープンと念じてみてください」


 ステータス、オープン!


 《身体能力超強化》

 《全属性魔法適性》

 《賢者》

 《鑑定》

 《アイテムボックス》

 《錬金術》

 《自動回復》

 《状態異常無効》

 《言語理解》

 《経験値倍化》

 《ガネーシャの加護》


 すげぇ……どれも見たことあるチートスキルだらけだ。


「それと、年齢や見た目を変えることもできますが……」


「いや、親父とおふくろに貰った大事な体だ。

このままで頼む」


「わかりました、では転生を始めますがよろしいですね?」


「……ああ」


 次の瞬間、俺の視界は光に包まれ――

 気づいたときにはだだっ広い草原の上だった。

 ここが……異世界か……。

 しかし、いざ別世界に来ると何をすればいいんだ?


《地図情報確認。

前方10キロ先に町あり。》


「うおっ!

なんだ!?」


 ……もしかして!


 《賢者》――知識・解析・探知によって行動をサポートする――


 なるほど、これが賢者か。

 漫画やアニメで散々見てきたが……スマホやPCも無いだろうこの世界だと便利さが実感できる。


「……とりあえず町を目指すか」


 しばらく歩き続けると、遠目に町が見えてきた。

 そのとき――


「きゃーーーーー!」


 なんだ!? 悲鳴!?


《90°右。

300m先。

森の中から生体反応を検知。》


「なにがあったかわかるか!?」


《生体反応情報から、人間および魔物と推測。》


「なんだって!?」


 それを聞いた途端、俺の足は自然と森へ向かって走っていた。


「俺……こんなに速かったか……?」


 いや、余計なことを考えてる場合じゃない!

 一心不乱に走るとそこには――


「グオオオォォォォ!」


 今にも魔物に少女が食われそうになっていた。

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