6 あなたを追って……
西野隼人?
一瞬、不覚にも誰の事だ?
なんて考えてしまった。
勿論、俺はこの名前を知っている。
18年間はこの名前で生きていたから。
でも何故シエラの口からその名前が……
ボロボロの身体ながらも、俺の興味はそこに向いていた。
「……シエラ? 何故……」
「あっ間違え……にぃに!」
2歳のシエラは俺の事をにぃにと呼んでいる。
「いや、ごめん、頭が回らないくらい混乱して……君は?」
「にぃに! 大丈夫なんだね。生きてるんだね! 良かった!」
シエラが涙を流して俺に被さってきた。
いたた……やはりおかしい。
こんなはっきり言葉が話せる2歳児はいないはず。
そんなことよりまず返事だな。
「ああ、こうして生きてるよ。何か心配かけてごめん」
「もう! ほんとに……ほんとに……死んじゃったと思ったんだから。せっかくまた会えたのに」
ここはシエラとの話を整理しなければならない。
「シエラ。まずは落ち着いて」
「あっ! すみません。つい感極まってしまって……申し訳ありません」
その口ぶりに俺はますます混乱した。
急に2歳児ではなくなった……のか?
「えっと、俺は君の兄のユーベルなんだけど、どうして君が西野隼人を知っているんだい?」
「覚えていますか? わたし、あの時通り魔から、あなたに助けられたんです」
覚えてないわけはない。
はっきり覚えている。
見ず知らずの女の子を勢いで助けていた。
いや、勢いではない、あの時自分がどうなろうとも助けようと飛び出していたんだ。
そして、その結果俺はこの世界にいるわけだが。
「勿論覚えているよ。あれは通り魔だったんだね。確かあの男はあの後……」
「はい、あなたが身代わりになってくれたおかげで怯んで逃げだしていったんです。あの後逮捕もされています」
「そうか……良かった……」
安心して身体の痛みがまた戻ってきてしまった。
あれ? じゃあ彼女は何故ここにいるんだ?
「わたし、前世での名前は如月結衣と言います」
前世?
「如月……結衣ちゃん? 前世ってまさか……」
「はい、助けてもらっておいて申し訳ございません。わたし……一生懸命生きたんです。難治性の白血病で実は余命宣告を受けていてそれが3年だったのにあなたに頂いたこの命大切にしようって
、そして4年も生きる事が出来ました」
「そうだったのか。つらい事思い出させちゃってごめん」
「いえ……わたしあれから4年あなたにもらった命で本当に一生懸命生きたんです。ずっとずっと悲しんでいたら、あなたにも合わす顔がないと思って。わたしのその4年間はわたしの人生に色を添えてくれたんです。それは、一心にあなたのおかげだから」
「……結衣ちゃん……いや、シエラ。君が生まれた時、何か神秘的なものを感じていたんだ。不思議とね。何かすごく懐かしいような。そのわけが分かったよ。でも何故俺の妹として転生出来たの?」
「転生する時、女神様に願い事を一つだけ叶えて頂けると聞いて。わたしの希望は既に決まっていました。あなたにもう一度会ってお礼を言いたい! それを叶えてもらったのです」
嘘……だろ?
次の世界で有利に生きる為の貴重なお願いをそんな事に……
信じられなかった。
人間はいつでも自分本位な生物のはず。
俺に会ってお礼を言いたい……ただそれだけの為に。
どうして俺はこの子を守ったのか。
多分それはこの子だったからだ。
「……俺がシエラを何でこんなに大事に思っていたのか分かった気がするよ。大丈夫。これからも俺が君を守るから」
「どうして? どうして? そんなに見ず知らずのわたしなんかにそんなに優しく出来るんですか?」
「君を助けたかったから助けた。それじゃダメかな?」
「うぅぅぅぅ……お兄ちゃん!! にぃに! 隼人さん!!」
おい~。ごちゃまぜになってるぞ。
顔までくっつけてきて可愛いなぁ。
もう……
「ところで、何故この2年間、両親はともかく俺にこの事を伝えなかったの?」
「あっ。わたしおバカなので、お父さん、お母さんに言葉が流暢な事すぐバレそうだし。言葉が達者になりそうな2歳児になるまで堪えていたんです。すみません」
ここに関しては俺も同じ事考えていたからな。
0歳児が流暢に話してたら軽いホラーだろう。
「そして、せっかくなのでお兄ちゃんがどんな生活をしていて、どんなすごい人になっているのかすごく興味があって、ちゃんと観察したいと思ってわざと今まで隠していたんです。ごめんなさい」
「そういう事なんだね。なんかちょっと照れるかも」
「そうしたら、わたしの予想以上のお兄ちゃんでした!! お母さんお父さんのお手伝いも積極的にするし、いくら疲れてもわたしの面倒をずっと見てくれました。それに魔法が使えなくてもすぐに立ち直ってグズグズしない心の強さまで兼ね備えていたんです」
いや……魔法に関しては正直かなり堪えたんだが。
まあ、魔法使えないガッカリ感は教会内で完結はしていたからな。
「正直、今日は……今日だけはほんとに死んじゃったらどうしようって思って」
確かに驚くほど過激だった。
でもきっと死ぬ気でかからなければハンスは相手をしてくれない。
打ち合っていれば嫌でも伝わる。
人を守るための剣を覚えろと。
「心配かけてごめん。でも俺強くなりたいんだ。今度は死なずにシエラを守れるようにね」
「隼人さん……」
いい加減呼び名を一つにして欲しいんだが。
最後に両親には、俺とシエラの事はとりあえずは秘密にしておこうと約束した。




