40 みんなで帰郷
――アカデミー入学後半年が経過した。
放課後、シリウスの部屋。
「あの、みんな聞いてほしい。今度の週末シエラとオリビアの様子を見に、村に帰ろうと思うんだ。もしスケジュールに余裕があるようなら、みんなを招待したいのだけど」
「ユーベル君、いいんじゃないかな。君しばらく魔法の具現化の実験で休みの日も研究室に入り浸ってたし、休める日は帰ってあげた方がいいよ。僕は勿論ついていくよ」
最近は週末になると、ソニンちゃんに捕まり、研究室に連行されることが多い。
最初はすげー研究心だなって感心してたけど、日を追うごとに内容がハードになってきて……
最近は魔力の具現化で皮膚が出来るかなど、少々マニアックな領域に足を突っ込んでいる。
理論的には魔法攻撃も、物理攻撃も全て減弱させられる鋼の皮膚が誕生するわけで。
そしてそこに俺の魔力の無限化が加われば絶対どんな攻撃も通さない強靭な皮膚の完成。
ただし、装甲を極薄にしないと動きずらい。
加減が恐ろしく難しいのだ。
そんな事しなくても、魔力を紡いだ服を着れば一緒じゃん!
なんて言い張ってはみたが、露出部分はどうするのー?
敵はそんなに甘くないよー!
それに皮膚全て魔力の集合体とかロマンじゃん!
とか多少わけわからない事を言われている。
「シリウスくーん!! なんかあたしがマッドサイエンティストみたいな言い方じゃないのよー! 確かにユーベル君の魔力具現化についての研究はやりがいがあるし、伸びしろがすごいわ。なんたって魔王専用属性なんだから。あたしだって休みがあれば羽伸ばしたいし、ここで皆とだべるの楽しいし、羽伸ばしたいんだからねー。大事なことだから2回言ってるんだよ。馬鹿にしないでねー。とにかくユーベル君の家で羽伸ばしたいのよー」
3回言ってるな。
行く気満々だ。
「いいわね! シエラちゃんとオリビアの様子も気になるし、わたしも行くわー! あっ! 道中の水分確保や火種の確保は任せてね」
「わたしも勿論伺いたいです。一度行ってユーベル様のおうちでログをとれば、次からはネオ・ワープポータルでひとっ跳びですし。そうすれば毎日でも遊びに行けます」
リーゼのネオ・ワープポータルの威力は凄まじいの一言だ。
修練を重ねた今では、直径100メートルまでを対象としてまるごとワープポータル出来るのだ。
やろうと思えば家ごと引っ越す事もできる。
そして無論、これは俺達だけの秘匿事項だ。
伝説級の魔法ワープポータルを更に超えるレジェンドなのだ。
知れ渡れば世界を敵に回すことになりかねない。
ソニンちゃんは当初、これさすがにあたしでも隠してたらやばくね?
教師だしー、うーん、どっしよ……みたいな顔をしていたが、おし!
黙っとく代わりにユーベル君を好きなだけ貸してね。
交換条件としてはあまりにも理不尽だった。
――そして出発当日。
ソニンちゃんに首輪つけられた状態でない週末は久々である。
外の空気は美味しい。
馬車はシリウスが御者付きで用意してくれた。
やはりもつべきものは貴族の仲間だ。
今回は5人での帰郷。
初めての事なのでなんとなく違和感があるが楽しい。
何度か通った道も新鮮に思える。
朝早く出発し、夕暮れ前にようやく我がふるさとアイル村に到着した。
家の前に着き、ノックしてみた。
「はーい!」
懐かしい母さんの優しい声。
「ただいま!」
「あらっ! ユーベル、お帰りなさい」
「友達の皆を連れてきたよ」
母さんは相変わらず若い佇まいで、優しく接してくれた。
皆の紹介が終わると、じゃあ今日はお夕飯頑張らないと!
と気合いを入れている。
「シエラと、オリビアちゃんなら教会に行っているわよ。お夕飯頑張るから待っていてね」
するとリーゼと、マリーナが顔を見合わせた。
「あの、お母様。わたし達もお手伝いします」
「わたし達、お料理が好きなので是非お手伝いさせてください」
俺は母さんと顔を見合わせたが、母さんは笑顔で頷いた。
「そうね。それじゃあお願いしちゃおうかしら」
「よかったー」
「マリーナ、頑張ろうね」
「じゃあ、マリーナ、リーゼ。母さんを頼むよ。ソニンちゃん、シリウス教会に行こう」
久しぶりの田舎道。都会の空気に慣れたソニンちゃんもシリウスも子供のような輝いた目で村の景色を楽しんでいる。
「空気が美味しいよねー。こういうところで研究出来たらなー」
どうあがいても無茶ぶりするから環境が変わっても効率は変わらないと思うが。
「すごい、この雄大な農場。ミーアの田舎を思い出すよ」
シリウスは、ミーアにまめに手紙を書いているそうだが、少しでも身が空いたのなら、ミーアの元へ会いに行っているそうだ。
律儀というか愛が凄い。
教会を背にした広場では……
父さんとシエラが、今日も剣術の稽古をしていた。
「シエラ、父さん! 今帰ったよ」
「おっ! ユーベル見ないうちにイケメンになったなあ。それに魔女っ娘? 銀髪のイケメン兄ちゃんまでつれて」
「お兄ちゃんおかえりー。お父さん、話したでしょ? ソニンちゃんとシリウスさんだよ」
「お父さん、初めまして。ソニンちゃんです」
「シリウスです、よろしくお願いいたします」
「君がシリウス君か。シエラから聞いている。剣の腕は超一流だそうじゃないか? シエラももうハンス流免許皆伝なんだ。シエラと一勝負どうだろう?」
ハンス流免許皆伝かぁ。
あまり名乗りたくないな。
「シリウスさん、もう手加減はいらないのでお願いします」
シエラは飛び級編入を目指してるのはいいけど、武術専攻で目指すのだろうか?
俺としてはあまり鍛えすぎてごつくなってほしくはないのだが。
「うん、更に腕を上げたんだね。僕も本気でいくよ」
シエラとシリウスに関しては父さんに任せるとして、俺とソニンちゃんは古めかしいいつもの教会に入って行った。
診察室はこじんまりしているが、明かりはついている。
そして発見した。
テーブルに座った猫に話しかける僧侶を。
「こんにちは。オベールさん久しぶりです。オリビアも元気でなにより」
「あたしがソニンちゃんでーす。あなたが大司祭様の愛弟子のオベールさんですね。ご高名聞き及んでいます。よろしくお願いします」
「ユーベル君久しぶり。ソニンちゃんさん? 初めまして」
「お二人ともいらっしゃいませ。ただわたくしもう我慢出来そうにありません。ああもう……」
またなにやら不穏な空気が。




