21 負けヒロイン
明日に合格発表が控えている為、今夜も同じ宿の連泊になった。
マリーナがリーゼと相当仲良くなった為、リーゼはマリーナの泊る豪華な宿に行くことになった。
女の子同士で積もる話でもあるのだろう。
「ユーベル君、明日は合格発表3人で一緒に見に行かない?」
「うん、いいよ。それじゃあ朝二人を迎えに行くね」
「ありがとう。待っているね」
「ユーベル様、今日は本当にありがとうございました」
「いや、俺大したことしてないし。おやすみ」
今夜はやっと一人でゆっくり出来るな。
――翌日。
朝日が気持ちいい。
早速準備に取り掛かる。
食堂で最後の食事をとる。
おかみさんが今日も赤飯をサービスしてくれた。
何かめでたい事がありそうな気がする。
おかみさんはそれを狙っているのかもしれない。
丁寧にお礼を言った。
「ユーベル君、おはよう」
「ユーベル様、おはようございます」
「おはよう。あれ? リーゼ眠そうだね」
「これはね、わたしがいけないの。リーゼに失恋話聞いてもらっちゃったから。リーゼ、ずっと自分の事のように泣いてくれて、マリーナ辛かったねって、朝まで慰めてくれて」
「いえ、マリーナはそんなつらい思いを背負っていても昨日は明るく接してくれたんです。だからわたしは寝不足ではありません」
どう見ても夜通し泣いてるよな。
呼び方も互いにリーゼ、マリーナになっているから、お互い共感できる事がたくさんあり、本当の友人になったのだろう。
「今日は合格発表だ。気持ち切り替えて見に行こう」
俺達は、王国アカデミーに向かった。
開門の時間が迫ってきた。
合格発表は、アカデミーの掲示板に貼り出される予定だった。
合格者には、後日手紙で連絡されるが、早く知っておきたいので、ほとんどの受験生が来ていた。
合格発表というのはやはりドキドキする。
「あっ! マリーナあった! マリーナの名前あった!」
リーゼが声を上げた。
「ほんとだ。やったー!」
マリーナも思うところはあるのだろう、元々はシリウスとの夢だったらしいから。
しかも中等部の入学試験で一度挫折しているから、喜びもひとしおだろう。
「マリーナ、おめでとう」
「二人ともありがとう」
「あとはリーゼと、ユーベル君だけど……」
受験番号と名前が掲示されているが、見たところリーゼの名前も俺の名前も見当たらない。
やらかした俺はともかくリーゼはかなり優秀ではなかったのか。
しかも好感触だと言っていた。
「え~!?」
リーゼが驚いて目をパチクリさせている。
そして掲示板のある一点を指さしていた。
「うわ! すっごーい! リーゼ、ユーベル君大快挙だよ!!」
俺もマリーナに言われ、二人の見つめる先を目で追った。
一瞬前世で言う補欠合格者のような扱いで気にしていなかったが、しっかりそこには、特待生枠で武術専攻で俺、魔術専攻でリーゼの名前がそれぞれ明記されていた。
筆記試験はまあ自信あったけど、こうやって堂々と特待生枠で明記されると、気分はかなりいい。
隣ではマリーナとリーゼが抱き合って喜んでいる。
「やったね、リーゼ」
「ユーベル様もです!」
合格するだけでかなり大変な編入試験で俺達3人は見事に合格した。
これで両親やシエラ、オベールさんにも胸を張って報告できそうだ。
「ねぇねぇ。お祝いにこれから食事会に行こうよ」
気が付けばもう昼過ぎになっていた。
会場がかなりごった返していて、時間がかなりたっていたようだ。
――その刹那。
「はぁはぁ。やっと見つけた。マリーナ!」
この声……俺は聞いたことがある。
声の主に目を向けた。
間違いない。
昨日マリーナといたシリウスだ。
「シリウス! 何でここにいるの?」
そういえば彼も受験生じゃないか。
いて不思議はなかった。
普通なら。
「何でってお前……」
「だって昨日あれだけ急いでミーアを追って行ったんだから、そのまま彼女の田舎までエスコートしていったんじゃないの?」
「うん、ミーアはしっかり彼女の生家まで送り届けたよ。そして今までの想いもしっかり伝えられたんだ」
「……そう。それはよかったわ」
「マリーナ。君のおかげだ。煮え切らなかった俺に君は喝を入れてくれた。ミーアは俺が卒業するまで待っているそうだ。だから今日合格発表を見に来たんだ」
「ミーアにいい報告は出来そう?」
マリーナは今までとうってかわりくぐもった声だ。
「うん。しっかり合格していた。俺ここを卒業したらミーアの村の近衛騎士に応募するつもりだ。彼女を一生支えるためにね」
王国アカデミー卒業であれば、即王国騎士の曹長クラスになれるはず。
それを蹴り田舎の近衛騎士になる。
名ばかりの自警団のようなものだ。
それでもシリウスは彼女に身を捧げようとしている。
やはり愛の深さは計り知れない。
「そう、わたしからはもう何も言わないわ。わたしもね、合格したよ。あなたとの約束だから」
あまりにも儚い約束。
守られたけど二人の胸中は。
「マリーナ。君には本当に感謝しているんだ。だから君には必ず幸せになって欲しい!」
それを聞いて俺はつい横やりに入ってしまった。
「シリウス。それは君が言っちゃいけないんじゃないかな」
「えっ?」
俺に気付いたシリウスが目を見開いた。
リーゼもマリーナも驚いた表情だ。
「君からそれを言ったらいけないんじゃないかって言ったんだ。マリーナは君への想いを凄く熱心に語っていた。二人の夢というものもね」
「マリーナ、お前……」
「……そ……そうよ。13年間もずっとずっと一緒にいたのよ。わたしはあなたが好き。今でも大好き。でもあなたはミーアに一生を捧げる。そんなあなたにわたしの事をとやかく言われたくない。わたしはあなたの事が好きなまま、あなたが知らないところで幸せな結婚をするの」
「マリーナ……大丈夫?」
リーゼがマリーナを支えている。
「……すまない、マリーナ」
「いや、シリウス。ここで君は謝っちゃいけない。マリーナを傷つけるだけなんだから。マリーナをこれ以上傷つけたら俺が許さない。マリーナは大事な幼馴染の親友なんだろ? だったら彼女を暖かく見守るだけでいいんじゃないか? それが彼女との関係を崩さない最善の方法だ」
「……君は……はっ! 壊し屋のユーベル!」
へっ?
なんだその異名は。
いつついた?
しかもこの場面で言うか。
「そうなのです! ユーベル様は偉いのです!」
リーゼ……それちょっと違う。
「う……うぅ……ユーベル君。どうしてあなたはそんなにわたしの事を?」
「マリーナは大切な友達だからね」
それが本心。
この子は純粋な心の持ち主。
決してただの負けヒロインにはさせない。
「ユーベル君か……なんて素晴らしい心の持ち主なのだろうか」
シリウスから眩しい眼差しが注がれた。
いや、俺そんなんじゃないよ。




