22 合格祝い
俺が連泊していた宿の備え付きの食堂。
何故か4人になっていた。
2対2で向き合う形だ。
無論合コンではない。
俺の隣には、シリウス。
対面にはマリーナ。
マリーナの隣にはリーゼ。
とりあえず配置はこれがいいと思ったからこうなった。
何故シリウスまでこの席にいるかと言うと、俺に諭された事が相当堪えたらしい。
……らしいのだが、結果的には俺は彼の心のわだかまりを解いてしまったらしい。
「僕はね、今までこんな叱られ方をして、自分を見直したことはなかった。それをユーベル君、君が分からせてくれたんだ。僕達は王国アカデミー武術専攻で同級生となる。是非僕の友人になってはくれないだろうか?」
はっ?
男くさ!
そんな風に思ってしまったがどうやら彼は本気のようだ。
聞いてみれば由緒ある伯爵家の嫡男だと言う。
親にも怒られたことがないようで、俺の言葉は新鮮味があったとのことだ。
本当にマリーナの事に関しては反省したようだから、まあ無下にはしないようにしたのだ。
「ねえねえ、とりあえずこの4人全員めでたく合格したのってすごくない? 競争率も高い中、この巡りあわせってすごい事だよね。いろいろあったけど、わたし王国アカデミーでの学校生活が楽しみになっちゃった」
「わたしもすごい事だと思います。わたし昨日マリーナにお話聞いたけど、シリウス君、マリーナはあなたの事を一度たりとも悪く言ってないんです。だからわたしもあなたを受け入れられると思います」
そういえば、マリーナはミーアの事はホルスタイン女とか言ってなかったか?
ただシリウスにはミーアを泣かせたら絶対許さないと釘を刺していた。
この子よく分からない。
「どうも、ありがとう。僕も皆に認めてもらえるよう頑張るよ」
「まあ、あまり考え込まなくてもいいと思うよ。失敗したら挽回すればいい」
「じゃあ、挽回替わりといっちゃなんだけど、ここの支払い僕に任せてもらえないか?」
あーあ言っちゃった。
でも伯爵家の御曹司ならいいか。
「さすがシリウスね。じゃあリーゼ。合格祝いだもの。遠慮しないで食べよ!」
「うん! 賛成です!」
二人の食欲、特にリーゼの食いしん坊ぶりに驚愕したシリウス。
でも彼のおかげで俺は無事に帰る事が出来る。
ここの支払いがなければ帰りの馬車代が確保できるから。
「編入試験、いろいろあったけれど、特待生枠での合格も出来たし、ユーベル様、マリーナ、それに一応シリウス君ともお友達になれてすごく楽しかったです」
「わたしも思うところはあったけど、リーゼとユーベル君がいなかったら、シリウスとの関係、きっと壊れていたと思うから、本当に感謝してるよ」
「僕も同感だ。ユーベル君、君のおかげでマリーナと変な確執もなく幼馴染でやっていけそうだ。本当にありがとう」
「俺も妹にいい報告が出来そうだよ。3人ともありがとう」
「妹さん?」
「妹様ですか?」
「妹がいるのかい?」
なんでそんな驚くのか不明なんだが。
「うん、そんな珍しくはないよね」
「あのね、ユーベル君、君が恐ろしくカッコいいのだから、その妹さん……そんな子がいたらどんな破壊力なんだろうって思ってね」
「同感です」
「同意するよ」
「シエラって名前なんだけど。12歳なんだ。確かに可愛いし大事にしているんだけど」
「ユーベル君、君がそこまで大事に思ってる子なら会ってみたいかな」
「それも同感です」
「同意だな、うん」
俺よりシエラが話題に上がってしまった。
皆興味津々のようだったので皆に近いうちに会いに行かせようと思うと言っておいた。
「じゃあ、皆またね」
無一文のリーゼはマリーナと帰って行った。
どうやらマリーナの家にしばらくお邪魔するらしい。
そして改めてマリーナがリーゼを家まで送る手筈だそうだ。
俺とシリウスは帰りの道中を歩くことになった。
「ユーベル君、今日は本当にありがとう。最後にお願いなんだけど、僕と手合わせしてはくれないだろうか?」
「手合わせ? でもさ、シリウスは真剣しか持ってないよね」
実技試験では真剣持参だった。
何せ内容がオリハルコンに傷を通すことだから。
「大丈夫。僕だってだてに死ぬような稽古はしていないさ。味わってみたいんだ。壊し屋ユーベルの剣」
もう少しカッコいい二つ名がいいんだけどな。
俺は鞘に自前の剣を刺してある。
意識することで剣に魔力が流れるので形をずっと保ったままだ。
「分かったよ」
シリウスは父さんと同じってわけにはいかないだろう。
意識してやや魔力を薄めにしてみる。
何となくだけど魔力の流れ方を覚えてきたところだ。
もちろん相変わらず魔法自体は使えないのだが。
鞘から抜くと陽炎のように刀身が揺らいでいる。
「じゃあ、ユーベル君! 特待生相手に本気じゃないなんて失礼だから」
「うん、本気でかかってきて」
「危ないと感じたら必ずよけてくれよ」
シリウスは逞しい脚を前後に交差させ、剣を構え地面を思い切り蹴った。
なるほど。
かなり早い。
この踏み込み、何千何万と練習してきたんだろう。
更に間髪入れずに俺の懐に対して最速の突きを放ってきた。
いい腕だ。
貴族のスタイルと言うのはやはり型が美しい。
すんでのところで躱し、俺は剣で凪に払った。
シリウスは素早く反応し、俺の凪を剣で受け止めた。
――だが、
ビシッ!
受け止めた剣の刀身にひびが入り、そのまま折れた。
「まさか! ミスリル製の剣なのに……ユーベル君、君のその剣は一体」
「分からないんだ。これがどういう構造なのか、どうして剣として使えているのか」
シリウスはどうも熱心なところがある。
もしかしたら彼なら話しても分かる事があるかもしれない。
貴族に伝わる秘技とか知ってそうだし。
「陰影が揺らいでいるね。これって?」
「俺が念じたら出来たんだ。不気味だろ? 俺が王国アカデミーに入った一つの要因がこれなんだ」
「これが何なのか? 王国アカデミーの最先端の施設なら解明できるかもと?」
「そういう事、何か分からないものを放っておくのは、虫歯放っておくような嫌な感覚でさ」
「なるほど。君にはそんなわけが。ごめん、事情も知らないくせに壊し屋なんて言って」
「まあでもあの試験内容じゃ無理ないかもしれないけどさ」
「皆、魔王でも見てるかのようだったしね」
「まあ、でももう内緒にしていても仕方ないからね」
「分かったよ。僕の方でもそれが何なんなのか調べてみるよ。貴族連中に詳しい者がいるかもしれないし。見たところ完全に魔力の塊というか集合体だよね」
驚いた。
シリウスは剣を一度合わすだけでこれが魔力だと分かった。
剣士としても相当な実力者だ。
「ありがとう」
「それじゃあ、また入学式で会おう」
「ああ、ミーアを泣かせるなよ」
「あはは。それだけはしないと誓うよ。マリーナに殺されるからね」
こんな気のいい奴と友人になり、それにリーゼとマリーナもいる。
俺は王国アカデミーに通うのが楽しみになった。




