20 心の傷
「……悔しいけどそう。そうなのよ。でも本番はそっからなのよ!」
いつの間にか彼女は眼を輝かせながら話していた。
「本筋を話す前に言っておきたいんだけど、いいかな?」
「うん、聞くだけなら」
「ユーベル君、君ね、皆疲れて休憩したいって時にこの控室占領して話し込むなんてすごく迷惑だと思うのよ」
「まあ、そうだよね」
「だから、これからわたしの想いに決着をつけに近くの食堂に行かない? お腹も空いたしね。そこでならゆっくり話を聞いてあげられると思うの。あなた昨日は泊ってるんでしょ。あなたお勧めのところでいいから、行きましょ」
一方的に話し込んできたのはあんただろ?
「でもさ、ほら。貴族と平民が一緒に食事なんてしていたら」
「固い事はいいじゃない。同じ同級生だし。わたし別に貴族だからとか平民だからとかって垣根作ったりしないから」
貴族って皆お高くとまっている印象なんだけど、マリーナは違うようだった。
――そして言われるがまま、俺はマリーナと宿に帰ってきた。
マリーナは、話の続きをする気満々だったが、俺には、放っておけない事がある。
リーゼだ。
「マリーナ嬢。同じ受験生が部屋で1人で待っているはずなんだけど、様子を見て来ていいかな?」
「マリーナでいいわよ。そうしたら、その子も呼んでくればいいじゃない。女の子?」
「うん、保護したと言うか、何と言うか……」
「へー。ユーベル君、女の子部屋に連れ込むなんてやるわね! まあ、あなた相当カッコいいしね。今日も女の子達が皆あなたの事見てたわよ」
正直、周りの目が気にならないわけじゃないけど、俺にとっては、シエラが誰よりも可愛い。
まあ、もはやシスコンに近いのかも知れないがあまり気にしない。
壮絶な妹で、誰より大事にしたいから。
実際シエラは、相当美人なはずだ。
「まあ、保護したのには理由があるんだけど、構わないなら連れてくるよ。それじゃあ、すぐ戻るね」
「はい、ごゆっくり」
俺は、宿の自分の部屋へ向かった。
軽くノックする。
すると今回は、すぐ応答があった。
「は〜い」
ドアが開いた。
リーゼは、やはり試験が終わり早々に戻ってきたようだ。
「ユーベル様! 大丈夫だったんですか? 何か前代未聞の事をやった受験生がいるって大騒ぎでしたよ。まさかそれがユーベル様だったなんて」
「ああ、それはちょっとわけがあってさ。制御の練習してなかったんだよね……」
「制御? でも今回の審査員の人達インパクトのある人材を入れたいようでしたから、良かったんじゃないですか?」
「そうなんだね。それなら希望はあるかな。リーゼはどうだった?」
「ユーベル様のおかげで頑張れました。土魔法を使っての地面隆起型バリケード造りに、植物の超速成長。あとは聖魔法なんですが、バフの方では速度アップの時間はかなり長く頑張りましたし、治癒魔法のレベル測定では、10段階のうちの8がとれました」
リーゼは、土魔法と、聖魔法の2属性を使いこなすが、その精度、出力は、出身の村でもずば抜けていたらしい。
彼女の口ぶりからすると、かなり好感触だろう。
「頑張ったんだね。じゃあ明日の結果発表が待ち遠しいね」
「はい! ユーベル様もですよね」
「まあね。ところで今時間あるかい?」
「はい、少し休んでいたところですので」
「ちょっと色々あって、貴族の女の子と知り合いになったんだけど、どうも悩みと言うか、相談を受けちゃってさ。食堂でご飯にするから、一緒にどうですか? って……」
「ユーベル様、ちょっとカッコ良すぎますから、たくさん声かけられますよね。分かりました。貴族の方とは交流した事はありませんが、ご一緒します」
俺は、リーゼを連れ食堂に戻った。
マリーナは、大分落ち着いたのかもう涙はなかった。
「マリーナ嬢……いや、マリーナ。お待たせ」
「あら、早いわね。そちらの子が例の?」
「リーゼと申します。マリーナ様、よろしくお願いします」
「こちらこそ。マリーナでいいわよ……あはっ。リーゼちゃん、髪型可愛いわね。ハートツインかあ。セットするの大変でしょ」
「いえ、慣れたらすぐ巻けます。マリーナ様……マリーナ……ちゃんのピンクの髪にも似合うと思います」
「そう? それじゃあ、今度ゆっくり教えてもらってもいいかな?」
「勿論です」
なるほど。
この二人相性良さそうだ。
「じゃあさ、二人ともお腹空いたでしょ。まずご飯にしない?」
「でもわたしお金が」
俺も想定外が続いてあまり頼めないな。
情けない。
「何二人とも深刻そうにしてるの? 大丈夫。わたしお金ならちゃんと余分に持ってるから。今日は、わたしが支払い持つわ」
「マリーナごめん。すぐに返すから」
男が情けない……
「わたしもすみません。ちゃんとお返しします」
「ユーベル君も、リーゼちゃんも可愛い顔が台無しよ。元気出して。大丈夫。今日は貴族のいい所見せてあげるから。決して返すなんて言っちゃダメ」
マリーナ……自分がどん底のはずなのに。
この子実はめっちゃいい子かも。
「分かりました。では遠慮なく」
「うん、そうしよ。皆で賑やかな方が食事は楽しいよね」
リーゼは例によって、名物のオムレツにリゾット、ハンバーグ定食にスイーツ2品。
やはり食いしん坊キャラなのか?
マリーナも、やけ食いなのか分からないけどオムライスにポテトフライ。
デザート3品と言う組み合わせ。
二人は、すぐに仲良くなって既にスイーツを分け合って品評会をしている。
そういえばシエラは元気だろうか?
彼女が採れたての卵から作ったオムライスは、絶品だったなぁ。
シエラは母さんの味を受け継いだみたいだから。
3人での食事は思いのほか、楽しかった。
「あのね、リーゼちゃん、ユーベル君、あなた達二人と楽しくお話してたら、わたしの失恋なんてどうでもよくなってきちゃった。どうもありがとう。大失恋の心の傷がこれで3分割出来そうだし、一緒に背負ってくれてありがとう!」
心の傷を背負わすな!




