13 剣の正体
「じゃあ早速だけど、お兄ちゃん! お手!」
つい手を出してしまった。
犬かよ……
シエラが俺の手を握り祈った。
うっ!
柔らかい。
心地いい。
だがシエラから出た言葉は辛辣だった。
「わたしの余分な毒素をお兄ちゃんへ!」
すると、シエラがへなへなし始めた。
そういえばシエラは全て無詠唱で全属性の魔法使えるのに、発動時、気合いの言葉をよく発する。
まあ、過剰な魔力は、常人には毒だとオベールさんが言っていたから、間違いではない。
「あ、ああ、あ~ん」
シエラが悶え出した。
シエラ、お願いだから、その声やめて。
いつまでもお前にだけは清純でいて欲しいから。
俺はと言うと、特段変わりなし。
おそらく大河に水を放水しているような感覚なのだろう。
「ふぅ。大体これで最大魔力量の7割くらいは抜けました。魔力は一日睡眠を取れば全快しちゃうから、明日から朝、毎日日課としてやっていけば……」
マジですか?
でもシエラが魔力制御出来るようになるまでは付き合わないとな。
「今日もせっかくだから、この後、魔法の練習します」
すごく張り切っている。
相当我慢していたようだ。
我慢しすぎはよくないが今回の場合は例外だろう。
「シエラいい声出てたぞ」
蒸し返すな!
「今日は、夕飯こしらえて来ましたのでまず、冷めないうちに食べましょう」
「マリアンさん、いつもご馳走になってばかりですみません」
「いえ、オベールさん、あなたがいたから、今のわたし達がいるのです」
母さんにとっても、父さんにとっても恩人だし、シエラの師匠にもなってもらったからな。
「それにしても、大勢で囲む食卓って賑やかで良いものですね」
聞けばオベールさんは、天涯孤独だったらしい。
最初に世話になったのが地方の教会だったらしく、そこで勉強に励み、類稀な聖魔法の資質を見抜かれたそうだ。
その後も興味のあった魔法について、独自に研究を進めていた。
「これからもいつでも、うちにいらっしゃって下さい」
教会での夕食会は、新鮮で楽しかった。
「じゃあ、そろそろユーベルの変化について聞いていいか?」
「そういえば、大変な事が起きたんだって?」
「そうなんです。俺と父さんでは全く理解出来ない現象が起きてしまって」
俺は、今日の稽古の一連の流れを説明した。
勿論、父さんに俺が殺されそうになった事は、例によって伏せてあるが。
「身の危険を感じた時、咄嗟に脳内に浮かべた剣が出現したって事だね?」
「はい、思い浮かべていたのは、父さんの使っているこの真剣です」
「これと瓜二つの真剣が、瞬時にユーベルの右手に出現したんだ。俺でもどう出たのか見えなかった」
「一番に思い付くのが、土魔法における【錬金錬成】の類だな。ただし、ユーベル君には、土魔法の適性がないはずだ」
「【錬金】とかなら出せるんですか?」
「不可能ではないけど検証の余地はある。試しにここで、その剣出せるかい?」
「はい!」
何度かやって、コツは掴んだようだ。
現物を見なくても出せるようになっていた。
瞬時に俺の右手には剣が握られていた。
しかも明らかに精度が高い。
「嘘? お兄ちゃんどうやったの?」
「すごいわ! ユーベル、手品出来るの?」
まあ、そう言う反応だろう。
俺も父さんですら仰天したし。
「ただハンスに渡そうと手から離れた瞬間消失したんだね」
「はい」
「じゃあ、その剣、今度は僕に渡してみてくれるかな」
俺は、剣をオベールさんに渡した。
「くっ!」
片手剣だがオベールさんは、両手で何とか支えている。
今度は、父さんの時のようには、瞬時には消えないようだ。
苦しみを堪えているように見える。
数秒して、剣はオベールさんの手から消失した。
「ふぅ」
「オベールが持ったら、少しは消えず残っていたな。オベール、お前早速何か分かって……操作とか」
「いや、今のは僕が操作したわけじゃない。剣の密度が異常に濃かったから、それでしばらく残っていたんだ」
「密度?」
「うん、はっきり分かった事がある。ユーベル君が出現させた剣は、異常とも言える高密度の魔力の集合体だ」
「それって一体どういう事ですか?」
俺には、全く分からなかったが、これで光明が見えてきたかも。
「さっき話題に出した錬金や、錬成では必ず素材が必要なんだ。しかも、術師に極端に近い場所、地面や土の中から適性な鉱石を探り当てる必要がある。その作業の手間と、もし素材が揃ったとしても、錬金には相当念入りな魔力操作が必要不可欠なんだ。その二つの工程を瞬時に行う。それが出来る人間は、事実上皆無なんだ。何にしても、組成が魔力だから、錬金ではないのは確定だね」
「すげーな。オベールは、さすが魔法オタク」
「わたしの師匠だよ、そのぐらい当たり前だよ」
「どうして父さんに渡そうとした剣はすぐ消えて、オベールさんに渡した剣は、すぐには消えなかったんですか?」
「それは、魔力の密度の差だね。ハンスの時は咄嗟の事だったと言っていたよね? 出現した剣も陽炎掛かっていたと。それは、出来た剣の魔力密度が薄かったから。今僕に出してくれた剣は、時間をかけ、よりはっきりイメージ出来ていたから、魔力が濃密だったんだ。それが消える時間に影響を与えたんだ」
「じゃあ、オベールさん、ユーベルの手品の種は一体何なんですか?」
母さんが興味津々のようで、思わず聞いていた。
それに対し、オベールさんが笑顔を作り、言った答えは……
「さっぱり分かりません」
はい〜!?




