海軍がおびえる影
現在よそのサイトで公開するための科学記事を久しぶりに書いています。完成したらツイッターで宣伝しますので、ぜひ見に来てください。(ここでは規約上アナウンスできないと思います)
ある日のこと。帝国人造繊維に山階宮武彦王が視察に来ていた。今を時めく「空の宮様」の来訪ではあるが、彼の視察はもう何度も行われていて珍しいことではなくなっているし、社長の山階耀子は幼馴染かつ義理の兄妹でもあることから、社内が騒然としている、なんてことはもはやない。
「ここに来るといつも面白いものが見れるから、ついつい何度も来てしまうんだよな」
戦闘機乗りとして前線で指揮を執る一方、サイエンスフリークとして航空技術の勉強も怠らない武彦は、海軍内でも「技術と運用の両面を理解している佐官」として、航空派の有力者の1人に数えられている。
「ぜひともそうしてください。社員に皇族耐性と誇りを持たせるのに役立ってますから」
「そうか。まあ確かに、ほかの会社だとなんかもっとよそよそしかったり仰々しかったりするもんな。ここは比較的肩ひじ張らずに接してくれて、確かに居心地が良い」
川崎とか愛知機械工業を訪問したときは、上を下への大騒ぎになっていたであろう痕跡を見て取ることができた。その点、帝国人繊の社員たちは、社長が親しげに接しているということもあり、割と自然体で武彦に接してくれている。
「そういっていただけると私もうれしいです。これからもごひいきにお願いします」
「帝国人繊の持つ要素技術と設計能力、そして企画力にはいつも助けられてるからな。何なら、今の海軍の対艦航空攻撃戦法は、帝国人繊の兵器によるところが大きいと言っていいわけだし」
「え、そんなにですか?」
自分たちは製造業であり、コンサルではない。まあ高性能な兵器が戦法に影響を与えることはそこそこあるとはいえ、武彦の言い方はその枠を超えているような響きがあった。
「まず、現行の二段攻撃法は、第一段攻撃で敵艦の航空戦力と対空火器を撲滅し、第二段攻撃で敵艦そのものを沈める思想である、というのは知ってるな」
「はい。6番噴進弾の開発前に、そのような説明を受けましたので。何なら、上部構造物をロケット弾で薙ぎ払う発想自体は、私が殿下にお話ししたものですよね」
ロシア戦争時、日本海軍は開幕で日本周辺の海域にいるロシア艦隊に航空攻撃を仕掛け、これを撃滅している。しかし、制空権をとれていたのに雷撃隊の損失が突出して多かったため、この件を武彦が耀子に相談したことがあったのだ。
「ああ。提案を通しに行くとき、お前の名前がなかなか便利だったぞ。」
「ええ……なんで……」
陸軍に比べると、自身の海軍に対する影響力は限定的だと耀子は思っている。
「お前なら、戦法実施に必要な兵器を短期間かつ安価に開発してくれるだろうという期待があったし、陸軍での噂はこっちにも届いているからな」
と、彼は言っているが、耀子の陸軍に対する活躍を主に吹聴しているのは武彦だったりした。
「はあ……」
「で、6番噴進弾ができ、戦法の有効性を我々が実証したころのことだ。耀子、お前は東京電気に依頼して近接信管を開発させ、それを弾頭に使用した20連装対空噴進砲を海軍に売り込んだな?」
「ええ。あの当時の近接信管は対空砲弾の発射時の加速度には耐えられなかったので、より荷重条件が穏やかな噴進弾の弾頭に採用したのです。成績良好とのことで、直ちに採用していただいたのですが……」
「それだ……端的に言えば、それの成績が良好過ぎたのだ」
ため息をついた後、武彦はそのように言った。
「良好過ぎたってことは、もしかして20連装対空噴進砲をアウトレンジから撲滅しないと、そもそも航空雷撃が通らないとかそのレベルで……?」
「ある程度射撃諸元があっていれば、1斉射で雷撃機1個編隊を確実に撃滅できるんだぞ。実戦では戦闘機の妨害もあるんだから、こいつを何基か舷側に設置しておけば、個艦防空は万全ということになってしまう」
「なんとまあ」
耀子たちが見ていた採用試験では吹き流しに向かって近接信管噴進弾を斉射しただけであり、実際の対空能力については海軍内で試験を重ねて分かったことである。このため、耀子はまるで他人事のような返事をしてしまった。
「少しでも対空噴進弾の射程に入ったら、いくつかの編隊は全滅必須。これまではある程度危険を冒して、第一段の攻撃隊は6番噴進弾を必中の期せるところまで接近してから発射していたが、20連装対空噴進砲が採用されてからは射程ぎりぎりで発射する方針に改められたんだ」
「へぇ~、教本が書き換わるぐらいの影響があったわけなんですね」
まあ、そうなることを夢想してこれらの兵器の開発を指示したわけであるが、実際にうまくいっていると聞かされるとやっぱり驚くものである。
「さらに、最近はこれでも不足しているのではないかとの声も上がり始めている」
「そうなんですか?」
「日本電気が論理回路を発明しただろ? あれを三極真空管や鉱石三極管で構成した対空射撃盤の開発が進んでいるんだ」
トランジスタの共同開発を東京電気と日本電気に依頼したとき、日本電気は論理回路によって計算機が作れる可能性に言及していたが、どうやら現在は実際に射撃管制装置を海軍と作っているようであった。
「あっ……(察し」
「そいつの成績が非常に良くてな。対空噴進砲による近接防空だけでなく、対空砲による艦隊防空も航空機の脅威になりつつある。しかも、この前対空砲から発射できる近接信管がついに制式化されただろ?」
「それは……第一段攻撃すらリスキーになってきますね……」
史実日本艦の対空火力がいまいちだったのは、射撃管制装置が貧弱だったことの影響が大きい。そのため、なるべく射撃誤差を少なくするために対空砲に大初速が求められ、長十糎対空砲のような優秀だが、無理のある兵器が必要だったのである。
しかし、誤差が小さく計算が高速な対空射撃管制装置があるならば、現在の「無理のない兵器」でも、押し寄せる敵機を七面鳥のごとく撃ち落とすことが可能だ。しかしそれは、同じものを他国が開発したら、自分たちの機体もバタバタと撃墜されうるということを意味する。
「そういうわけで、今後の兵器開発の成否が、そのまま海軍航空隊の運命を握っているといっても過言ではない状況だ。取り急ぎ、近いうちに6番噴進弾の射程延長版の開発要求が来るだろう。頑張って対応してくれ」
「はあ……そんなことになってたんですね。どれだけ有効かはわかりませんが、ちょうど新しい設備を導入して、モーターケースをより軽量に作れるようになったので、6番噴進弾の性能向上はある程度可能だと思いますよ」
実は、電子計算機の恩恵は帝国人繊も受けていて、最近導入した4軸フィラメントワインディングマシンの電子制御部分も日本電気が担当していた。これにより、モーターケースや魚雷用酸素ガスタンクの構造を、並行部にフープ巻きのみを施しているType2構造から、ドーム部にもインプレーン巻きをしてFRPの使用量を向上させたType3構造へと変更することが可能になっている。
「なるほど、そいつは期待できるな。今度その設備を見せてくれないか?」
「いいですよ、あれが動いてるの、なかなか面白いですからね」
そういって二人は新しいおもちゃもらった子供のように笑みを浮かべるのだった。
辺境伯家の食客では、地獄の撤退戦が始まりました。
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