ラストワンマイル
そういえばこの人の事を取り上げてなかったなと思ったので、今回登場させてみました。
静岡市長沼は、帝国人繊の企業城下町の1つである。まだくろがね重工業が三共内燃機だったころ、ウィズキッドの生産量が今まで作ってきたジムニーよりはるかに多くなることが見込まれたため、流れ作業方式で自動車を大量生産できる新工場を長沼に建設したのが始まりであった。
現在も「本丸」であるくろがね重工業長沼工場は絶賛稼働中であるほか、ダッシュボードなどの樹脂部品や座席を生産する帝国人造繊維長沼工場、灯火類を製造する小糸源六郎商店といった、様々なサプライヤーがこの地に集結し、日々生産活動にいそしんでいる。
田宮義男率いる「田宮自動車商会」も、そんな長沼工業団地の恩恵を受けている会社の1つだった。
「じゃ、浜松のアート商会さんに補給部品届けてきますね」
「おう、気をつけてな」
団地内で生産した部品を満載したキャリイを田宮が見送ると、いつの間にか斜め後ろに耀子(と、秘書の佐藤文子)が立っている。
「お疲れ様です。調子はいかがですか?」
「おお、山階さんじゃないですか。調子はまあ、ぼちぼちってところですね」
耀子が挨拶すると、田宮は少々驚いた様子で応対した。
「ここ最近、自家用車の需要は伸び悩んでいますから、人も物も輸送量は横ばいって感じですかね」
「大体そんな感じですよ。耀子さんに出資頂いたときは、いろんな工場が一気にどかっと建って大変だったですけど、今はうちも大きくなったのもあり、あんときみたいにえらい状態にはなっていませんね」
工場は作ったものを売ることで初めて利益を生むことができる。製品を顧客に届けなければ、売ることはできない。そのため、当時の帝国人繊は工場周辺の数少ない運送業者に声をかけ、工場間の輸送や販売拠点への製品出荷に従事してもらっている。特に田宮自動車商会については急速に規模を拡大してもらう必要があり、帝国人繊による出資も行われていた。
もっとも、耀子にとって、この会社への出資はとある事業への布石でもあるわけだが。
「ただ……もうすこし、良くなってくれないもんかというところはありまして」
「ほうほう、どんなところです?」
現場の声を吸い上げて商品を改良するのは、良い商品を作るための基本である。耀子は興味深そうに田宮に尋ねた。
「キャリイなんですが、もう少し頑丈にならんかなあと……うちみたいに酷使してると、発動機がすぐ駄目んなるんですよね」
くろがね重工業 ST11T "キャリイ"
乗車定員:2名
車体構造:鋼製ラダーフレーム
ボディタイプ:2ドア高床三方開キャブオーバートラック
エンジン:帝国人造繊維"B005C" ユニフロー強制掃気2ストローク水冷単気筒直打OHC
最高出力:37hp/5500rpm
最大トルク:4.9kgm/3500rpm
駆動方式:RR
変速機:前進5速後退1速 フルシンクロ
サスペンション
前:ダブルウィッシュボーン縦置きトーションバー独立懸架
後:セミトレーリングアーム横置きトーションバー独立懸架
全長:2990mm
全幅:1290mm
全高:1550mm
ホイールベース:1745mm
車両重量:490kg
ブレーキ 前:ツーリーディング 後:リーディング・トレーリング
「ほうほう、キャリイの耐久性が足りないと。ちょっと、キャリイをどんなふうに使ってるか教えてもらっても?」
「うちは道が入り組んでいたり、輸送量が小さかったりするお届け先に対してキャリイを起用してます。それだけならキャリイの想定する使い方の範囲内だと思うんですが……」
「ですが?」
「問題はうちの配送拠点とお届け先に距離がある時です。例えばさっき浜松にキャリイを送りましたが、発動機を長時間回しっぱなしで走ることになるので、本当はあまりやりたくないんですよ」
「あー……」
長距離輸送なら鉄道を使えばいいと思うかもしれないが、静岡のように鉄道がカバーしている地域が少ない地方も数多くある。また、そもそもキャリイを使っている時点で輸送量は少なくてよいのだから、鉄道では輸送量が過大なのだ。
「それに、まだまだ舗装されていない砂利道って多いじゃないですか。そうなると足回りも頻繁に故障するんですよね」
「しかもそういう道に限って、キャリイじゃないと通行に不安が残る道幅だったりしますもんね……」
景気対策の公共事業の1つとして道路の舗装が全国で行われたが、現代日本に比べればまだまだ未舗装路は残されている。そういうところは国の発展から取り残されているので、道幅が狭いし、鉄道も通ってない。よって、ジムニーやキャリイによる輸送に頼るしかないのだった。
「運送業仲間に聞いても、やっぱりキャリイはいまいち耐久性に劣るということで、もうちょっとどうにかしてほしいという人が多いです。何とかなりませんか」
「なるほど……キャリイで長距離走行することは考えていませんでしたからね……持ち帰って検討します」
そう言って田宮と別れた耀子は、話している最中に思い出したとある軽トラの特別仕様車の事を考え出す。首都高と東名の計画が進められていることも鑑みると、あれみたいな仕様を設定するしかないのかなと思うのだった。
辺境伯家の食客も更新継続中です。
https://ncode.syosetu.com/n7555jm/48
少しでも面白いと思っていただけたり、本作を応援したいと思っていただけましたら、評価(★★★★★)とブックマークをよろしくお願いします。感想もお待ちしております。




