ワークホースの完成形
すみません、遅くなりました。
日本産業が重戦車開発に悪戦苦闘している間、陸軍技術本部は何をしていたかというと、十二年式中戦車と、おそらく最終型になるだろう改良型の開発に邁進していた。
「重戦車を撃破可能で、陣地攻撃にも威力を発揮する新開発の中砲身105mm砲に主砲を換装し……」
完成した試作車両の砲身をなでながら、原乙未生がつぶやく。
「前線から再三指摘されていた車体装甲厚の不足を解決すべく、大幅な増厚を敢行……」
1型のころから大きく傾斜している正面装甲に手を置きながら鷹司信煕がこぼした。
「重量の増加に対応するため、燃費の良さと燃料の安さを捨ててでもクラーク式2ストロークエンジンを再採用……」
そして、山階耀子が車体後部のエンジングリルを開けて、現代の自動車もかくやというほどぎちぎちに詰め込まれたエンジンルームを眺めながらひとりごちる。
陸軍技術本部 十二年式中戦闘車 3型
全長4.9m
全幅2.5m
全高2.2m
戦闘重量:20.8t+増加装甲1.2t
乗員数:4名(運転手、車長兼無線手、砲手、装填手)
主砲:九七式十糎車載砲
口径:105mm
砲身長:4.2m(40口径)
砲口初速:685m/s
貫通力
APCBC-HE:165mm@100m、140mm@500m(九一式徹甲弾)
HEAT:190mm@100m、220mm@500m(九四式穿甲榴弾)
副兵装:9.3mm重機関銃 同軸×1、砲塔上部ハッチ前×1
装甲
砲塔正面:75mm+防盾40~75mm35~20°
砲塔側面:75mm
砲塔天蓋:40mm
砲塔背面:40mm
車体正面
上部:75mm25°
下部:75mm35°
車体側面:75mm90°+増加装甲13mm90°
車体背面:25mm90°
車体上面:25mm
車体下面:13mm
エンジン:帝国人造繊維"C099E" 強制ループ掃気2ストローク強制空冷水平対向8気筒
最高出力:408hp/2600rpm
最大トルク:141.0kgm/1600rpm
最高速度:42km/h
「いやあ、長かったなあ」
「長かったですねえ、本当に」
「この子もこれが最終型と思うと、少し寂しくなります」
3人が口々に想いを語る。十二年式ということは、大正12年に制式化されているから、今から数えて約15年。開発期間も考慮すれば彼らとこの車両の付き合いはさらに長くなる。細かな小改良はこの後も続くだろうが、メジャーアップデートはこれで最後になるだろうから、感慨もひとしおであった。
「そもそも、限界まで改良され続けてもらえる兵器というのは珍しいですからね」
「普通は陳腐化が著しくなって、新型を一から作った方がよくなることが多いものな」
原と信煕が感慨深そうに言う。例えば、十年式軽戦闘車は車体の小ささと厳しい重量要求が災いして数年しか生産されなかったし、主要なアップデートもチベットが勝手に設計した三八式野砲搭載型ぐらいしかない。
「余裕を持たせた設計をして、それを適切に消費しながら第一線で活躍し続けられたのは、本当に幸運だったと思います。まさか105mmが載るとは思いませんでしたが」
「逆だ、耀子。この戦闘車に載るような105mm砲を開発した、というのが正しい」
耀子の感想を信熙が訂正する。
「あ、そうなんですね。私はてっきり65口径ぐらいの長砲身75mm砲を載せるのかと思ってましたので、105mm砲と聞いたときはそりゃあびっくりしたものですが」
「長砲身高初速砲っていうのは大砲屋の憧れの1つではあるんだが、内筒は火薬で焼けるし、外筒は重力で垂れるし、そもそも製造時にひずむしでろくなことがない」
「それを乗り越えて高初速を実現しても、砲弾が着弾時の衝撃に耐えられずに砕けて抜けないとかもありますからね。それなら大口径化して質量で殴った方が合理的ですよ」
実際、史実日本陸軍の火砲で、50口径を超える長砲身砲は数える程度しかない。耀子の介入で上底吹転炉が実用化され、史実よりはるかに製鉄能力は上がっているこの世界線の日本だが、ドイツに比べれば長砲身高初速砲の開発と製造はまだまだ不得手なようであった。
「そうですか……じゃあ、もしかしてあのアイデアはそう簡単には実用化できないってこと?」
「あのアイデア?」
耀子の独り言のような言葉に信熙が反応する。彼女の頭の中には、この時代の人々にとっては未知の技術がまだまだ詰まっていることを、兄は知っていた。
「装弾筒付徹甲弾というものです。口径より細い徹甲弾に装弾筒と呼ばれる筒をはめることで、低い腔圧で貫通力に優れる細長い弾を大初速で打ち出せるという代物なんですが……」
辺境伯家の食客も鋭意更新中です。モニター艦に運河を遡上させて、敵軍を叩きのめしています。
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