演習結果の分析
演習後、攻撃側の武彦と小田原俊彦中佐、防御側の源田実少佐は、演習によって得られた知見をまとめるべく大西瀧次郎少将のもとに集められていた。
「では、まずはじめに演習の経過から整理しようか」
「はい。蒼龍を発艦した攻撃側は、目標の方位090から突入できるように飛行しておりました。しばらくすると、攻撃隊指揮官機に装備されていた逆探が反応したため、攻撃隊には防御隊形を取るよう指示し、護衛隊のうち2個小隊の高度を上げるよう命じました」
まず武彦が攻撃側から見た状況を説明する。
「護衛隊を分派して片方の高度を上げさせた理由は?」
「我が二段攻撃法の一段目であることは、防御側にも既知の情報です。であれば、我がある程度高高度から攻撃してくることは自明であり、防御側はそれに備えてさらに高い高度で待機しているだろうと考えたからです」
二段攻撃法とは、この世界線の日本海軍における空対艦攻撃法だ。1929年のロシア戦争緒戦における対艦航空攻撃にて、雷撃を実施した機体の損失が突出して多かったことから編み出された攻撃法である。これは、第一段階では敵戦闘機の掃討と対空火器の撃滅に注力し、第二段階で航空雷撃による撃沈を目指すという、ファイタースイープ戦術の一種であった。
日本軍では第一段階での対空火器撃滅に無誘導ロケット弾(六番噴進弾)を使用するため、これがわかっていれば低空ではなく、ある程度の高度で待ち構えるのが妥当な行動なのである。空戦でも、原則として高高度側を取っている方が有利であるから、敵に上を取られないように、一部を分派して高度上げつつ、攻撃隊をかばうために残りの護衛隊の高度はそのまま、という判断が行われたのであった。
「今回は防御側がある程度二段攻撃法を受けた経験がある前提で、健全な状態の空母を護衛しているという状況だったからな。不自然な行動ではないだろう」
「はい。そうして敵の攻撃に備えさせた後、彼の戦闘機隊から攻撃を受け、それを迎撃しました」
「いつもよりも目標との距離が開いている状況で迎撃されたため、護衛隊をすり抜けて我に攻撃を仕掛けてくる戦闘機が多かったと、部下からも聞いています。最終的に目標に噴進弾を投射できましたが、いつもの演習より被撃墜判定を受ける機体が多かった印象です」
武彦と小田原はこのように述べ、迎撃機のレーダー誘導は有効であるとの意見を示した。
「源田君の方はどうか」
「防御側としても、電探による索敵は心強いものでした。目視よりも先に彼を発見できたため、射点につかれる前に攻撃できたことは大きいと思います」
源田も、目視より早く敵を発見でき、先制攻撃に向かえるレーダー誘導を好意的に評価する。
「六番噴進弾は射程が長いですからね。対空火器で迎撃しようにも、両用砲以外は射程外ですから……」
小田原が源田の意見に同調した。
「そう。今回の演習は、電探を活用することで、母艦から遠い地点で敵機を迎撃できるようにならないか試すことが真の目的だった。3人の感想から考えるに、当初の目的は達成できたということでよいかな?」
大西が今回の演習の目的を明かす。六番噴進弾は対空機銃の射程の外から上部構造物を破壊できる画期的な対艦兵器であるが、同様の兵器を敵軍が運用するようになった時、どのように迎撃すべきかがずっと問題になっていたのだった。
「方向性としてはこれで問題ないことが分かったと言っていいのではないかと。ただ、敵戦闘機を撃滅するために第一段階では護衛機も多めにつけることになっていますから、それをさらに上回る迎撃機を付けないと、攻撃隊を叩くことは難しい気もしますね」
迎撃に出てきた敵戦闘機隊を、より優勢な護衛戦闘機隊が撃滅することも、二段攻撃法の一部であるため、どのみち結構な数の迎撃戦闘機を用意しなければいけないと武彦が指摘する。
「電探も改良が必要です。今の分解能では編隊単位でしか探知できないため、かなり近づいてこないと一機一機を見分けることができず、空戦が始まってからの指揮には使えません。これがもっと分解能が高まれば、例えば撃ち漏らしがどこの方位から抜けてきているから、○小隊何番機対応せよ、と指示が出せるかもしれません」
実際にレーダーを運用した源田からは、解像度の不足が指摘された。これが改良されれば、史実より高性能な無線によって空戦が始まってからも各機体を誘導することができ、効率の良い迎撃戦闘が行える。
「逆探も、単に電波が来たらブザーで知らせるだけじゃなくて、電波が来た方位についても教えてくれると、実戦では役に立つ気がします。今回は演習でしたから、目標の位置がわかっていましたが、実戦では攻撃目標は移動しますし、偵察機からの報告も正確ではないでしょうから」
小田原からは、逆探の改良も必要だという指摘がなされた。
「ふむ……レーダーで直衛機を誘導するという手法は有効だが、作戦の面でも機材の面でもまだ改良の余地がありそうだな。よろしい、本件については引き続き研究することにしよう。今後も何らかの形で試験に付き合ってもらうが、その時はよろしく頼むぞ」
「はい!」
自分たちができていることは、相手もしてくるはず。この至極まっとうな発想に従って、この時の日本海軍は戦術を磨いていた。いわば、自分たちの作り出した刀の切れ味に、自分たちでおびえていたのである。
辺境伯家の食客、引き続き更新しています。包囲された義勇兵たちに、川下から救いの手が伸びました。
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