第33話 リリーの探索 リリー様 国外脱出完了
「クリス殿下。リリー様、見付かったんですか?」
クラレンスの部屋から賢者の間にたどり着き、クリスにそう言った途端、胸に激痛が走る。
バランスを崩して倒れそうになるのを、一緒に連れて来たクラレンスに支えられた。
「大丈夫か?」
クラレンスが心配そうに訊いてきた。
「あ……はい。平気です」
まだ少し痛みの余韻が残っているけど、まだ大丈夫なはずだ。私はクラレンスの方を向いて笑顔を作った。
「何も飛んでこなくても良かったのに。ああ、ここ。この山間。貴族令嬢を連れてよくこの山に入ったよね」
水晶には、険しい山道……と言うより、崖に沿った道が映し出されている。
一歩間違ったら、谷底に真っ逆さまという感じだ。
リリーはもう貴族の装いではなくなっていた。村娘が着るような、簡素な服で靴も歩きやすそうな、しっかりしたものになっている。
横には、長身で体格の良い黒髪の男性が寄り添うように、庇うようにあたりを警戒し、リリーを支えながら歩いていた。
この山を越えてしばらく行けば、隣の国に入ることが出来る。
双方の国の猟師か木こりか、そういうのを生業としているものしか通らないので、国境など無いに等しいところだった。
このルートを選んで、しかも貴族令嬢連れでここまで来れるという事は、連れの男性はかなり優秀なのだろう。
「キャロル。行ける?」
クリスが、キャロルの方に手を出しながら訊いてくる。
まだ体は痛いけど、大丈夫だ。
「行けます」
「キャロル? まだ体が」
私の即答にクラレンスが焦ったように訊いてくるけど、その腕をしっかりつかむ。
「行きましょう。クラレンス殿下」
次の瞬間、クリスとキャロル、クラレンスは賢者の間から、水晶に映っている山間まで飛んだ。
クリス殿下と賢者が、私を内外から支えてくれているのがわかる。
私は体の痛みを訴えることなく、リリーたちがいる崖の所に着いた。
「リリー様」
リリーの姿を見付け、思わず叫んでしまう。
横にいた男性が、警戒をしたのかリリーを自分の背に隠してしまう。
「追っ手か」
「違うよ。捜索隊は別の所を探している。まさか、こんな険しい山を行っているとは思わないさ」
男性の問いには、クリスが答えていた。
クリスは、少し浮いたような感じで、楽々と崖の道の上に立ちリリーに訊く。
少し、怖い感じがした。
「リリー。その男が好きかい?」
男性の方は、更にリリーを隠そうとしたが、リリーは前に出て男性を庇うように両手を広げた。
「この者は関係ありません。私が騙して連れて来た者です」
リリーは、必死になって叫んでいた。
そのリリーを、男性は必死に自分の後ろに庇おうとしている。
「ふ~ん」
「どうか、連れ帰るのはわたくしだけにしてください」
「リリー様!」
男性はリリーを後ろから抱きしめた。
「連れて帰られたら、どうなるか分かっているの?」
クリスは冷静に言っている。
「はい。わたくしはどうなっても構いません。ですから」
あの夜会の時は、青くなってガタガタ震えていたのに、リリーは覚悟を決めたようだった。
「だってよ。王太子殿下」
クリスは私たちの方を振り返り訊いてくる。どうする? って。
私の側を離れ、クラレンスはリリーの方に向かう。
そして、懐中時計から外した純金の鎖を渡した。
「リリー。私の所為でこんな目に遭わせてすまなかった。これを換金して生活の足しにしてくれ」
そして男性の方に向き合った。
「リリーをどうかよろしく頼む。出来れば幸せにしてやってくれ」
そう言って頭を下げた。
「賢者様の能力で、この先の国境を越えたところに飛ばしますので、二人共なるべく……そうですね。抱き合って下さい」
私が二人にそう言うと、クリスが私の側に寄り添ってきた。
「え? どうして、キャロル様が」
リリーが戸惑っている。
「幸せになってくださいね」
二人にかざした私の手のひらから、まばゆい程の光が生まれる。
リリーたちが降り立つ位置。安全性。すべてのコントロールは賢者とクリスが担当する。
そしてまばゆい光はだんだんと大きくなり、リリーと男性を包み込んで消えた。
クリス達が支えていても、体の激痛は免れなかった。
痛む体で最後の仕事をする。
私たちが、賢者の間にたどり着いたところで、私の意識は途絶えた。




