ゾゾ
「私が手がけたゾディアックゾンビウイルス……通称Zウイルスは少しばかり難点があってね。直接投与でもしない限りすぐにはゾンビ化しないのだよ」
「ゾディアック……?」
「かつてアメリカで起きた未解決の連続殺人事件が由来さ。呼び名はゾゾウイルスでも構わんがね」
自分が凶悪犯にでもなったつもりか。タチが悪いのは間違いないが。
「……それで?」
「まずはこのウイルスの散布方法に悩んだ。怪しまれずに注射を打てたとして、すぐにその騒動は鎮圧されてしまうだろうからね。だから私は飲み物に目を付けた」
「どうやって入れたんだ?」
「空港の検査官を買収しウイルスに浸した豆を輸入させる方法、工場で立ち入り検査を装い混ぜる方法、念には念で医者を演じ飲み物に薬と称し混入させてみたりいろいろとね」
つまりその後全国に配達されてしまい、コーヒーの購買層が犠牲になったわけか。
美優の学校で見た先生のように、子供はゾンビになりにくいが大人はなってしまう理由はそれだったんだな。
「だが、どうしてこの混乱は一斉に発生したんだ?」
「経口摂取の度合いによるがゾンビ化するには、三日から十日と個人差が生じている。これは遅効性のウイルスが潜伏し増殖する期間が必要だからだ」
「三日……俺は何日経った?」
「四日目だ。だが、君は初日でウイルスの増殖がストップし、半人間半ゾンビとして機能している」
「どういうことだ……なんで俺が?」
「それは君の行動と体質に関係ある」
そう言い出すと根原が表のようなものを見せてくる。
「まずこのウイルスに耐えられる可能性がある者は血液型で決まる。君は珍しいAB型なので当然として、一部B型でも確認している。AとOではワクチンでも打たない限りゾンビ化は止められない」
「ABとBだけ……」
俺達の中で該当しているのは確か……Bの勇真と智香ちゃんだけだ。
「そしてウイルスの潜伏中にアルコールを摂取することによって、時間差で身体に変化が起こる。君も心当たりがあるだろう?」
酒はコーヒーの後にすぐ飲んでいる。だが、戦闘が起こるまでは平気だった。
戦闘の最中に手が痺れそして――。
「血圧の急な高ぶりが発生するとウイルスとアルコールで拒否反応が起こり、急激な頭痛を引き起こしそこが命運を分ける。適合しないものはゾンビに、適合したものは半ゾンビってね」
「つまり俺は適合したのか……」
「潜伏からアルコール摂取までが早かったんだろう。今の君はほぼ人間だがウイルス保菌者で、身体能力と狂暴性が増しているだけに過ぎない」
身体能力と狂暴性……先程との戦闘で思い当たる節がある。
戦い方はもちろん、相手を倒すことに躊躇いがなく怒りのような感情が優先していた。
「そして、その狂暴性はゾンビと人間のどちらに対しても発揮される。つまり、君が仲間の元へ帰ると被害が増すということさ。私は止めないがねハハハ」
「根原ァ!!」
掴みかかろうと距離を詰め手を伸ばす。
しかし、それ以上攻めることができず力も思うように入らない。
「な、なんでだ!?」
「フフフ、君はインプリンティングという言葉を知っているかね?」
「産まれたばかりのヒヨコがどうとか聞いたことはあるが……」
「刷り込みのことだが感覚的には分かっているようだな。君が私に手を出せないのはそれに近い性質で、君のウイルスが拒否しているからだ。これがさっき告げた君が感染している証明さ」
「くそォォォ!!」
いくら殴ろうとしても身体が動いてくれない。
奴の言う通り、俺は化け物になっちまった訳だ……はは。
「君に全てを話しているのも私は危害を加えられる心配もないからだ。なによりこれから私の手駒として動いてもらう」
「俺に何をさせようとしている……?」
「とりあえず、経過観察がてら外の世界で好きにゾンビを倒してくるといいさ。君が完全なゾンビならともかく、人間な部分に惹かれて襲ってくるゾンビも居る。ついでに人助けもできるかもしれんぞ」
「そんなことに意味はないだろう。人を助けても襲ってしまうかもしれないのに」
最悪俺がゾンビの代わりに追いかけてトドメを……なんて考えるだけで嫌だ。
「おやおや、ご褒美がないと動かない性格かい? よかろう、私にデータを提供してくれればワクチンをあげるさ。君の体内にあるウイルスを殺すためのね」
「そんなものがあるのか!? いや、あんたの話ではもう遅いはずだ」
ゲームだと血清やワクチンが後々必要になると勇真が言っていた。
でもこれは現実。そう易々と治るわけがない。
「完全なゾンビ化ならそうだが、君は別だ。半ゾンビ化なら間に合うし、用意周到な私がウイルスとセットで用意しないと思うかね?」
「……」
信じたくはないが、もし根原が感染した時用に保険を用意しているはずだ。
だいたい、こいつがウイルスを作りばら蒔いたならあり得ない話ではない。
「どうせここで飼い慣らされるぐらいならその話に乗ってやる」
「君ならそういうと思ったよ!」
見越していたのか返事が早い。
「外での活動にはこのフードを被るといい。目立ちにくく動きやすいし、君のような存在に出くわしたら顔を見られるのはマズイだろう」
「俺の他にも居るのか?」
「確認できたのは君で三人目だ。だが、自然と適合条件を満たす者も考慮すると、無差別に襲いかかってくる可能性もある」
「へぇ……」
このフードコート、なんだか忍者漫画に出てくる集団が着用していそうな格好だ。
俺で三人目か。話が通じるなら仲間になるかもしれないな。
「それと半ゾンビ化の影響で、腹が減らず排泄も必要ないし疲弊もしない。外での活動にはうってつけだろう?」
便利な身体だが、人間離れしている事実に嬉しいような悲しいような……。
「君は貴重なサンプルだ。くれぐれも無理してやられるなんてことはよしてくれよ」
「サンプル扱いしてる奴に言われたくはない。それにあんたの話を信用したわけじゃないからな」
「好きなだけ疑うといいさ。君にどう思われようと一度助けているんでね。むしろ感謝してほしいくらいさ」
「誰が! お前のせいでこんな世の中になったくせに!」
「フフフ、そう思われて残念だよ」
いつかそのニヤケ面をブッ飛ばして倒してやるさ。思い通りにさせてたまるか!




