十四話 誘導 "Great will"
美月山を下山した灯子と己。狐の一騎打ちの為に炎幻の本領の許可を得なくてはいけない
灯子はすぐに会合を開いてもらい、報告するのだが、その中で一つの答えに行きつく。
「あっ、おかえりなさいですっ」
美月山を下山した灯子と己。夕方を迎え、空がオレンジ色に染まりあがるころ、二人は紅月の屋敷に戻ってきた。
玄関にいたのは祠堂秋。丁度日暮れの暗さに明かりを灯しに来たようだった。壁のスイッチを入れると、玄関に明るいオレンジの光が灯り、同時に外に飾られていた灯篭にも明かりが点く。
その祠堂秋の姿は、着物を着ているので少しだけ色気づいたようにも見えるが、灯子と己の調査報告を聞きたいことが体に出ているのか、ウズウスと体を揺らしていた。まだまだ子供ねぇと灯子と己は互いに顔を見合わせる。
「まぁ神様狸の話をすれば興味も沸くか。とりあえずただいま」
「悪いが立ち話で報告できるほど短くできそうにない。それに何度も話してる余裕はねぇんだろう?灯子」
「そなんですか?」
「そゆこと。これが結構複雑なことばかりでねぇ」
「灯子お姉ちゃんがそう言うと、やっぱり秋が行かなくてよかったと思いました」
「んー、確かに。秋ちゃんじゃ荷が重い。いや、この件は流石に私じゃないと、かなりしんどいかもねぇ」
「ああ。適任どころか灯子にしか解決できそうにない」
「解決の目途はどうなんですか?」
秋に首を傾げられながら解決できそうか秋に聞かれた灯子は、「もう、これもんよ」と言いながら目頭を指でつまんで頭を下げた。その様子に己も否定はせず、「そういうことだ」と秋に向けていった。
「お、お疲れですか?」
「「かなり」」
ため息交じりに声を合わせる灯子と己。山道を往復した二人の足には疲労がたまっている。余裕の表情を秋に見せてはいるが、やせ我慢交じりと言った具合でもある。
虎事に狐の事情まで見えてきた次第だが解決は一つも成っておらず、むしろこれからと言うところだ。灯子に至っては夜になれば狐との命を賭けた化かし合い勝負をしなければならず、その前準備をしなければいけない。少しばかりの休息が取れれば幸いと言ったところだ。
「さて、悪いけど己」
「ああ、紅月、萩原、あと熨斗の御当主に声を掛ければいいな?」
「うん、よろしく。できればすぐに。で、秋ちゃんは華蓮さんと西部の旦那に声かけてくれる?」
「また会合ですか?あ、調査報告って奴ですね?」
「そんな長くなることはないけど、ちょっと当主の許可が必要でね」
「許可?なんのですか?」
「"炎幻の本領"を使わなくちゃいけなくなったみたい」
「そ、そんな事態になっているんですか!?た、たしか本領って、九重の家族の各家系がそれぞれが持ってるなんかすごいカッコいい超!必殺技っ!とか絶!秘奥義っ!みたいなものですよね!?秋がまことに残念ながら使えない奴ですよね!」
「あー……そういや秋ちゃんは"仏炎の本領"の伝授ができてないんだったか……まぁ詳しい話はまた後で。とりあえず招集よろしく」
「わかりましたです!」
灯子の言葉に秋はびしりと敬礼して、たたたたと廊下を駆けて行った。その元気な後ろ姿と今の自分を比べればどれだけ疲れているかはよくわかる。あぁ、お風呂入りたいと灯子は思うがまだやることが残っているので仕方ない。
「踏ん張りどころだ灯子」
「もっと楽したいよぉ」
「泣き言ならじっくり聞いてやる。また後でな」
「灰鳴当主様は実にお優しいことで」
疲れとしては己も同じようなものだが、それをあまり顔に見せず己も当主を呼びに背を向けた。それを見て灯子は誰かこの件変わってくれないかなぁと思うのだが、流石に今日の一件すべてを考えると、ほとんどが灯子に関わっていることばかりで、交代に適した人が居ないことは明白だ。
「しっかしまぁ美月の山に虎話。私の同級生が虎だってことや、私が止めた狸と狐のいさかい事も関わってくるときたか……なんというか縁のあることで」
灯子は「まったくもってしゃーねぇなぁ」と声を自分へと掛けながら、頬を軽く両手で叩いて気合を入れなおし、大座敷へと足を向けた。
灯子の調査報告と炎幻の"本領の許可"の事を聞くと、各当主はすぐに大座敷へと集まった。(熨斗家当主、熨斗ム雲は帰ったらしいのでいない)
急な事なので流石に膳を用意することはなく、集まった一同はそれぞれの位置に座る。ただし灯子は萩原家当主、萩原幻灯の後ろには控えていない。
この会合の主目的は灯子の虎調査報告と、狐の化かし勝負に向けての炎幻の本領の許可。そのため、灯子の座り位置は上座に座る紅月和仁の真正面である客座になる。一同の視線が灯子に注がれる中、すぐに本日二度目の会合が始まった。
「急な招集にお集まりいただき、当主一同に感謝いたします」
「日を跨がずにということは何かあったのだろう?灯子、報告を」
「はい。美月が山の虎話。ここにご報告いたします」
会合の長である紅月和仁の言葉を受け、灯子は美月山での出来事をざっくりとではあるが伝える。
虎と接触し、その虎が憑きものを受けた元人間であり、名前まではわからないが灯子たちとおそらく同級生であるということ。
その後に狐が襲撃し、辛くも退けた事。狐の狙いが虎であり、その理由が何者かに狐の仲間を殺され、狐はそれを虎の仕業と踏んでの事。
虎はもともと人で、木の実しか食べていなかったことから狐の襲撃が狐の思い込みであり、それをどうにか理解はしてくれたが、それでも狐は虎を野放しにできないと、仕方なく狐と灯子の一騎打ちになってしまったこと。
そして、狸の頭領である斑が狐の世代交代を知りつつも灯子に隠していたことや、その狐の頭領の柘榴が亡くなった日が二十八日で、どうにも虎話と関係があるということ。
灯子の口にしたことは己もまた知る所であり、灯子の報告の終わり紅月和仁が視線を己に向けると灯子の言葉を肯定するように己は頷いた。
「ふんっ、虎を賭けて狐と一騎打ちか。また妙な事にしおってからに」
話を聞き終わると同時に言葉を先に出したのは、最初からずっと灯子をにらみつける萩原家当主の萩原幻灯。腕を組み、わしならばこんな事態にはせんとしかりつけるように言い放つ。
それを聞く灯子は、だったら自分でやれよ。と言いたいが、ここで口喧嘩すると目的である炎幻の本領の使用許可がもらいにくいので灯子はぐっと我慢する。それを見て庇うように西部家の当主、西部志里が口を出す。
「まぁまぁ、灯子ちゃんもこの数時間で事のほとんどを調べ上げたんだ。一応ねぎらいの言葉でもかけてあげるべきではないでしょうか?」
「おぉう?西部のは虎が灯子の同級生。つまり稲見村に持ち込まれた厄介事の一端が灯子にあることは目をつぶると?」
「い、いやいや、灯子ちゃんがその同級生って言う子に虎を憑かせたわけじゃないですし、さすがにそれは言い過ぎかと」
「ふんっ、だとしても狐との一騎打ち。下手をすれば山のもんに嫌われかねんことを平気で承諾したのは間違いじゃ。穏便に事を済ませればよいものを余計なことをする。頭に脳が入っておれば秒もなく理解できるほどじゃ。ま、さ、に、馬鹿者の所業っ」
灯子のやったことをここまで貶されると怒りも通り越して呆れるというものだ。そんな灯子を心配して己は目を向けるが、灯子は言わせておきゃいいのよと目線で返した。あわあわしている祠堂秋には、緋森華蓮がすっと手を出して口を出さないように制する。幻灯の性格は新参である祠堂秋を除いて理解している。
幻灯の口から孫の灯子に対する辛辣な言葉がまだmだ出てきそうだが、それでは話が進まないと察した紅月和仁が言葉で制する。同時に少し申し訳なさそうな笑みが僅かに灯子に向いた。
「幻灯殿。お叱りはそれくらいに。話を進めてもよろしいだろうか?」
「この馬鹿者に身の程をわきまえさせる必要はあるじゃろうて」
「しかし……狐との勝負事。事情はともかくとしても、勝負をその場で受けねばこれも関係悪化の可能性は否定できないでしょう。そして、勝負を受けるにしても一つ策を講じることこそ、萩原が九重に連なる理由だと私は考えている。幻灯殿が一任して見せた次期当主の実力を見せていただく良い機会だとは考えてはどうでしょうか。それが難しいのであれば、萩原家以外の者で手を打つ必要があるやもしれない」
優しくもその内に強さを秘める本家紅月当主、紅月和仁の言葉に、萩原幻灯は白髭をさすりながらわずかに考える。
この言葉の裏というものを萩原幻灯がどう捉えるかだが、灯子が紅月和仁の言葉を聞く限り、ちょっとした脅しに他ならないと思ってしまう。
言ってしまえば、狐との勝負を受けても全て丸く収めることが萩原の名を持っているのならできるだろうし、当主である萩原幻灯はそれを灯子にませた責任がある。幻灯が灯子に非難の言葉を向ければ、自然と虎の件を任せた幻灯の責任を問わざるを得なくなるかもしれない。当然、九重の家族に連なるのだから失敗は無いだろう?といった具合だ。
言葉は丸く、幻灯に責められていた灯子を庇うように聞こえはいいが、そこにはしっかりと灯子へのプレッシャーも含まれている。言葉の前に申し訳ないと笑みを向けたことも含めていい性格してるよ紅月の旦那。と灯子は内心で思った。
「……言いたいことは山ほどあるが、ふん、まぁよかろう」
「ありがとう幻灯殿。では灯子、まずは調査の件ご苦労様」
「いえ、務めを果たしただけにございます」
「本来なら会合で決まった灯子の役割は調査だけだが、狐との勝負事の件もある。このまま虎の憑き物の解決も含めて灯子に任せたいと考えているができるか?」
まぁそうなりますよね。と灯子は内心で苦笑いをした。一応灯子の意思を求めてはいるが、虎の件といい狐の件といい、灯子が深くかかわっている。何度も思ったことだが、適任と言う言葉はもう不相応だ。むしろ、この件、灯子以外にできる人間がいない。
ちらりと顔を真正面にいる紅月和仁の顔を見れば、その深紅の瞳はやってくれるよねとばかりにこちらを向いている。
……思えば最初の会合の時から、当主一同は虎の件を私に調査させるために誘導したんだっけか?最初から最後まで、手のひらの上だってことねぇ、と灯子は思う。
「承知しました。虎の件、狐の件、このまま継続を……」
言葉を出し、頭を下げようとしたその時、ふと自分で思った言葉が引っ掛かった。ぴたりと言葉を止めると、わずかにだがその引っ掛かりがなんなのか、なんだか今ならわかるような気がした。
「どうした?」
「え、あ、いや、えっと……」
もう一度紅月和仁の顔を見る。灯子の受諾の言葉を待つが、途中で言葉を止めたことにわずかに首を傾げている。
そもそも紅月和仁含め、当主一同はどこまで知っていたのだろうか?虎の件を灯子に一任するよう誘導したからには全く知らなかったということはない。けど、虎が同級生だって話も出ていないから、全てを知っていたというわけでもない。
最初から最後まで誰かのてのひらの上だって言うなら、全てを知っている必要があると考えると、灯子が立っている手のひらと言うのは九重の家族のものではないということがわかる。あれ?だとすると、私は今まで誰に誘導されていたんだ?と、灯子は思う。
「どうかしたか?」
「あー…ちょっとだけ待ってください」
「この件、なにか思う事があるのか?」
「虎の件や狐の件は受けるんですけど、ちょっとだけ、今五分だけ、いや三分?時間下さい。すぐに答えだしますんで!」
「要領を得ないが、」
「考えるんで!考えちゃうんでちょっとまって、いや待っていただきたく!」
灯子は言葉をさえぎり、手でさらに制止した。頭の中にあるのは、気づいてしまった違和感。誘導の結果、誰の手のひらの上に自分が立っているかということだ。この正体が今になってわかりそうになっている。もしわかるのならばはっきりさせておきたい。いや、させておくべきだ。狐との勝負でそれは必要になってくる。どうしても必要になってくるはずだ。
灯子は返事を保留すると、当主たちの視線が注がれる中、顎に手を当て思考をめぐらせ始める。幻灯や華蓮が声を掛けるがそれすら耳に届かせず、自身の思考へと潜りこんでいく。
「初めから誘導があったなら、最初の誘導から追えばいい。私が理解している誘導を一から辿ればいい」
今日起きた出来事を追う。そうすれば、その全てが誘導であったということがよくわかる。そう、灯子は今日一日、誘導によって動かされていた。
朝の会合では、虎の件を灯子に一任すべく紅月和仁によって誘導された。萩原幻灯は美月山の虎話を受ける事を前提に己に護衛を前もって一任しているし、緋森華蓮は虎の件を受けた直後に灯子が美月山に登ることを察していたから、斑への土産を持たせた。
「……でもこれって、私が美月山の斑と親しいからに他ならない」
当主たち一同は美月山の事を知り、山に詳しい狸の頭領と親しいからこそ、灯子に一任するように動いたのだ。もしも、この時点で虎が灯子の同級生であり、狐の頭領交代の件を知っていれば、話が少しでも出ていたはずだ。それが無いということは、当主たちは灯子が山で見てきたことを知らないというのが正しい。
次に誘導されたのは当主たちではなく狸の頭領斑だった。当主たちではできない誘導を斑はしていた。狐の頭領交代を知らせないことで、八尾の煽と灯子を意図的にかち合わせたのだ。
もし、斑が狐の世代交代を知らせていれば、灯子と八尾の煽との衝突は少なからず灯子側から避けることができた。凶暴になっていることを知れば、合うわけにはいかないが、斑はそれでも言わなかった……八尾の煽と灯子をかち合わせるために。
「狐が虎を追っているという件がここに関わっているなら、無関係なんかじゃない?」
狐の仲間が殺されたことは手がかりというものがほとんどない。けれど、木の実しか食べていない虎じゃないことは灯子よりも狐のほうがしっかりと理解している。おそらくは狸か狐のどちらかによるもの。
重要なのはここで、狐殺しが虎じゃないことを誰が知っていたかと言う事。山の事に詳しい斑がその件を知らなかったとは思えない。虎は木の実を食べているとまで子狸から聞いたのなら、斑は間違いなく狐殺しの犯人が虎じゃないこと理解していた。
「狐の世代交代に、狐殺しの犯人が虎じゃないことを知った上で私言わない理由は?」
虎の件で乗り込んできた来た灯子に狐をかち合わせ、そして狐に虎が犯人じゃないことを私の口から証明させるため。
狸と狐は戦争状態で、相手の言い分を聞くような体制にはなっていない。斑は灯子を利用したのだ。
「でも何のために?虎が獣を襲わないことを知っていても、虎は狸にとっても脅威のはず。狐に殺されれば狸だって安心するのに、庇う理由は……」
それが人間だって知っていたからだ。むやみに人を殺せば、五十年前の戦争の時のように人間が介入してくることを斑は恐れていた。
山での出来事は、つまり斑の手のひらの上……いや、もう一つ先がある。
「なんで斑は虎が人間だとわかっていた?」
狸の神通力?あり得る話かもしれないけど、たしか斑の神通力は気配を察することのみ。虎の気配はしないが人間の気配がしたからそう判断したのでは?
それならもっと簡単に狸の手下を使って人間が虎になって山でうろついてるから、人間側でどうにかしろと直接言ってもいいはずだ。
「つまり、そこに手が出せない理由があって……それが虎の憑き物に関係しているとしたら――――っ!」
関わっているのは、二十八日と言う日付。そこまでたどり着いた灯子の脳裏に、一つの影はっきりと見えていた。その影の正体を今、理解する。
「くっ、くくくっ、ふっ……あっはははははははっ!」
灯子は正体を理解した瞬間に、自然と笑みが浮かび、笑っていた。ぶつぶつと独り言をつぶやいてからの行動に、当主一同は困惑の視線を向けるが、一人、己だけが「当り」を引いた灯子の顔にふっと笑みを浮かべ声を掛ける
「灯子、わかったんだな?」
「ええ。勿論。虎の件も狐の件も、全て遺憾なく、淀みなく、問題なく」
「ほぉ」
「朝からずっとよ。それも喫茶店の一幕から、神社にたどり着くその時も。私はその手のひらの上にいたってことなのね」
灯子は改めて正面の上座に座る紅月和仁に向き直り、三つ指をついた。紅月和仁はそんな灯子に向けて、ふと笑みを向ける。その笑みからは灯子と同じく、この事態全てを知る存在の正体に気づいているということがわかる。だからこそ、紅月和仁も誘導を買って出たのだろうということも。
「それで灯子、改めて答えを聞かせてくれるかな?」
「はい。虎の憑き物の件、並びに狐の勝負の件。さらには狐の仇討ちの件に、会合で上がりました山の者による農作物の荒らしの件……全て一括してこの炎幻萩原が次期当主、萩原灯子がお引き受けいたします。そして、事をすべて成すがために、ここに萩原が持つ"炎幻の秘奥"の使用をご承認賜りたく存じます」
灯子は三つ指をついたまま頭を深く下げた。はらりと髪が流れ、わずかの間に紅月和仁は一つ頷きを入れた。
"炎幻の秘奥"。炎幻の家系と言われたる萩原家が持っている門外不出の奥義でありそれは使用の許可を求めるほどに危険な物でもある。だからこそ、使用には各家の許可が必要になる。
灯子の意志を聞いた九重の家族の長、紅月和仁は炎幻の秘奥の許可に否定の言葉はなく、ただ意見を聞くべく視線を各当主たちへと向けた。
「ふむ、各家の秘奥は九重の家族の許可が無ければ使用を固く禁じている。当主一同に聞く。萩原が持つ炎幻の秘奥、これの使用に異がある者はいるだろうか?」
「ふん、聞かんでもよかろうて。灯子が理解しそれを必要と認めたならば、それが萩原の意志じゃ。萩原幻灯はここに炎幻の本領の許可を認めよう」
「手前は灯子の意思に従うまでです」
「そこまで言い切った弟子の言葉を師が認めぬわけにもいくまい」
「秋は灯子お姉ちゃんが思うようにやったらいいと思います!」
「みんな賛成してるのに僕だけ反対するわけにはいかないよ。それだけ信じてるってことでもあるからさ」
今回の美月山の虎話、事の次第を知っている者から知らぬ者、言い方はそれぞれではあるが、灯子が求める炎幻の秘奥の許可に否定の言葉はない。
熨斗家の当主、熨斗ム雲はこの場にはいないので賛同を得ることはできないが、既に過半数を超えている為、その必要もない。
「ふむ、皆、許可の許可は得たようだな。熨斗家の許可は私の権限で降ろそう。あれは面倒事をこと嫌う性格だ。この場にいたとしても早期解決の為に許可してくれただろう。つまり満場一致。灯子の意思ならば、穂積さんも、郷也君も許可はしてくれるだろう」
「ありがとうございます」
「だが、最後に一つだけ」
「はい。なんなりと」
「狐との一騎打ち。負ければ灯子の思惑は覆り、虎となった灯子の同級生は狐に殺されるかもしれない。そうなれば山の事態は悪化しすべての物事の解決は到底望めぬ事になる可能性は大いにあり得る」
「勿論、承知しております」
「それでも、炎幻の秘奥を使い、すべてを収められると言えるか?」
「はい。遺憾なく、淀みなく、問題なく」
「よし、では炎の血族、紅月分家が萩原家次期当主、萩原灯子。その名を持ちて九重の家族が難題、虎の件にまつわるすべてをその手で解決せよ」
紅月和仁の最後の問に灯子は顔を上げた。そこには自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、疲れも吹き飛んだやる気に満ちた目があった。最初は面倒だといいつつも、事に入ればその実力にて注力する。その笑みは灯子の性格がよく表れているようでもあった。その意志をここに灯子は宣言する。
「委細に承知!すべての解決に吠える虎の音、美月が山より轟かせましょう!」
お読みいただきありがとうございました。




