【ガルドは過保護だなぁ】
翌日――。
昼に街を出たルシアンらは、北の丘陵地帯に差し掛かろうとしていた。
先ほど近くの村に立ち寄り、小型魔獣の話も聞いた。……もう、畑がいくつも被害にあっているらしい。
とはいえ、魔獣がでるのは、夜。ふたりは一度頷き合って、ひとまず魔力鉱石の採取場所へと足を運んだ。
北西斜面の露頭付近まで来たところで、ガルドが一度ルシアンを止めた。
依頼書にあった、"魔獣が巣をつくっている場合が"、という注意文。周囲を見やるガルドを見て、ルシアンも同じように見渡す。その鋭い野生の勘で以て現場を見るガルドと、魔力の流れを感じ取るルシアンと。
……どちらの網にも気配はかからず、周辺は平和そのものであった。
ギルドで渡された簡易測定器を、一応ガルドが取り出す。
岩肌に埋まる、魔力鉱石を感知するための道具。……を、掲げながら、ルシアンを見る。
――にこり、と銀の瞳が笑う。間違いない、この笑顔、"わかっている"。
が、彼はそれをあえて言わず、ガルドが探す様を楽しむように外套の裾を整えていた。
「どう?ありそう?」
「…………」
岩場で測定器をかざすガルドが、ちろりとルシアンを睨んだ。睨んではいるものの、どこか"仕方ねぇな"というような表情。ルシアンはやはり楽しそうに、その様を見つめている。
「……お前、わかってて言ってんだろ」
測定器の針がかすかに跳ねた岩を前に、ガルドが低く唸る。
乾いた岩肌に手をつき、小型のハンマーを慎重に打ち付ける。先が細くなっているそれは、難なく岩を割っていく。
「ったく……」
舌打ちを挟めながらも、斜面に転がり出てきた鉱石を手に取る。淡く光るそれは、陽光を受けて深く澄んだ。……ガルドの手元に、緩く影が落ちる。
見上げれば視線の先――上段の岩場に、いつのまにか軽やかに登っていたルシアンがいる。
風を受けて外套が揺れるたび、淡紫の髪がひらりと舞い、陽を弾く。まるで、ただの散策にでも来たかのように軽やかな足取り。
だが、その銀の瞳は確かに、足元の岩場の"奥"を見ていた。
「……で。いくつわかってんだ、今」
ついでにもうひとつ、測定器の反応した岩を削りながら、ガルドがぼやく。ルシアンはそれに答えず、ふふ、とだけ笑った。
「君がハンマーを渡してくれれば、私も手伝えたのになぁ」
すとん、とその岩場でしゃがみ込みながら、……ちらりと、ガルドが握る採掘道具にルシアンの視線が落ちた。これに関しては、先ほどダメだと言われたところである。
ガルドの視線がまたもルシアンを向く。――心底、めんどくさそうな顔をしている。
「ほら、その顔だもの。ここと、そこと、そこにもあるよ。頑張って?」
「てめぇ……」
鋭い眼光もなんのその、笑ったルシアンが指さした岩肌は、ガルドの立ち位置からほんの少し左にずれたあたり。ガルドがそこを軽く削れば、ほのかに光る鉱石が。測定器は……もう地面に置いた。
ガルドが立ちあがって、上段のルシアンへ腕を伸ばして鉱石を渡す。楽しそうに受け取ったルシアンが、それを陽にかざした。
「ううん……ティヴァ鉱石かな。薬師や錬金術師に需要のある鉱石だね」
「……研究者かよお前……」
「ふふ、ギルド書庫の図鑑に載ってたよ。粉末にすると……確か別素材の効果促進作用があったはず」
その柔らかな声を聞きながら、ガルドは先ほど言われた場所にまた採掘道具を当てていた。
ごり、と岩の断面が剥がれ、淡く輝く鉱石がまたひとつ、顔を覗かせる。奥にも、もうひとつ。
「……テバだかなんだか知らねぇが……どこだ、あと」
ぶつぶつ言いながらも、またそれを上段のルシアンに。こつりこつりと手元に増えていく魔力鉱石を、ルシアンも興味深げに眺めている。
「綺麗だね、ガルド」
「にこにこしてんじゃねぇ、ったく……」
その声に、ルシアンは口元に指を添えて、小さく笑った。風が吹き抜け、淡紫の髪がまた揺れる。
「……もう全部言っとけ。やるから」
赤い瞳が、投げやりなようで、どこか楽しげにルシアンを見上げる。――悪くない、時間だった。
――【ガルドは過保護だなぁ】




