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10 私なりのやり方で

「お嬢様、くれぐれも気をつけてくださいね」

「分かってる、大丈夫だよ」


 おろおろと心配するエレナに笑いかけると、私は待ち構えている兄様へと歩み寄る。


「多少魔術を覚えたぐらいで勝てるなどと思うなよ」

「もちろんよ。だから、私は私なりのやり方で勝たせて頂きますからね……!」


 そう言うなり、ポケットから取り出した小瓶をガシャンと地面に叩きつけて割る。

 

 すると勢いよく煙が吹き出し、たちまち兄様の周辺が煙に包まれて見えなくなる。

 

 これは魔術師団から貰った実験品だ。余った試作品だそうで、快く譲ってもらえた。

 

 自力では勝てないのなら道具に頼って力を底上げすれば良いと考えた戦法だが、兄様の視界を奪ったところで時間稼ぎにしかならない。


 けれど、私にとってはその一分一秒が重要だ。


「水の流れよ、全てを穿て!」


 手のひらに水を集めてレイピアのような剣の形を四本作る。

 それらを兄様の方向へそれぞれ飛ばし、突き刺そうとした。

 しかし、兄様は素早い身のこなしで全て回避したようだ。

 煙が消えると、無傷の兄様が立っているだけだった。


「俺の技を真似たか」

「妹は兄の背中を見て育つものよ!」


 アレクシス様に向けていた魔術から連想したものだ。

 私の体力では剣を握って戦うことはできない。ならば、兄様のように魔術で動かせば良いだろう。

 しかし、やはりその程度の考えは見透かされていたらしい。


「まだまだ行きますよ!」


 私は手のひらを掲げ、中指に付けた指輪に魔力を込める。


 これも装飾品ではなく、魔導具だ。

 指輪を通して魔力の糸を編み出し攻撃することが出来る。


 魔力の消費量が激しい私のために、魔術師団が貸してくれたものだ。

 魔力を実体化させられれば、溢れ出る魔力もうまく制御できるのではないかという考えからである。


「当たれー!」


 私の叫びとともに赤い糸のような形をした魔力の糸が素早く伸びていく。


「闇雲に放っているように見えて、綿密に結界を形成しているな。悪くない」

「バレバレだったの!? くっ、まだ諦めたりしないんだから!」


 そのまま勢いで結界を発動させようとするが、兄様が指を一振りするだけで魔力の糸は全てざっくり切られてしまった。

 はらはらと地に落ちていき、跡形もなく消えてしまう。


「そ、そんな!」

「もう終わりか?」


 まずい、このままでは兄様に反撃されてしまう。

 急いで次なる秘密兵器をポケットから取り出し、魔術を発動させる。


「まだ終わりじゃないわ!」


 私が取り出したのは四枚の小さな長方形の札だ。

 

 ここに描かれている紋様に魔力を流し込めば魔術が作用する優れもので、自分の適性属性以外の魔術も発動できる。

 

 紙は光りながら火の玉へと変化し、兄様へと降り注ぐ。

 兄様はまさか私が火属性の魔術を使うなんて思ってもいないだろう。

 これはいけたはず……という確信を裏切るように、兄様は防御結界を発動させ全て打ち消してしまった。

 

「弱すぎる。槍でも振らせた方がマシだな」

「なんですって!」

「もっと考えて狙え。俺にだって弱点はあるんだ」

「え、あるんですか!? 教えて!」

「眼球とか、脛とか……? いや、俺に聞くなよ」


 目と脛が同等に並ぶ理由がよく分からないが、兄様本人から聞き出すのは難しそうだった。

 

「くっ、こうなれば奥の手!」


 次の魔導具を取り出そうとすれば、兄様が呆れたような声を出す。

 

「おい、お前道具に頼りすぎじゃないか」

「か、勝てばそれでいいんです!」


 こうでもしなければ勝てないのだから仕方がない。

 道具は全部借り物とはいえ、それを上手く使うのだって私の実力のうちだ。


「お望み通り、槍を降らせてみせるわ!」


 先程の札と似たようなものだが、今度は違う。

 私が掲げるとすぐさま光りながら飾りの付いた長槍へと変化した。


「風のように空高く!」


 浮遊魔術で飛び上がると、長槍を空へと掲げる。


「天よ、我が怒りを聞きたまえ! 全てを焼き尽くす光を我が手に!」


 その瞬間、長槍の飾りにある宝石が白く光始める。


「彗星の如く、光り輝け――――!」


 すかさず魔力を込め続ければ光が強くなり、溢れんばかりに光線が放たれる。

 眩しくて目を閉じそうになるが、それでも必死に槍を掲げ続けた。


「待て、それ以上は……!」


 兄様の声が聞こえる。私の攻撃は兄様に届いたのだろうか。

 それを確認する前に、私の視界は真っ白に包まれてしまった。


「お嬢様!」


 エレナの叫び声が聞こえる。

 まだやれるはずなのに、全身に力が入らない。

 

 倒れる……そう気づいた時には、既に体は傾いていた。

 

 だが、私の体が地面に叩きつけられることは無かった。


「マーガレット!」


 私を受け止めてくれたのは、兄様だった。

 重いだろうに、降ろしてくれと言おうとしても口がなかなかうごかない。


 私を優しく包んでいる兄様の体は、なんだか分厚くて硬くて、とても大きかった。

 

 それに、昔と違ってなんだか甘い香りがする。

 大きくなってから兄様に抱きしめてもらったのは、これが初めてだったと気づいた。


「無事か!? 今治療を……」


 いつになく焦った兄様の声が聞こえる。


「にい、さま……」


 ようやく口が動いたが、目の前はちかちかしていて兄様の顔が見えない。

 それに、何故か強烈なまでの眠気を感じている。

 まるで、お腹いっぱいご飯を食べた後、お昼寝をしたくなった時のような……。

 

「マーガレット!」

「ねむい……」

「は!?」


 兄様の腕の中があまりに心地よいものだから、私はそのまま眠ることにした。

 もう何も考えられない。

 起きた時、兄様にちゃんと謝らなければ。

 そう思いつつ、私は夢の国へと旅立った。




「寝た、のか……?」

「寝てますね」

「魔力の使いすぎですね。すぐに目を覚ますでしょうかや、仮眠用のベッドを貸してあげます」

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